感謝の気持ち。
何だか、今日はおかしい。
通い慣れたはずの、学校側から指定されている、いつもの通学路から大幅に外れ範囲外の方向にある繁華街の歩道。
そこを足取りが重そうに・・・何とか進んでいるようにも見える。
そんな女子高生の姿があった。
こんなはずでは、なかったのだが。
・・・一体、どうしてしまったのだろうか?
自分は、何故・・・こんな道を歩いているのだろう。
頭と足がいつもより重い気がする。
例えれば、頭に鉄の帽子・・・そして、足には鉄の足枷が付いている・・・そんな感じだ。
どうして?
と自分に問いかけてみる。
あぁ、そうだった。
何故か今朝から、微熱がしていて・・・母に止めれたが、振り切り意地を張って学校へ行ったのだ。
一応、授業は全部受けたが・・・やはり最後の部活は無理だったらしい。
気分が悪い・・・熱っぽい・・・そう自覚はあったのだが。
上手く頭も身体も動かない。
いや、言うことを聞かないと云った方が正しいのであろう。
そのため、結局のところ早退・・・を余儀なくされた。
友人・親友・・・担当の先生にも迷惑をかけてしまった。
あの時、母の言うことを聞いていれば良かった。
やはり、まだ、子供・・・なのだろう。
何も成長していない。
意地っ張りの――・・・。
「ホント・・・バカみたい・・・」
そう、口から毀れてきた言葉のせいなのか、急に情けなく、恥ずかしくなり涙が溢れてくる。
体調が万全だったら・・・こんな事で泣きはしないだろうが。
だが、こんな人通りが多い場所で立ち止まってはいられない。
そう思い、は、辺りをキョロキョロと見回す。
と、ある一定の位置で視線を止める。
それは・・・数メートル先に見つけた、如何にも狭く、薄暗そうな路地。
その路地に入ろうと、扉が開く度に大きく響いてくる音がするパチンコ店を横切る。
隣りに接しているパチンコ店なら、少しぐらい声を出して泣いたとしても掻き消してくれるだろう。
そう思っての行動だった。
そうして、路地に入り、数歩進んだ所。
足を止め、表通りに背を向けた状態で、泣く準備をしようとした。
と、その時。
ふいに、横に面している・・・パチンコ店の裏口であろう、ドアから元気のある・・・聞き慣れた声がの耳に届く。
「・・・それじゃー、お疲れ様ですっ」
挨拶をして、パタンっと戸を静かに閉める青年。
・・・しかし、今のは体調が思わしくないのだ。
・・・もしかしたら、見知らぬ人・・・自分のよく知っている人物とは違うかもしれない。
多分、それならば、無視するだろう。
こんな・・・ワケの分からない女子高生なんか。
そう考えながら、は人がもう1人、通れるぐらい道を空けるべく壁側に寄る。
ヒンヤリとしたコンクリートの壁が心地良い。
両目を伏せ、青年が通り過ぎるのを待つ。
暫くして、足音が近づき、このまま行ってくれるだろうと思ったが。
「・・・ん?もしかして・・・?」
その青年の声に、ゆっくり目を開く。
だが・・・此処は薄暗く狭い路地。
このため、青年の見間違い・・・人違いをしている可能性だってあるのだ。
しかし、自分の名前を呼ばれたのは、また事実で。
「あの・・・」
重い口を何とか動かす。
・・・あぁ、口まで重く感じる。
青年は、立ち止まったまま此方をじっと見つめている。
「・・・何か?」
何処かで見たことでもあるのだろうか?
知っている人にでも、似ているのだろうか?
それとも・・・?
具合が悪いせいか、視野が狭くなっているため、は青年の顔まで見る余裕はなかった。
「―――・・・ちょっと、悪い」
こう言うと同時に、グイッと腕を引っ張られ明るい表通りに連れ出されてしまう。
一瞬のことで、抵抗する間もなかった。
「・・・お、やっぱり!さ!!・・・どうしたんさ?こんなトコロで」
掴んでいた手を、直ぐ離して・・・青年は不思議な顔をする。
口調には特徴が有り、耳にはピアス、髪にはヘアバンド・・・そして片方の目には眼帯。
「えっ!?・・・ら、ラビ??」
何故、こんな所で働いているのか?
