ありふれた日常の中で ―MD−
そう、それは何ら変わらない・・・昼休みの教室。
定刻に弁当を済ませ、片付けをし、学校指定のバックに入れ戻す。
それまでは、いつも通りだったが、は特に何かを始めるわけでもなく、ただ教室内で話し合っている数人のクラスメイト達を見つめていた。
いや、勿論、には友と呼ばれる人物が、同性・異性関係なしに幅広く居るのだ。
だが、今日に限って、どういうわけか何か行動に起こす気にはなれないらしい。
それは、決して気分が乗らない・・・だけの小さな理由ではなく。
まぁ、無理矢理に、動こうとすれば動けるのではあるが。
・・・では、一体どういうことであろうか。
・・・それも、そのはず、実は、人を待っているのである。
そのわけか、先ほどから異様に自分の身に着けている腕時計と、室内に設置してある掛け時計を見比べては時間を気にしているようだ。
付け加えて、何処か落ち着かずソワソワしているようにも見えた。
しかし、待てどその人物は一向に姿を現さない。
それから程なくして予鈴がなる5分前となった。
もう、この時間だと無理だろうと諦めたのか、は息を軽く吐いて次の授業の支度をし始める。
徐徐に、休み時間内、校庭や中庭・図書室等に出掛けていたクラスメイト達が、自然と集まって来た。
こうして、次の科目に必要な物を出し終えた、そんな中。
教室の出入り口付近に立っていた男子が突然、声を上げる。
「おぉ!?神田ユウくんの登場だ!!」
その叫ばれた人物の名前に反応してか、一瞬にしてクラス全体の視線がに集中した。
そうなのだ。
の待ち人は、同級生で昔からの馴染みでもある神田ユウ。
ちなみに、部活も同じ弓道部所属である。黒髪・長髪ストレート・美男子
・・・な、ため学年だけではなく、学校内でも人気があるほど。
しかし、本人はにしか気がないらしい。
だが、どういうわけだか・・・クラス全体からは、と神田は付き合っている・・・
と勘違いされてしまっているようなのだ。
最初は、反発・・・言い返していただが、今はいちいち相手にするのも疲れるらしく。
もう、放って置いて勝手に言わせている状態。
だからなのか、本人は動揺する様子もなく平然としていた。
言い替えれば、場慣れしているようでもあった。
「〜!神田のダンナが来てるぜぃ!!」
その男子生徒は、に向かって叫ぶように声を大にした。
は、叫んだ生徒と廊下に居る神田の姿を一瞥して息を吐く。
一方の神田も、あまり気にしていない様子。
「はい、はい。分かってるよ」
こう答えて、席を立ち、廊下に繋がっている出入り口へ足を進ませる。
そして、扉で仕切られるようになっている教室の定位置で立ち止まり、神田との身長差を埋めようと顔を上げた瞬間。
「わぁ!?」
「お、オイ!?」
突然、後方からドンっと勢いよく何かに弾かれたかのように突き飛ばされ、は不意を突かれたの如く、今までの体勢を崩してしまう。
無論、余計な説明だが補足とすれば、と神田の両者は向かい合っていたため、の倒れかけた先は、神田の胸の中。
一瞬、何が起きたのか把握出来ずに倒れかけてを反射的に受け止め、神田は、室内でニヤニヤと意地悪く笑い合っている生徒達をギッと睨み付ける。
「し、失礼しました!ごゆっくり〜」
その眼力に恐れをなしたのか、を突き飛ばした男子生徒達は慌てふためき開放されていた扉をピシャッと閉めてしまった。
「・・・ご、ごめんね;ありがとう」
そう言うとは、顔を上げると苦笑して見せる。
「・・・お前が謝ることないだろ」
「でも、一応、うちのクラスだし・・・。神田も嫌だったんじゃない?私を受け止めるの・・・」
申し訳なさそうに見上げてくるから、視線を扉の方へ向ける。
「フン。あんな奴ら、いちいち気にしてたらきりがねェ。・・・嫌だったら、即刻避けてると思うが?」
