軍部
それは、何気ないこの一言から始まった・・・。その日の空はよく晴れ渡り、澄みきっている。
そんな正午前の、ちょっとした休憩時間。いつものように、東方司令部の面々は、楽しく雑談などをしていた時。
少尉という位いに就いている、くわえ煙草がトレード・マークのハボックが、こんなことを口にした。
「そういえば、大佐は准尉のこと、どう想ってるんだろうな?」
中央勤務で、現在、軍法会議所を任されていて、中佐であるヒューズの仕事を補佐する役割を担っている准尉の・。
彼女は、中央の内情やヒューズの使いで、此処、東方司令部に足を運んでいる。
月によっては、頻繁に出入りすることもあるようだ。
銃の使い手であり、大佐であるロイの片腕として、仕事をこなしている中尉のホークアイとは、正反対の性格を持っている。
そんな彼女に、好意を寄せている者達も少なくはなかった。
そのため、此処の司令官である、ロイ・マスタングは彼女のことを、どう想っているのだろうか。
他の者達と比べても、彼がと接している時間が長いのは確かだ。
色々なおかしな噂も、飛び交っているようだ。
『准尉とホークアイ中尉の、どちらを取るのか?』や『大佐は、准尉に対して非常に優しい』など。
それこそ、1つ1つ、この噂を気にしていたら、キリがないくらいだ。
ここ最近になってだが、『どうやら、大佐は准尉に対して本気らしい』と云う声まで、出てきている。
そうなると、やはり、ロイ本人に確かめにいかなければならない。
真実は、どうなのかを。
「そうですね。少し、気になりますね」
この四人の中で、一番小柄な曹長のフュリーが答える。
「・・・気になると云ったら、気になるな」
うんうん、と頷いているのは、体格ががっちりしている、少尉のブレダ。
「本当のところは、どうなんでしょうな」
ブレダとは反対に、細めの身体つきで長身の、准尉、ファルマンも受け答えする。
少し間が空き、4人は同意の上、司令室へ向かうことにした。
どうでもいい事だが、何故、東方司令部は、回りに噂などが広まるのが早いのだろう。
かつて、ハボックの一言で、エドワード(鋼)対ロイ(焔)の国家錬金術師対決が、実現してしまったように。
実現する確率でも高いのだろうか・・・?
司令室の丁度、数歩手前で、今日の用件を済ませたらしく、が部屋から出てくるところだった。
「あら?皆さん、御揃いで。マスタング大佐に御用事ですか?」
4人に気付くと、ふわっと柔らかい微笑みを向けて、声をかける。
「えっ、あっ。あぁ、そのようなものです」
戸惑いながら、フュリーが、そう答えた。
「准尉は、もう中央に戻るんっスか?」
だいたいの用事が終われば、すぐにでも、中央に戻らなくてはならないに、ハボックがこう問う。
「いえ、お昼を済ませてから戻らせて頂くつもりです」
"今日は、ホークアイ中尉とお昼の約束をしているので"
"では、失礼します"と軽く頭を下げて去っていく。
その後ろ姿を、静かに見送る男4人。
どうやら、は、ホークアイと仲が良いらしい。
これは・・・やはり大佐に聞かなくては・・・!!
と、変な好奇心が生まれ、ハボックらは、お互い頷き合うと、ロイが仕事をしているであろう、司令室に入っていく。
「「「「失礼します」」」」
唐突に、何の前触れもなく、入室してきた男共に、東方司令部の司令官を務めている要めの人物、ロイ・マスタングは、訝しげな表情を向ける。
「何か用か?」
静かに、そう一言だけ告げると、山積みになっている書類に視線を戻し、その1枚を手にとる。
「「「「・・・ ・・・」」」」
「・・・何か用なのか、と聞いている」
沈黙してしまった4人に、もう一度訊ねる。
無理もない、言い出しっぺのハボックが、話を切り出すことだと他の3人は思っていたのだから。
「あっ、大した用ではないんですけど」
ややあって、口を開くハボック。さて、どういう風に言い出そうか。と頭の中で考えてみる。
「・・・大した用でなければ、手短かに話せ」
ロイは、少し苛立ちを感じ、持っていたペンを置き、手を休めて4人を見る。
「あっ、あのぅ・・・」
どう言ったらいいのか、フュリーは真剣に迷ってしまう。
「大佐に、少しばかり聞きたいことがあるんですよ」
困惑気味のフュリーを見かねて、ハボックが一歩前へ出る。
「?私に聞きたいこととは何だ?」
一体、何を聞きたいというのか。ロイは、4人の言動に違和感を覚えた。
「准尉のことですが・・・」
「准尉が、どうした?」
の名を出した途端、ロイの表情は真剣なものに一変した。
ファルマンに続き、ハボックが、こう投げかけた。
「大佐は、准尉のことをどう想っているかと思いましてね」