・・・と云う疑問よりも、この場所で会えたことに、ただ、ただ、驚くだけだった。
「んっ。そうさ。・・・しっかし、珍しいこともあるもんだなァ」
そう言って、ラビと呼ばれた青年は明るい表情を見せる。
昔から、小さい頃から知っている馴染みの顔。
怒ると、とても怖いが・・・その反対に、やっぱり同じぐらいの優しさを持つ人。
仲間思いで・・・自分の考えを持って行動出来る人。
・・・そして――・・・の大切な人。
「ラビ・・・」
は安心してしまったのか、力が抜けてしまい・・・ポスンッとラビの胸に顔を埋めた。
「・・・って、ぉわ!?」
予想もしていなかったの行動に、目を見開いてビックリしてしまう。
しかし、の様子に違和感を覚えたらしく。
「・・・どした?何かあったのか?」
こう言うと、の両肩を優しく掴んで、顔が見えるように、ほんの少し離してみる。
「う、ううん。何か・・・なんてない・・・よ?」
必死に笑顔を作ろうとするが、思うように身体が動かない。
小さく・・・呟くように声を出すのが精一杯だ。
「・・・」
触れている・・・身体が小刻みに震えているのが感じられた。
それと同時に、頬も赤みが帯びているようにも見える。
それだけなら、まだいいが。
「・・・どうしたの?」
やはり、話し方が・・・やっと、その小さな口を開いているようだ。
とろんとして、まるでそのまま瞼が閉じてしまいそうな目をしている。
そうだ。こんな時は――・・・だいたい。
「――・・・バカヤロ」
そう小さく静かに呟く。
自分からの身体を離していたラビたが、今度は逆に、を引き寄せると・・・ぎゅっと強く抱き締めた。
「!?ら、ラビ?」
唐突に、抱き締められてしまったは、何が起こったのか把握出来ずに困惑してしまう。
「・・・何で、こんな身体で出て来たんだ?」
いつもと、変わらない声・・・のはずなのだが。
「・・・ごめん・・・なさい」
何故だか、怖くなってきてしまう。
怒られると思い、先に謝ったワケではない・・・自然に口から出てきて来てしまったのだ。
「誰も、謝れとは言ってないけどさっ?」
そう、ラビは息を軽く吐くと、再びを自分から引き離し、こう言葉を続けた。
「どうして、こんな所に居るんだよ?通学路じゃないだろ」
の顔を覗き込むようにして、ゆっくり・・・そして優しく聞いてみる。
「・・・どうして・・・かな?」
そうなのだ。
そもそも、理由なんてものは無く。
ただ、自然にこの繁華街に向いていた。
足が勝手に動いていたのだ。
自分でも不思議に思う。
気付いたら、この歩道に入っていて。
子供の・・・自分が情けなく思い、狭く薄暗い路地で泣こうとしていた・・・。
勿論、ラビが働いていることは全く知らなかったのだから。
ワザとこの繁華街に居たワケではないのは確かだ。
「んー・・・。こりゃ、重症だな」
おぼつか無い喋り方の。
そんな彼女を見て“やれやれ”と付け加えて、半ば呆れたような表情で肩を竦めてみせるラビ。
「ご、ごめん・・・」
そのラビの言葉に、力なく項垂れるかのように俯く。
まともに、言い返せる気力さえ今はなく。
「謝んなっての。・・・まったく」
苦笑い混じりで、そう答えるラビ。
と、そこまでは良かったのだが。
突然、ラビがその場にしゃがみ込んだ・・・瞬間!
“よいせっと・・・”
掛け声をすると同時に、ひょいっと・・・軽々、を抱き上げた。
「え!ちょ・・・!?ラビ??」
先刻より、驚いてしまったは思わず、声を上げてしまう。
「そんなビックリすることねェだろ?もう、お決まりのパターンなんだしよ」
そのラビの台詞に、ハッとする。
忘れかけていた大事な記憶が甦ってきたのだ。
―――・・・そうだった。
よく、幼い頃・・・遊び先で怪我等した時・・・ラビに、こう・・・今のように抱っこして貰い家に帰った。
「うん・・・でも、ラビ・・・」
何だか、嬉しかったが、同時に恥ずかしいようにも感じた。
あの時は・・・まだ幼かったから・・・。
今は、もう身体も大人に近付いて来ている。
そんな自分を抱える、ラビに悪いような気がして。
“下ろして”と云おうとしたが。
「お前のことは、他の誰よりも知ってるからな。・・・だいたい、分かるぜ?」
この時、は、きゅっと胸が締め付けられたような感覚を覚える。
優しくも力強い・・・声。
「・・・あ、あのね!ラビに渡したいもの・・・あるんだ・・・けど。・・・先月のバレンタイン・・・会えなかったから」
途切れがちにだが、確実には言葉を繋げていく。
「そっか。・・・オレも・・・実はあるんだ」
そう返した、ラビも照れているらしく。
「え?・・・あ、そっか。明日、ホワイトデー・・・だもんね」
相手も照れてくると、自分も、より恥ずかしくなってくるもので。
「まーね。オレの方は、ちょっと早いけどさ」
こう言うと、先ほどより腕に力を込めて、の身体をしっかり・・・離さないように抱く。
「・・・ラビ・・・ありがと」
は、静かにラビの耳元に、そっと囁く・・・感謝の言葉。
いつも・・・本当に感謝してる―――・・・。
大好きだよ・・・ラビ。
E N D
メッセージ:はい、Dグレ・ラビ・・・ホワイトデー夢でした。微妙なラビですいません;
最後まで読んで下さってありがとうございました!本日から1週間・・・フリー配布にさせて頂きます。
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それでは、失礼致しました。配布期間、終了しましたv
2006.3.15.ゆうき
配布期間、終了しましたv
2006.3.28.ゆうき(※移動日)