質問に対して“愚問だな”とでも云うように、フッと小さく笑いと視線を合わせる神田。
「ご、ごもっともで・・・」
“敵わないなぁ〜”
と一人ごちながら、も、再び笑みを作って言葉を返した。
丁度、予鈴でもあるチャイムが学校全体に鳴り響く。
「あ、そうだ!例のMD持って来てくれた?」
それにハッとして焦せり始めたながらも、はっきりと正確に今回の用件でもあることを伝えた。
「あぁ。それなら、忘れずに持って来てやったぜ」
ピッと、学ランの内ポケットから取り出すと“これだろ?”と言って、確認も含めてに渡す。
「うん!ありがと。・・・どうだった?良かった??」
まるで子供のように目を輝かせて、聞いて来るに自然と愛らしさを感じてしまう。
「礼、言うほどじゃねェだろ。・・・まぁまぁだったな」
そんな自分が恥ずかしくなったのか、神田はから目線を外しそう答えた。
「そっか。なら、良かった!まだ、このグループの曲、他にもあるから・・・貸そうか?」
返事を聞いて、安心したのかは笑顔を見せ、他の音楽も勧めてみる。
「あぁ。・・・じゃあ、頼む」
神田としては、珍しいとも云えるだろう一つ返事。
神田が他人に頼むことは、まずない・・・ありえないのだが・・・やはり、其処は馴染みと云うものだろうか。
はたまた、に気があるからなのだろうか。
・・・まぁ、そういう話は追々、詳しくしていくとしよう。
「了解しました!神田ユウくん!!」
は元気よく片手を上げると、ビシッと敬礼をするような形を作り、微笑む。
「フルネームはやめろよ」
あまり、フルネームで呼ばれることを好まない神田は、少し呆れ顔になりながら、そう答えた。
この相手がではなかったら、思い切り怪訝な顔し睨む・・・ところだろう。
「はいはい。神田くん」
「“くん”もヤメロ」
そう微妙に、からかわれているようなそんな錯覚も覚えて、ある意味での、言い返す力を失くしてしまう神田。
「あはは。分かってるって。・・・じゃあ、そろそろ次の授業始まるから戻るね」
こう云うと、は腕時計で時間を確認する。
「あぁ、そうだな。俺はコムイの授業だ・・・」
呟くように吐き出される言葉。いつの間にやら、神田の顔はいつもの不機嫌な顔に戻っていた。
「それはそれは・・・。ご愁傷様です」
は軽く手を合わすと軽くお辞儀をした。勿論、冗談半分だ。
「・・・お前・・・本気で怒るぞ?」
それを分かっている神田だが、やはり頭に来たのか、声音を今までより低く落とすと、そう言い放った。
「はは。ごめんごめん。それじゃ、頑張ってよ」
両手を上げ、降参とでも云うように謝る。
「じゃ、また。部活でね」
こう言うと、は先刻、生徒達によって閉められてしまった扉を開けて教室へと入っていく。
「・・・あぁ。じゃあな」
そう返し、神田も自分のクラスに戻ろうと踵を返し、歩き出そうと一歩踏み出した、その瞬間!
バチンッ!バチンッ!!
と良い音が室内からするではないか。
その内、先ほどの男子生徒達の呻き声・謝罪の言葉・・・・
と同時に、の怒号が辺りに響き渡る・・・
それまで賑やかだった教室も一変。
まるで、人が1人も居ないような静寂に包まれるのだった。
ある意味、本当に自分が居なくてもは平気なんじゃないだろうか?
と改めて感じてしまう神田であった。
まぁ、いざとなったらその時は俺が――――・・・。
E N D
メッセージ:合同企画の第二弾・神田夢です。すいません・・・微妙な夢で;
初なんで・・・勘弁して下さい;今回は、ほのぼのですが、ちょっとさっぱり系ですね。
後、最後はギャグ・・・と云うことで。最強ヒロイン・・・ですね;
ご意見・ご感想などありましたら、BBSまで。
2005.12.16.ゆうき