a Teacher −先生と生徒−
登校時に、しかも大勢の前で、エドワードは、心配して顔を近づけたの不意をつき、軽く口付けをした。
達を含む、回りの学生達は呆然となり、勿論、"怒るのを我慢する代わりだ"と言ってキスをされたはその場に棒立ちになってしまった。
只でさえ、エドワードはその容姿だけでも目立つと云うのに、このことでもっと目立ってしまうのは云うまでもないだろう。
その出来事に、まるで、ドラマのワン・シーンを間近で見たように、達は大騒ぎをし始める。
暫し、固まってだったが、達の大声に、止まっていた思考が何とか動き出す・・・
が、時すでに遅く、マシンガンのような強烈な質問攻めが待っていたのだった。
その場を、半分誤魔化しながら、は、達の何時もよりしつこい問答を切り抜けることに成功する。
そして、やれやれと感じながら、自分の教室に足を踏み入れた時。
1人のクラスメイトから、と、少々興奮気味のに声がかかった。
「ねぇねぇ、知ってる?今日から、数学の担当の先生が姉妹校のシュランス女子学院から転任してくるんだって!!」
その情報に、あまり関心を持てないは、適当に相づちをうって早々に終わらせようとした。
「えーっ!?うっそー!?どんな先生??」
しかし、真っ先に声を張り上げてその話題に飛びついたのは、他でもない、の親友でもあるだった。
「えーっとね、他の先生に聞いただけだから・・・あまり分からないんだけどね。来ているのは確かだよ」
の問いに、首を少し傾けながらクラスメイトは、そう応じた。
その横で、達の会話を聞いていたは、少しではあるが、嫌な予感を感じた。
「へぇー。ねぇ、ちゃんっ」
「・・・何?」
ふふっ。と気味悪く、含み笑いでに視線を向ける。
嫌な予感的中・・・と思いながらも、は受け答えをする。
「職員室・・・一緒に行きませんかぁ??」
「・・・ ・・・」
やはり・・・そうなりますか・・・
とは心の内で思い、自分の机の上に鞄を置いて、一息吐いて瞳を輝かせているに半分呆れながら、「いいよ」と承諾した。
「やったぁ〜、ありがとっ。っ、大好きっ!!」
「・・・どういたしまして」
そんなこんなで、一気にテンションが高くなったと、反対に低い・・・(正しく云えば、急激に下がった)は、教室を出て、職員室に足を向けたのだった。
「あっ、先客がいるっ」
そんなの言葉に、は一瞬何のことだか分からなかったが、数十メートル先の職員室の出入り口をしっかりと塞いで「キャー」「キャー」騒いでいる、一つ年下の後輩達が目に入ってきた。
「・・・こうなったら・・・」
ふっふっふっ。と今度は意地悪い笑みを浮かべると、は、一時、止めていた足を前に動かして進んでいく。
その後を、仕方なしに、付いて行く。
そして、出入り口の目の前で5、6人で固まって騒ぎ合っている後輩達の間を、は押し退けるように割って入っていった。
「はーい、通してねーっ。ごめんね〜」
半分、ワザとらしく、そう言いながら入っていく。
無論、その後輩達からブーイングを受けることになったが、当の本人はおかまいなしの様子だ。
「ごっ、ごめんね・・・」
苦笑混じりで、の後から通り抜ける。
それから、職員室に入室した2人だったが。
「・・・ところで、その先生って男なのかな?女なのかな?」
「―――はっ!?」
あっけらかんとして、は、隣りのと顔を見合わせる。
そうなのだ、は何も詳しいことは知らず、聞かずに来てしまったのだ。
「だって、詳しいこと言ってなかったからさぁ〜」
「・・・さいですか」
そんな親友の言葉に、は、はぁ〜。と深い溜め息と共に脱力をしてしまう。
「―――・・・君達、何か用なのかな?」
ふいに、後方から声をかけられ、との2人は慌てて振り返る。
「えっ、あっ、はいっ。ちょっと・・・」
言葉を続けようとしたは、見慣れぬ顔立ちの成年に目を奪われてしまう。
背が高く、スラリとしていて、黒髪、漆黒の瞳・・・そして―――・・・。
「ん?もしかして、君がくんかい?」
唐突に、その成年から自分の名を呼ばれ、は酷く驚いてしまった。
勿論、その隣りのも驚いてしまっている。
「―――・・・あっ、はっ、はい。そうです・・・けど」
答えたものの、何か腑に落ちない顔つきのに、成年はニッコリと笑って、こう応じた。
「あぁ、すまない。私は、シュランス校から転任して来た、ロイ・マスタング。君達、学年の数学担当を任されることになった者だ」
「数学担当の・・・マスタング先生?」
釈然としないままで、そう呟くように口を開く。
自己紹介・・・の前に何故、相手が自分の名前・・・そう、名前だけなら良いが(名簿とかで確認しているだろうから)顔まで知っていて、しかも、自信満々な態度で訊ねてきたと思うと、不思議で堪らない。
