君と一緒に・・・ NO.61 飛行機雲
朝の光りが、カーテンの隙間から優しく射し込む中。
白く、まだ真新しい絹のようなシーツの上に、その陽射しを反射するかの如く、キラキラと金の長い髪が輝いている。
それは、他の誰でもなく。
は、静かに自分の身を起こすと、手元にある小型の目覚まし時計で現在の時刻を確認する。
そして、また、その隣りで寝息をたてているエドワードには目を向けた。
もう、あの下宿し始めた頃から9年は経過している。
同時に、小柄で可愛らしいイメージが強かったエドワードだが、もう身体つきは、しっかりし、背も大分伸び、1人前の大人へと成長していた。
だが、寝顔は何処かあどけなさを残しているようにも見える。
そんなエドワードを見て、は柔らかく微笑むと身支度をし、キッチンに立つ。
そうなのだ、数日前からとエドワードは、二人っきりの同棲生活をし始めたのだ。
勿論、の両親、エドワードの方は親代わりとなっている知り合いの公認の元でだ。
ただの同棲・・・と云うカタチではなく、結婚ということを含め、暮らすことになったのだった。
暫くして、自然にエドワードも目を覚ます。
と、丁度良く、エドワードを起こそうと、扉を開けて入ってきたは、そのサラサラと流れる金髪と、すっきりした顔立ちに見惚れてしまう。
「お、はよ。・・・どうかしたか?」
何か一点を見つめているを、不思議に思ったのかエドワードは首を傾げる。
「・・・あ。おっ、おはよ」
は、ハッと我に返ると焦りながらも挨拶をし、“何でもない”と付け加えた。
「そうか?――――ならいいけど」
少し、を気にしながらも前髪をかき上げ、エドワードは、その場に立ち上がる。
その、すらっとした背格好に、は再び瞳を奪われてしまうのだった。
「・・・?」
今度は、ぴくりとも反応しない。
そんなが心配になり、エドワードは扉の近く・・・の傍まで足を進め、声をかける。
「―――・・・大丈夫か?」
その肩に、優しく手を置いて、もう1度、声をかけてみる。
「・・・え!?あっ。だ、大丈夫だよ」
少し間が空き、は慌てて答えた。
いつの間にやら、エドワードの顔が間近にある・・・それにも、驚いてしまったようだ。
「そうか・・・それならいいんだ」
「う、うん。ごめんね」
の反応に、エドワードはホッとしたようで、肩から手を離し、少し間隔を取るために一歩後ろへと退いた。
の両頬が赤みを帯びているのは・・・気のせいだろうか。
「エド・・・」
そう呟くように・・・小さく名前を呼べば。
「・・・何だよ?」
と、優しく返ってくる。
その嬉しさと、愛しい声には思わず涙が毀れそうになってしまう。
そのため、必死で堪えよう、隠そうとし、顔を下げて俯く。
「・・・」
すっと、エドワードの両の腕が、繊細で尚且つの細い腰に回ってくる。
そして、静かに自分の方へとの身体を引き寄せ・・・抱きしめる。
「えっ、エド・・・!?」
金色の髪がの鼻をくすぐり、その広く、温かな胸に顔を寄せるカタチになった。
「前より、近くにいることが出来るんだな。オレ・・・」
「・・・うん」
は、エドワードのその行動に何の抵抗することなく。
静かに1回だけ頷いた。
「こうして、お前を抱き締めていて実感するんだ・・・。オレはお前が大切で・・・愛しくて堪らない」
「エド・・・」
顔を上げる。自然に、エドワードと目が合う。
「オレには、・・・お前が必要だ。・・・だから、――・・・」
左腕は、腰に回したままの状態で、右手をの首筋に持っていく。
そして、触れ・・・ぴくっと敏感に、が反応する。
「怖くはないからな?」
「う、うん・・・」
それから、互いに唇を重ね・・・合わせようとした
その瞬間!
聞き覚えがあるメロディが、耳に入ってくる。
それは、エドワードの携帯から・・・。
少し、苛立ちながらも、コンパクトなテーブルに置いてある携帯を拾い上げ、通話可能にする。
『あ、兄さん!?』
聞き慣れた声が、向こう側から聞こえてくる。
「―――・・・何だよ?アルか・・・」
はぁーっと、思い切りワザとらしく、大きく息を付いてみせるエドワード。
『何だよ、アルか・・・じゃないだろ!?今日、何があるか分かってる!?』
珍しく、何かに対して怒っている様子の・・・アルフォンス。その意味が分からずにいるエドワード。
「―――んだよ。今日、何が―――・・・!!」
と、途中まで鬱陶しそうに答えていたエドワードが・・・
何かを思い出したらしく、その場に固まってしまう。
『そうだよ。今日は、うちの大学で講習する教授のお手伝いをする・・・大事な日だよ』
半ば、呆れた様子でアルフォンスは、兄にそう教える。
「・・・ ・・・」
『まったく!それは、さんも大切だろうけど、こっちも大事なんだから!忘れちゃ困るよ!?』
「・・・わ、わーってるよ」
アルフォンスに釘を刺され、先刻まで、を抱いていたことに恥ずかしくなり焦ってしまう。
まだ、自分の両手に、の温度と肌の感触が残っているような気がして、どうも落ち着かない。
『じゃあ、正門で待ってるからさ』
「お、おう。わかったよ、アル」
一応、カタチだけでも、落ち着いているように答えるエドワード。
『・・・あまり、時間がないから、出来るだけ急いで来てね!』
「あぁ。―――じゃあ、サンキュ」
そう言って一旦、切る。
それからエドワードは、軽く息をつき携帯をマナーモードに設定し、テーブルの上に一時置く。
「エド?出掛けるの?」
どうやら、2人の電話の内容が少し把握出来たようで、はこう問いかけた。
「――・・・あぁ。講習の手伝い、引き受けてんの忘れてたわ」
そう苦笑い混じりで、エドワードは返した。
「そうなの?じゃあ、早く行かないといけないんじゃないの?」
「じゃあ・・・そうする」
少し、心配そうに見つめるに、柔らかい表情で見つめ返して、身支度を整えるエドワード。
そうして、上着を羽織って、玄関の出入り口に向かう。
「ご飯は?」
「んー。どっかで簡単に済ませるから」
「・・・そっか」
と、エドワードの返事に、元気なく項垂れるように、そう一言だけ呟く。
「――――・・・悪いな」
「ううん!今日は、早く帰って来れそう?」
エドワードの方も、すまなそうにそう答えるが。
は首を左右に振って、エドワードを見上げた。
「あぁ」
エドワードは、見上げてくるの頬に優しく触れ、それから力強く頷いてみせた。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
は、エドワードの行為に照れながらも、満面の笑顔を向ける。
「おう、行ってくる」
そして、靴を履き、玄関を出て行こうとドアノブに手をかけ・・・振り返る。
「・・・忘れもの」
「えっ!?」
そう言うと、エドワードはに軽く口付けをした。
「今夜は、覚悟してろよ?」
不敵な笑みを浮かべると、踵を返して玄関を出て行く。
ぽつんっと、1人、はその場に残されてしまうのだった。
外へ出たエドワードは、真っ青の澄んだ空に、2本の飛行機雲が描かれているのが目に入る・・・
それを静かに暫くの間、見上げていた。
仲良く、平行に、何処までも続く―――――・・・。
E N D
メッセージ****
王道夢企画、エド夢でした。
最後まで読んで下さってありがとうございました。お楽しみ戴けましたら幸いです。
2005.4.16.ゆうき