僕は、此処に・・・。
そう此処は、エクソシスト達が集う(1部の人間を除く)黒の教団本部。
与えられた自分の個室で、アレンは今日も、いつもと変わらない、清々しい朝を迎える。
科学班・室長であるコムイからの、本日の指令・任務を念頭に置いて、身支度を済ませ、部屋を後にする。
しかし、部屋を出て、数歩した所でアレンは、ふいに足を止める。
何か、はっきりとはしないが、心に違和感を覚えた。
まるで、靄や霧がかかって、まったく先が見えないようで、決して気持ち良くはないものだ。
それが、任務の件なのか、他の出来事に対するものなのか、その時のアレンには、まだ分からなかった。
だが、こうして、立ち止まっていても何も始まらないはずがないと、考えたアレンは、今の目的の場所である、食堂へと足を進めた。
そうして、食堂でいつものように、料理長である、ジュリーに何種類か色々と注文し、一旦、近くの席につく。
回りも、段々と人が増えてきた。
一通り、見渡してから、早めに来ておいて良かったなと思い、アレンは息をつく。
暫らくして、ジュリーの呼ぶ声がし、アレンは朝食を取りに足を運ぶ。
それを持って再び、席につき、一息ついてから、フォークを手に取った時。
「おはよう、アレンくん」
と突然、空気が通るような綺麗な声がアレンの耳に届く。
「あっ、おはようございます!さん」
その思ってもみなかった人物の登場に、驚き、少し戸惑いながらも、アレンは、救護班・副班長を任されている・にしっかりと挨拶を返した。
「えっと・・・此処いいかしら?」
遠慮がちに、控えめな声で、はアレンの隣りを指で示す。
「あっ。はいっ、どうぞ」
そう言って、アレンは、少し慌てながら置いてあった朝食を横にずらし、スペースを空ける。
「・・・ありがとう」
は、アレンに優しい笑顔を向けると、腰を下ろして席につく。
その時、また、アレンの頭の中を1つの不安が過ぎった。
"何なのだろうか・・・一体・・・。それに、さんの顔色が、あまり良くないようにも見えるし・・・"
顔を顰めて、黙り込んでしまったアレンを、不審に思ったは、静かに声をかけてみる。
「どうかした?アレンくん?」
「―――・・・えっ?」
少し間を置いて、アレンは驚いたように、顔を向ける。
アレンの双眸に、心配そうな表情で此方を見ているの姿が映った。
「手が止まってたし、何か考え込んでいるようにも見えたから・・・」
「えっ、あっ・・・だっ、大丈夫です」
そう苦笑混じりで、焦りながら両の手を左右に振って答える、アレン。
それから、何事もなかったように、料理を口に運んでいく。
「・・・―――そう。なら良いんだけど」
その様子に、ふうと吐息し、もまた朝食を食べ始めることにした。
「・・・はい、すいません」
思わず、アレンはそう謝ってしまう。
逆に、自分が心配をかけさせてしまったようで、情けなくもなってしまった。
「謝ることは、ないわよ。具合が悪かったら、早く言ってね。それじゃないと、此方としても困るしね」
「はい。分かりました」
柔らかい口調で話し掛ける。
その言葉を嬉しく思い、アレンは笑ってみせたのだった。
それから、少し経った頃。
「――っと。じゃあ、私、そろそろ・・・」
「えっ!?もう戻るんですか?」
は、持っていたフォークを置いて、ゆっくりと立ち上がる。
食べ始めてから、あまり経っていないように感じ、アレンは思わず声を上げてしまった。
少し、残ってしまっている朝食を横目で見ながら、顔色が良いとは云えないの横顔に目を向ける。
「うん。ちょっと、今朝は忙しいよ。急患が運ばれてきてね・・・」
「―――そうだったんですか・・・」
は、アレンと視線を合わせると、肩を竦めて、そう答えた。
「そうなの。・・・ごめんね、アレンくん。また、今度、ゆっくりと何か明るい話でもしながら食べましょうね」
「はっ、はい」
笑顔でこう言って、は踵を返し、歩き出そうと足を一歩、踏み出した...その瞬間!