「あぁ・・・。たしか、君の所にエルリック兄弟が下宿しているね?」
「あっ、はい。そうです」
そう答えた瞬間。
は、自分の頭に電撃が走ったように、何かが思い浮び・・・
もしかしたら・・・と思い、戸惑いながら、あることを訊いてみることにした。
「もしかして・・・エド達を此方に来させたのは・・・」
「私だ」
間を空けずに、きっぱり、そう言い切ると、ロイは職員用になっている机へ向かう。
その後を、付いて行くと。
以前、弟のアルフォンスから
"ある人が、手続きをしてくれまして。それで、此方に来ることが出来たんです"
と聞いていたため、その『ある人』が、このロイ・マスタングと云う成年ではないかと、感じたからだった。
「・・・とても、云い難いことなのだが・・・君には知っておいて貰いたいことがあるんだ」
そう区切って、立っていると目線を合わせる。
「あっ、私はお邪魔ですよねっ!?・・・じゃっ、。職員室の前で待ってるから」
「えっ、ちょっと・・・!?・・・??」
が言い終わる前に、はそそくさと職員室を出て行く。
「良い友人を持っているね」
「はっ、はぁ・・・。ありがとうございます」
の後ろ姿を見送りながら、そう言って優しく微笑むロイに、は返事を返す。
だが、次のロイの発言で、は衝撃的な事実を知ることになる。
「あの兄弟の母親が数年前に亡くなってしまってね・・・それで、今までの数年間は、知り合いの家で世話になっていたらしい」
「・・・あっ・・・」
あの、とても優しく、親切にしてくれた2人の母が亡くなってしまうことが信じられない。
の脳裏に、幼い時の思い出が蘇ってくる。
必死に、涙を堪えるに、"これで拭きなさい"とハンカチが、ロイから手渡れる。
「だが、ある日、兄の方が私を訪ねて来てね。"此方に来るには、どうすれば良いか?"と聞いてきた」
「エドが・・・?」
きゅっ。
手渡されたハンカチを軽く握り占め、静かに口を開く。
の目には、また涙が溜まっていく。
そんなにロイは座っていた椅子から立ち上がり、手を伸ばして、ポンッポンッと頭を軽く撫でるように優しく接する。
「あぁ。それで、私は"君達にあちらに宛てでもあるのか?"と聞き返したんだ」
「・・・ ・・・」
そうロイの口調は、優しいままで、思ったより衝撃を受けたの耳にすんなりと入っていく。
まるで、自分がを傷つけてしまったような感覚に襲われながらも、ロイは言葉を続ける。
「そうしたら・・・何て答えたと思う?」
「・・・えっ?・・・―――わっ、分かりません」
寂しそうな笑みで訊ねてくるロイに、涙を拭き、言葉を押し出す。
「"あるっ!"と言い切ってね。"あっちに、置いてきちまったんだ・・・大事なものを沢山・・・そして、あいつも・・・。だから、オレは戻んなきゃならないんだ!・・・いや、戻りたい。あいつに逢いたい・・・オレのたった一人の―――・・・"」
「えっ、エド・・・」
ロイは其処まで言って、話を区切る。
そして、精神不安定になりそうなの様子を窺う。
「・・・とても、辛そうに訴えるものだから、私の方で手続きをしたんだよ」
「・・・そうですか」
また黙ってしまったら、涙が出てきてしまう・・・と思いながら、は返事をする。
「―――ところで、兄が言った"あいつ"とは誰のことだか分かるかな?」
「えっ!?えっと・・・」
いきなりのロイの質問に、は驚き、躊躇ってしまい、上手く言葉を繋げることが出来ないでいた。
少し、間を置き一息つくと、ロイはこう言った。
「それは、君だよ。くん」
「・・・ ・・・!?」
瞳を見開き、先ほどより驚いてしまう。
そして、何か言おうかと思った瞬間。
キーン、コーン、カーン、コーン。
と、朝のHRの始まりを知らせる合図が鳴り響く。
「あっ、やばっ!!おーいっ、!そろそろ、戻らなきゃ!!」
職員室の出入り口で、手を振り、声を張り上げるに気付く。
「あっ、うん!・・・じゃあ、先生。失礼します」
「失礼しますっ」
は、視線を合わせ軽く御辞儀をすると、出入り口になっている扉に向かって歩いて行った。
は、その場で御辞儀をする。
「あぁ、私の授業を楽しみにしておいてくれ」
「あっ、はいっ・・・!!」
そう言って、ロイは柔らかい笑みを浮かべ、を見送る。
そうして、職員室を後にした二人だったが、その日、1日中、からの容赦ない尋問・・・もとい質問攻めがを待っていた。
一方、エドワードは・・・
「・・・はっくしょん!」
"・・・誰か、オレの噂でもしてんのか?"
と、3階の教室から見える、真っ青な空を見上げそう呟いた。
E N D
メッセージ:現代版・パラレルの微妙な続編でした。此処まで読んで下さって有り難うございました。
御感想などありましたら、嬉しく思います。
2004.10.22.ゆうき