「・・・どう、と云うのは、どういうことだ?」
目を細め、ロイは、睨むようにハボックを見返す。
どうやら、また、下らない噂話に乗せられたのかと確信するが、一応、そんなことで動揺を見せるつもりも、答える気もない。
「だから、本気なのか、そうではないかを」
ハボックら、聞き手側も、動揺や焦った様子を表わさなかった。いつもの口調で話し続ける。
「―――・・・そんなこと聞いて、どうする?」
何の得になると云うのだ。
ロイは軽く息をつき、4人と視線を外すと、再び、ペンを持ち、止めていた仕事を再開させる。
そうすれば、諦めて退室でもしてくれるかと、そう思ったが。
「いえ、別にどうも思ってないのでしたら・・・」
「・・・?」
少し、顔を上げ、ハボックを見る。
・・・気のせいかもしれないが、笑って・・・喜んでいるような気がした。
「付き合わせて貰おうかな、と思うんですけど?」
その言葉に、ピクッ。と、ロイの指先が反応した。もう1度、軽くだが睨む。
「誰とだ?」
「勿論、准尉とですよ。今、丁度、フリーですからね〜」
飄々とした、いつもの態度で答えるハボック。
この態度で、上官からの評判は悪かったりもする。しかし、部下からは、慕われているのだ。
「准尉なら、亭主関白でいられそうですな」
ハボックの後に、ふむふむと首を縦に振り、頷いているのはファルマンである。
「あぁ、ブラックハヤテ号も、准尉に貰ってもらった方が幸せだったような気がします」
はぁ〜と、長い溜め息をつき、フュリーは、遠い目を向ける。
別に中尉でも構わなかったのだが、目の前で、子犬に発砲する(勿論、しつけとしてだが。)のを目にしてしまい、心の内で後悔をしてしまったのだった。
あの時は、誰もが思っただろう・・・中尉は最強だと。
「准尉は、きっと良いお嫁さんになるんじゃないですかー?」
ロイと、目を合わせ、ブレダはこう言った。
「本当に、大佐。准尉のことは、どうとも思ってませんか?」
「・・・ ・・・」
口々に、こう好き勝手言われては、腹が立つのも無理はない。
それに、普通に付き合っていては日が暮れてしまう。
ガタンッ。と音をさせ、席を立つと、ロイは無言のまま、出入口である扉に向かって歩き出す。
「あっ、大佐!逃げるんですねー!?本当に俺が貰っちゃいますよ〜」
横から、ハボックが口を出してくる。
「逃げるわけではない。・・・そんなこと決まっているだろう」
一息ついて、そう答えるとロイは何かに気付いたらしく、扉から数歩引き下がる。
四人は、皆、顔を見合わせ、ロイの次の行動を待った。
そして―――。
コンコンコンッ。
と三回、ノックが聞こえ、ガチャリとノブが回り、入って来たのは・・・
「失礼します。大佐、先ほどのことで、もう一度―――」
「「「「・・・ ・・・」」」」
「あら?皆さん、どうしました?」
突然のことに、口を半開きにして驚いているハボックらを見て、は目をパチクリさせ不思議そうな顔をする。
そんなに、ロイは優しく、笑顔でこう言った。
「あぁ、君は気にしなくていい」
「あっ、それで、この件なんですが、もう一度、確認をと思いまして」
小脇に抱えいた書類の一部を差し出す。
ロイは、すっと、の手から、受け取ると目を通して考える。
「ふむ。そのことか。・・・で?お前達は、いつまで此処にいる気なんだ?」
ロイは棒立ちに近いカタチで、その場に立ち尽くしている四人をきつく睨む。
「「「「・・・しっ、失礼しました!!」」」」
焦りながらも、敬礼をし、その後ろの扉から慌てて出ていくハボックら四人。
そして、ハボックが最後に出ていこうとしたと同時に・・・ふいに、ロイが声をかけた。
「ハボック!」
「はっ。なっ、何でしょうか?」
と恐る恐るハボックは、振り返る。
そこには、不敵な笑みを浮かべるロイの姿があった。
「・・・出来るものなら、やってみろ」
「・・・」
直訳すると『私から、をとれるものならとってみろ』そういうことだ。
その後、軍部内ではおかしな噂は途絶えたらしい。
E N D
あとがき・・・。
はい、お初のロイ大佐ドリームです。半分ギャグ・・・入ってますね。
と云いますか、からかわれる大佐;友人のリクエストなんですよ。
提案とも言いますけどね。『こんな感じの見てみたい』との御意見を貰いまして。
えっと、皆様に気に入って頂けると、とても嬉しいのですが;
書いていて、楽しかったですv御感想、御意見など、ありましたら、BBSかメールフォームにて。
気に入って頂けましたら、是非とも拍手ボタンを押してやって下さい。お願い致しますね。
それでは、失礼致します。
2004.5.21.ゆうき