そう・・・決して、面倒くさいワケではなくて。
化粧自体するのが嫌いなワケじゃない。
だけど・・・そう、出来れば、大切な、大事な、大好きな貴方の前では、素顔でいたいから。
私の素顔を見ていて欲しいから。
ありのままの自分の・・・この顔と姿を――――・・・。
a real face ― 素顔 ―
いつもの帰り道、いつもの時間で、歩き慣れたこの通学路を、進学校で有名な榠架高に現在、1年で、在学中のエドワードと、その背向かいに建てられている、ライバル校の蓮妃女子高、2年のは、二人仲良く下校していた。
どちら共、個々の部活に所属しているために、だいたいの日は、帰りが遅くなってしまうのだ。
エドワードだけなら問題はないが、は女だ。
いくら、通い慣れた、この通学路だとしても、夜道を歩かせることは危険だと、の両親と弟のアルフォンスは考えた。
だから、どちらかが、早めに終わった時は、学校の前で待って、そして、一緒に帰ってくることに決めたのだった・・・
いや、決めさせられたと云った方が正しいだろう。
エドワードも、も、別に1人でいい、平気だと言ったのだが、アルフォンスが断固して、その意見に反対をしたのだった。
アルフォンスが言うには、エドワードのことは全然、心配していないらしい。
『兄さんは、殺しても、死なないタイプですから』
と満面の笑顔で答えた。
それを聞いていたエドワードは、怒りより先に悲しい気持ちになってしまい、ガックリと肩を落とした。
そして、仕方がなく、渋々二人は一緒に下校することにしたのだった。
最初は、友人達や同級生らに冷かされたが、慣れればどうってことない。
は改めて、"慣れ"というものが、こわいことだと思った。
こうして、今日も、二人仲良く下校・・・となったのだが。
どうも、隣りで歩いている、の様子がおかしいことに、エドワードは気付く。
先刻から、何も話さず、何か考え込んでいる感じに、表情も少し強張ったように見える。
それに、違和感を覚えたエドワードは、静かに声を掛けてみた。
「おい、」
「うあっ!?」
そんなに大きい声ではなかったはずだが、突然だったため、は結構、驚いたのか、思わず声を上げてしまう。
「・・・そんなに驚くことねぇだろ」
の反応に、エドワードは半ば呆れ顔をする。
「ごっ、ごめん」
しゅんっ。と、元気なく項垂れる。
「――・・・どうしたんだ?ボーッとしてたみたいだったけど?」
エドワードは、そう言って、少し俯いたの顔を覗き込む。
「あっ、ううん。何でもないよ」
は慌てて顔を上げ、両手を左右に振ってみせる。
「そうか?―――なら、いいんだけどさ」
エドワードは、の様子を気にしながらも、視線を外して自分の前に戻した。
「うん・・・」
呟くように小さい声で、一言、そう答えると、はまた口を噤んでしまう。
そんなが、やはり気にかかってしまう、エドワード。
自分のことより、人のことを気にしてしまう性質である自分。
時々、これが果たして、自分の長所に入るのか、はたまた、短所になるのか、分からなくなってしまうことがある。
しかし、今はそんなことを考えている場合でない。
何か、言葉をかけてやらなければ・・・。
今は、自分しかいないのだから。
「。何かあれば、口に出した方がいいぜ。その方が、少しは気が楽になるはずだからな」
いつもより、エドワードは、優しい声音で言葉を投げかけてみる。
「ありがとう、エド」
エドワードの言葉が嬉しかったのか、は笑顔をつくってみせ、礼を言う。
「まっ、勿論、オレでいいなら・・・の話だけど」
そう言って、エドワードはチラッとを一瞥する。
少々、遠回しの言い方だったかもしれない。
だが、これが、自分の性格に合っている、台詞だとエドワードは思った。
それでも、なら、分かってくれる・・・
そう、信じていたから。
「・・・うん、あのね。エド」
少し間をおいて、はおもむろに口を開く。
「ん?」
エドワードは、と視線を合わせる。
「女の私が言うのも、あれなんだけどさ」
「ん・・・どうした?」
とても、言い難そうな表情をする。
何か、にしてみては大事なことなのか?
とエドワードは思い、急かすことなく、話してくれるのを静かに待つことにした。
「えっ、エドはさ、女の人の化粧とかって、どう思う?」
の口から、以外な、予想もしてみなかった言葉が飛び出し・・・
一瞬ではあるが、エドワードは唖然としてしまうのだった。
「はあ!?いきなり、何を言い出すかと思えば・・・そんなことか」
"もう少し、違うことを想像してたんだけどなぁ"
そう付け足すと、脱力するかのように、ガクッと両肩を落とす。
「そっ、そんなことって・・・」
"そんな言い方ないじゃない"
と言って、は悲しそうで、今にも泣きそうな顔をする。
「あっ。わっ、悪かったよ。ごめん」
"だから、泣くなよ!?なっ!"
の悲しそうな顔を見て、エドワードは、慌てて謝り、言葉を繋げる。
もしも、この場にアルフォンスが居合わせたなら、
『女の子を泣かせるなんて、最低だよ!』
と言われ、一発(?)殴られていたかもしれない。
そう思ったら、背筋がゾクッと冷たくなった。
「・・・ ・・・」
俯いてしまい、元気がなくなってしまった。
暫らく、間をおき、適切な言葉を探してみるエドワード。
だが、一向に良い言葉は見つからず。
「そんなのは、個人の自由だと思うぜ。男のオレが言うのもなんだけど」
これが、今の自分にとって、精一杯の言葉なんだと思う。
アルフォンスみたいに、気の利いたことは言ってはやれない・・・けれど。
相手に、間違っても嘘などは、決して言わない。
オレの素顔を見てほしいから。とエドワードは心の中で強く思った。
「じゃあ、私も化粧した方がいいのかな?」
は、そうエドワードに聞くと、口元に手を当てて、考えてこんでしまった。
―――――・・・だから、何で、そうなるんだ!?
と言いたくなってしまう。のを、自分の中に押さえて、エドワードは口を開いた。
「んー。オレはそのままでいいと思う」
「え?何で??」
きょとんっ。と、は不思議そうな表情をし、エドワードに問う。
「えーっと。お前は、そのままでも・・・そのっ、充分、可愛い・・・からさ」
何を言っているんだ!?オレは。
エドワードは今の自分の発言に、後悔すると同時に、恥ずかしくなってしまい、目線をワザとから逸らした。
「・・・そっか。エド、ありがとうね。すっごく、嬉しい!」
満面の笑顔で答える。
もし、これがお世辞だとしても・・・大好きな人に言われると嬉しいものだ。
言った後に、エドワードはに顔を向けて、こう付け加えた。
「それと!オレは、お世辞なんかは言わないからなっ!!」
顔が赤く、熱を持っているのが分かり、顔を背けて歩き出すエドワード。
こんな顔、見せられるか!
きっと、に笑われるから―――・・・。
でも、こいつには、素顔で向き合って生きていきたい
・・・心から、オレはそう思う。
E N D
あとがき::::
はい、ここまで読んで下さって、ありがとうございました。
鋼錬では、久しぶりの現代版・パラレル夢となりました。
今回は・・・エド、ヒロイン純粋ですねーv(笑)何か、青春ものに近い感じになりました。
自分的には、ただ、エドを照れさせて『可愛いから』と言わせたかっただけなんですけどね;;
壱様!遅くなって申し訳ありませんでした;お題交換の方、ありがとうございました。
御感想などありましたら、BBSかメールフォームまで下さいね。
それでは、失礼致します。
2004.4.12.ゆうき