兄弟
三日月が綺麗な、ある夜のこと。
昼間、アームストロング少佐から止められたのにも関わらず、エルリック兄弟は"賢者の石"の手がかりを得に、元第五研究所へと忍び込んで行った。
勿論、この旅に同行しているには内緒にし、2人で宿を抜け出して行った。
危険な事に、巻き込みたくないからだ。
これは、自分達兄弟の問題なのだから。
兄のエドワードは、そこを守護している者48、またの名を"スライサー"との戦いによって、かなりの深手を負ってしまい、ラストやエンヴィーと云う者とも出会うのだった。
それと同時に、機械鎧が故障してしまうこととなり・・・。
その一方、外で兄の帰りを待っていた弟のアルフォンスは、66、またの名を"バリー・ザ・チョッパー"と戦い、ありもしない疑惑を吹き込まれてしまうのであった。
この後、エドワードは療養のため、護衛を任されていたロス・マリア少尉の、知人の病院に入院しなくてはならなければいけなくなる。
それから、アルフォンスはこの疑惑に、1人で悩んでしまい・・・
エドワードは勿論のこと、付き添っているや、出張整備のために中央を訪れたウィンリィにも、アルフォンスが何か悩んでいることが伺えた。
そして―――・・・。
それは、何時もの兄弟としては他愛無い会話から始まり、事は、怪我をしているエドワードを心配し、傍から離れずにずっと付き添っていたと、その時、丁度良く病室に入ってきたウィンリィの目の前でおこった。
「アルは、いいよな。身体がでかくてさ」
兄弟だから、お互い愚痴も溢したくなる時もあるだろう。
エドワードの言葉に、別に深い意味はなく。
いつものアルフォンスならば、笑いながらこう受け答えしただろう。
「それは、兄さんが小さすぎるからだろ?」
と。
しかし、この日は違っていた。
エドワードも決して、アルフォンスの鎧姿に向って言った訳ではないのだが。
あの温和で優しい、アルフォンスの口から、こんな言葉を聞くことになろうとは。
「ボクは好きでこんな身体になったんじゃない!!」
アルフォンスの中で、何かが一気に爆発した。
その声が部屋中に響き渡り、エドワードは勿論、その場にいたやウィンリィは目を見開いて驚いた。
突然の出来事に、エドワードは困惑しながらも、すぐに"悪かったよ"と謝る。
「・・・そうだよな。こうなったのもオレのせいだもんな・・・。だから、1日でも早く、アルを元に戻してやりたいよ」
あっ、また自分1人だけのせいにしてる・・・。
何で、いつも・・・。
そんなエドワードの言動に、は思う。
「本当に、元の身体に戻れるって保証は?」
それに何か、変だよ・・・こんなの何時ものアルじゃない・・・。
と傍らでは、そう思わずにはいられなかった。
「絶対戻してやるから、オレを信じろよ!」
そうエドワードが言っても、アルフォンスからは、次々と信じられない言葉が発せられ、エドワードのその表情は、困惑から驚愕へと変わっていった。
そして、ついに・・・
ガンッ!!
と、エドワードは両の腕を振り下ろし、勢いよく机に叩きつけた。
数秒の間、辺りに沈黙が流れる。
張りつめ、ピリピリとした空気がの身体に刺さり、痛みも感じていた。
――――・・・どうして、こんなことに。
「――――ずっと、それを溜め込んでたのか?」
エドワードは、アルフォンスからこう言われても無理はないと思っていたのだろう。
人体錬成という禁忌を犯し、身体を失ってしまったアルフォンス。
同じく、エドワードは左足を失い、アルフォンスを自分の命と引き換えにしようとし、今度は右腕を失ってしまった。
しかし、今までの不安などが溜め込んでいたとしても、どうもおかしい。
まるで、その時のアルフォンスが、には何か別人のように感じてしまうのだった。
「言いたい事は、それで全部か」
とエドワードは俯き、静かに問う。
アルフォンスは小さく頷く。
「――――そうか」
少し、顔を上げたエドワードの表情に、は身体全体が固まって動けなくなってしまう。
哀しそうな今にも崩れ落ちてしまいそうな、その表情に。
は、また自分の胸が押し潰されていく感覚にも襲われてしまうのだった。
そんなアルフォンスを横切って、エドワードは静かに病室を出て行く。
エドワードの姿から病室から消えていく。
その次の瞬間、は何かに弾かれたように、病室を飛び出してエドワードを追っていく。
そのエドワードとの二人に、ウィンリィは慌てて声をかける。
「エドっ!ちゃん!!」
病院の廊下を、どんどん進んでいくエドワードを必死に追いかける。
