覚悟と約束。
此処、最近ではあるが、エドワードの様子がおかしい。
元気がない・・・落ち込んでいるとでも言えばいいのか。
とにかく、一言で表わすなら『らしくない』と云った感じだ。
旅の疲れでも出たのかと思っていた、アルフォンスとの2人だったが、どうも、それとは違うらしい。
この街に到着するまで、歩きづめと野宿が重なっていたから、そのせいでストレスになってしまったのだろうか?とも、は思ったりするのだが。
徐々に、言葉数が少なくなってきてしまうエドワード。
そんなエドワードを見て、心配になったが医者に看て貰うように勧めたが、逆に怒らせてしまうことに。
に対して、よほどのことがない限り、怒鳴らないエドワードだったが、この時は違っていた。
それを、見兼ねたアルフォンスがフォローに入り、その場は収まるが、エドワードは"何でもない・・・"ただ、それだけ言うと、また口を閉じてしまうのだった。
そうして、同じ街に滞在して4日後の夜のこと。
食事を階下の食堂で済ませ、とエドワードは、自分達の部屋に戻ることにした。
いつもの2人だったなら、冗談を言い合ったり、色々な話題で盛り上がるはずなのだが。
何も話さず、ただ、物を口に運ぶという動作を繰り返すエドワードと。
「ねぇ、エド・・・」
「・・・ ・・・」
食堂を出て、階段を上がっていくエドワードの後ろ姿を、不安そうに見つめながら、静かに声を掛けてみる。
しかし、エドワードからは何の返事も返ってこなかった。
そして、そのまま、自分達の部屋がある階に着き、は、わざと明るい笑顔を作り挨拶をする。
「・・・じゃあ、おやすみ。また明日ねっ、エド」
と言って、エドワードの真後ろを通り抜け、が自分の部屋に足を向けた、その時。
「・・・!?」
パシッ。と、何かに腕を引っ張られるのを感じ、は振り返る。
「・・・行くなよっ」
「えっ・・・エド・・・?」
俯いたままで、そう呟くようにエドワードは言葉を出す。
は、エドワードの唐突な発言に目を見開いて驚いてしまった。
「・・・何処にも行くな」
声量は、あまり大きくなく・・・いつもよりは、小さかったが、たしかにハッキリと聞き取れた。
「エド・・・」
は、その場に、ただ立ち尽くしてしまう。
「だから・・・離さないっ!絶対に、離さないからな。もう、オレから離れるな。・・・約束してくれ、頼む」
少し、震えているような、そんな弱々しい感じが、今のエドワードからはしていたのだった。
以前、"大人ぶってはいても子供・・・"と言った東方司令部勤務のホークアイ中尉の言葉が、の脳裏に、はっきりと浮んでくる。
だが、自分も所詮は子供・・・そのため、この状況で、どう返したらいいか躊躇ってしまうのだった。
自分も、もう少し、大人だったならば、しっかりしていれば、どんな相手だろうと、どんな状況であろうと、冷静に受け止められるはず・・・。
「えっと・・・エド。ちょっと、大袈裟だと思うんだけど」
どうして、そう言い出したのか、いまいち把握出来ないは、言葉に詰まりながら、こう答える。
自分は、何処にも行かないし、よほどのことがない限り、エドワードから離れることは、まずない・・・ありえないだろうと、はそう思った。
「大袈裟なもんかっ!オレは、お前が好きなんだっ、離したくないんだよ。誰にも渡したくないんだよ!」
「エド・・・」
今、確かに、エドワードから言い放たれたのは、告げられたのは、愛の言の葉。
「ありがとう、エド」
暫らく、間が空いて、頬を赤くさせながら満面の笑顔で、そう答えるを見て、エドワードはハッと我に返る。
「・・・あっ、いや。こっちこそ、いきなり大声張り上げて悪かったな。じゃあ、オレ寝るから。今のは適当に忘れてくれ」
"あー、後でアルに怒られちまいそうだな"
と、1人ごちてドアノブに手を掛けようとするが。
「ちょっ・・・まっ、待ってよ!エド!!」
今度は、がエドワードの腕を掴んで、制しさせた。
「なっ、何でそう言ったの?身体の方は大丈夫なの?私・・・嫌われたのかと思った・・・」
不安が顔一面に出てしまい、声が擦れて段々と小さくなっていく。
そうなのだ、この5日間、声を掛けても返事がない、一切、口を開かない状態だったエドワード。
それに対して、は、もしかしたら、自分は嫌われているんじゃないかと思わずにはいられなかった。
このまま続くようなら、もう別れて1人で旅をしていこうとも考えていたのだった。
好きでなくても、恋愛感情がなくても良いから、自分と云う人間を嫌いになってほしくない・・・。
それが、にとっての1番の願いだったのだから。
「・・・」
「何で、そう言ったのか、今まで黙っていたのか・・・真相が知りたい・・・」
涙を堪えて、必死に言葉を繋げる。
「―――じゃあ、覚悟は出来てるよな?」
「えっ・・・覚悟?」
予想してもいなかった発言に、は思わず聞き返してしまう。
「そう、覚悟。何でも、どういう時にでも、覚悟は必要になる。・・・何で、オレがお前に・・・そう言ったのか。今まで黙っていたのか。知りたいんだよな?」
「うっ、うん・・・」
そう一言云うと、はコクンっと軽く頷く。
「じゃあ、聞かせてやるから。・・・とりあえず、オレの部屋に入るか」
「えっ、あっ。うん」
ガチャッ。と、ドアを開いて中に入っていく。
そのエドワードの後から、も部屋の中に入る。
「もしかしたら、本当に離さなくなるかもな」
が、部屋に入ったのを確認すると、エドワードは振り向いて一歩近付く。
「えっ?どういうこと?」
まだ、エドワードの言葉を理解出来ていないらしく、もう一度、は聞き返してきた。
「・・・―――朝まで、離さない・・・と云うこと」
そう言い終わった時には、の目の前に、エドワードが迎え合わせになる位置まで近くに来ていたのだった。
そして、すっ。とエドワードはの右頬に左手を滑りこませ、優しく撫でる。
は、エドワードからの体温と肌が触れ合うを感じ、それと同時に恥ずかしくなってきてしまい、反射的に目を閉じてしまう。
"目、開けろよ。・・・まぁ、朝と云うか、一生と言った方がいいかもしれないけどな"
こう続けると、エドワードはの唇と頬の境、ギリギリに口付けをした。
「えっ、ちょっ・・・エド!?」
突然のエドワードの行動に、思わず動揺してしまう。
「約束も、してくれよな」
と、不敵に、強気に笑うエドワードに、はあっけに取られてしまう。
どうやら、いつものエドワードに戻ったのはいいが、どういう返事をすれば良いものか、暫し、戸惑ってしまうの姿が其処にあった。
E N D
メッセージ::此処まで読んで下さって、有り難うございました。
御感想などありましたら、とても嬉しく思います。
2004.10.14.ゆうき