「!!??・・・さんっ?!」
は、一瞬、自分に何が起きたか把握出来なかった。
それは、間近で見ていたアレンも同様だ。
ただ、目の前がグラッと歪んだかと思うと、一気に自分の力が失われていく感覚に襲われ、はその場に倒れそうになってしまう。
慌てて、アレンが、あやおく倒れ込みそうになったを支える。
アレンの声が食堂中に響き渡り、捜索隊は勿論、丁度良く、注文をしていた神田と、それを受けていた料理長である、ジュリーが何事かと思い、急いで駆けつけてきた。
「・・・おいっ!?どうした?」
何事も冷静で、人には無関心と言った方が正しい、何処か近寄りがたい神田としては、珍しい行動だった。
しかし、今はそんなことでない。
「まぁっ!?ちゃん!顔色、真っ青じゃない!?」
ジュリーも驚いて、思わず声を上げてしまう。
「さんっ!?」
もう1度、アレンは、気を失いかけているに呼び掛けてみる。
そうだ、あの時の違和感、不安・・・はこのことだったのか・・・。そのことを改めて、認識する。
「・・・あっ、ごめん。大丈夫。これくらい、どうってことないから・・・気にしないで・・・」
『ちょっと、疲れが出たんだと思うのよ・・・ありがとうね、アレンくん』
と無理矢理に、微笑みを作ってみせる。
そして、その場から立ち上がろうと身を起そうとしたが。
「ちょっ・・・アレンくん!?」
アレンは、そのままを軽々と持ち上げ、横抱き(要は、お姫様抱っこ)にして歩き出したのだ。
唐突なアレンの行動に、酷く驚いてしまう。
「此処からだと、何処の個室が1番早いですか?」
一度、足を止めアレンは、振り返らずに、そうジュリー達に問う。
「そっ、そうね・・・」
「救護班・・・・控え室が1番早いぜ」
ジュリーが答えようと、口を開きかけたが、それより先に、神田がそう言った。
「あっ、ありがとう。神田」
「―――・・・お前のためじゃない」
こう言って、神田はふいっと背を向ける。
「―――わかってますよ」
「・・・なら、早く行け」
呟くように、だが、しっかりと神田は返事を返した。
「はい」
アレンは、神田のに対する優しさを背で感じながら、再び歩き始めた。
食堂を出て、次の階へと続く階段を上り、言われた通り、救護班・控え室を目指す。
「アレンくん!?下ろして。大丈夫だって言ってるでしょう!」
異性に抱かれたことが、全くと言っていいほどなかったは、恥ずかしくなり、アレンに向かって声を張り上げる。
「―――・・・大丈夫に見えないから、こうしているんじゃないですか」
「・・・うっ」
いつになく、アレンのはっきりとした、男らしい物言いには、言葉を詰まらせてしまう。
そうして、二人は神田から聞いた救護班の控え室に着く。
アレンは、部屋の奥にあった簡易ベットに、を横にさせると、近くにあった毛布をかけてやりながら、こう言った。
「僕達の心配より、自分の身体の心配をして下さい」
「・・・はい」
アレンの言葉に、しゅんっと力なく項垂れる。
「さんを、必要としている人は沢山いるんですから」
「・・・ ・・・」
真剣な表情を崩さず、アレンは、淡々と言葉を続ける。そんなアレンを、は黙って見ていた。
「それに―――・・・」
と区切って、軽く息を吐く。
「?アレンくん?」
アレンのその様子に、不思議を感じたは小さく声を出してみた。
「・・・それに、さんの代わりになれる人は1人もいないんです。だから―――・・・自分をもっと大切にして下さい」
「ありがとう、アレンくん」
の満面の笑みに、ハッとし、自分の発言が恥ずかしく思えて、アレンは思わず俯いてしまった。
「いっ、いいえ!」
また、言われた本人も、言った方も少し、頬が赤くなり照れているようにも見えるのだった。
「・・・ねぇ、アレンくん」
「はい?」
自分の名を呼ばれ、アレンは顔を上げる。
「もう少し―――・・・」
「はい。僕は、此処にいますから、さんの傍にいますから・・・安心して休んで下さい」
を安心させるべく、柔らかな表情で、アレンはそう静かに答えた。
「本当に、ありがとう」
「いいえ。それじゃあ、おやすみなさい」
「―――・・・おやすみなさい」
そう言って、はゆっくりと目を閉じ、眠りについた。
出来るだけ・・・出来る限り、貴女の傍にいます―――・・・。
だから、今は―――・・・。
これは、余談になってしまうが・・・
室長の個室では、なかなか、姿を見せないアレンを心配し、コムイは任務で呼んでいた神田に聞いてみた。
「あれ?アレンくんは・・・?」
「あぁ、モヤシ・・・あいつなら、今日は風邪引いて動けないらしい」
すっぱりと、言い切ってみせる神田。
「大丈夫なのかい?」
「―――・・・多分な」
「・・・多分って」
"―――っ!何で、俺があいつのフォローしなきゃならねぇんだ!?"
と心の中で叫びながら、任務へ出掛ける神田の姿があった。
E N D
メッセージ:はい、久しぶりのDグレ・アレン夢でした。ありきたりで、すいません;;
最後まで読んで下さってありがとうございました!御感想などありましたら、BBSまで、頂けると嬉しいです。
2004.12.14.ゆうき