気付いたら、エドワードを追っていたのだ。
無意識のうちに病室を飛び出して・・・追いかけている自分に気付く。
「・・・エド・・・エドっ!!」
何度、何回、呼んでみたものの、エドワードは一向に足を止める気配をみせなかった。
「―――・・・エドっ!!」
先ほどより大きな声を(他の病室にいる患者に迷惑をかけない程度に)出し、まだ何かに震えている腕を伸ばし、エドワードの服の裾を掴んで呼び止めた。
少しの間があり、に気付いたらしい、エドワードは後ろをゆっくりと振り返る。
「・・・か。心配すんな、オレなら―――・・・」
無理矢理、笑ってみせようとするエドワード。
「大丈夫・・・なんじゃないっ。大丈夫なんかじゃないよっ!!」
エドワードは、続けようしたが、によってその次の言葉は遮られてしまった。
「何で、自分一人のせいにするの!?エドだけが悪いわけじゃないのに・・・。それに何で、私に一言も話してくれなかったの!?」
の発言にもエドワードは驚いてしまう。
「・・・あのな・・・」
"それは、オレ達兄弟、二人の問題だから"と言い掛けて、ハッとする。
俯いているの顔からは、確かに大粒の雫が流れていたのだった。
「・・・お願い、エド・・・無理しないでよ・・・」
無理している姿を見ているのが、1番つらい。
何も話してくれなくてもいいから・・・無理だけは・・・!!
は、きつく唇を噛み締めて、これ以上泣かないようにと必死に堪える。
「・・・」
そのの姿を見た、エドワードは顔を歪がませる。
「ねぇ、もし、エドがいなくなっちゃったら、誰がアルを戻すの!?―――・・・だから、お願い・・・あまり無茶はしないでよ・・・」
まただ・・・また、ちゃんとした言葉が出てこない・・・
こんなんじゃ、ちゃんと伝わらないかもしれない・・・けど。
「・・・ ・・・」
エドワードは黙って、を見つめる。
「・・・もう少し、自分の身体、大事にしてよ!!」
アルの分まで、大事にして貰わなきゃ・・・。
そして、これがの心からの、この兄弟に対しての願いでもあるから。
そう、エドワードにも、アルフォンスにも、悲しい思いなどして欲しくはない。
傷ついてほしくもない。それは、身体も心も同じことだ。
「それに・・・エドには笑っていてほしいからっ・・・!!あんな顔してほしくないんだよ・・・」
と言い切った、の息は少しだが上がっていた。
「・・・ごめん。私には、こんなこと言う資格なんてないのにね・・・」
この兄弟の人体錬成については、少し前、エドワードの右腕を直しにリゼンブールへ行った時、我侭を云って、ウィンリィと弟のアルフォンスから教えて貰っていたのだ。
最初は、躊躇っていたウィンリィだったが、アルフォンスは"これからも一緒に旅をして行くから、知っておいた方がいいのかもしれないね"と言って、こっそり教えてくれたのだ。
「・・・」
ビクッとの肩が揺れる。
すっとエドワードの腕が伸びてきたかと思うと・・・
きゅっと、を包み込むように優しく抱きしめた。
「・・・エド・・・ごめんね」
「が謝ることじゃないだろ?元々は、オレがお前にちゃんと話してやらなかったからな」
"けどさ・・・"とエドワードは続ける。
「でも、本当にオレなら心配いらないから・・・」
そっとから身を離して、階段をゆっくり上っていく。
も、エドワードに付いて行く。
「心配してくれて、サンキュ」
と言って、屋上への扉を開けて出て行く。
きっと、アルフォンスが来ると信じているから。
そう兄弟だから、大丈夫なのだ。
は、そのエドワードの背中を静かに見送った。
この少し後、ウィンリィに叩かれ、怒られたアルフォンスが追いかけてくるのは言うまでもない。
そして、また彼ら"兄弟"の絆は深まっていく。
そう血が繋がった、兄弟なのだから・・・
E N D
あとがき
はい、久しぶりの鋼世界・エド夢でした;今回は原作に沿った内容となりました。
『兄弟』ならこれしかないっ!と思い書き始めて・・・下書きでは、結構苦戦していたモノですね;;
パソコンにうっていくのは、いつもより早かったんじゃないでしょうか?
今回は、台詞などがすぐに思い浮んできまして。
前々から、こういう話を書きたかったので書けて良かったと思います。
ここまで読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。御感想などありましたら、BBSまでお願いします。
それでは、失礼致します。
2004.1.16.ゆうき