貴方と任務。 −NO.3 荒野−
ただ無駄に広く、山岳地帯が近くにあるためなのか・・・
そこから流れてくる冷たく、強い空気が風となって地の表面にある砂を巻き上げる。
そのために砂埃が発生し、一歩先からとても見づらくなってしまっている。
・・・そんな荒野に、二つの影が浮かんでいた。
「うーん。やっぱり・・・此処からじゃ、村か町があるかなんて分からないわね」
砂埃が目に入らないよう・・・庇うようにして、左手をかざし、この先をじっと見つめる。
だが、いくら目を細めて見ようと試しても、一向に姿・・・形も現してこない・・・“幻像の村”。
一応、“幻像の村”と云われてはいるが、先日の探索部隊からの報告によると、この数百メートル先に、規模は小さいながらも、その村は確かに存在するらしいのだ。
派遣された探索部隊のうち数名は、その場に待機・・・
今の村の状況等を、無線を使い教団側と現在、目的地付近まで来ているエクソシスト二名に知らせている。
この二日前・・・“もしかしたら、イノセンスも存在する可能性がある”と、科学班室長のコムイ・リーは資料を漁りながら、任務の指示を出してきた。
勿論、その任務を遂行するために、沢山、乗り継いでこの土地までやって来たのだ。
途中、AKUMAからの攻撃は容赦なく・・・。
しかし、今、此処に立っている二人はエクソシスト。
レベル1は、無論。レベル2まで、問題なく消し去っていった。
「もし、こんな所で、AKUMAの襲撃に遭ったら・・・苦戦しそうだわ」
小さく息をついて再び、視線を村がある方向へと戻す。
「・・・確かに」
その隣りで、自分より背が高く・・・黒髪に長髪ストレート・・・日本と云う島国出身の青年が応えた。
「それに複数だったら尚更・・・」
顔を顰めるようにして、その先を見つめる。
可能性として、実際に起こるだろうと予測しての発言だ。
「そうだな・・・」
この発言に、反抗することもなく、すんなり青年は同意する。
それから、少し、間が空き・・・相手側の女性は、上着代わりにしている白衣の内ポケットから、ワイヤーみたいなものを取り出し、輪に結び、遊び始めてしまった。
どうやら、退屈に感じたのだろう。
丁度、無線の報告待ちだったため。
「おい、・・・」
青年は、ワイヤーで遊び始めたのに気付くと、相手の女性の名を呼ぶ。
微妙な面持ちで“今は、そんなことやってる暇はないだろう”そう付け足そうとするが。
「それにしても・・・本当に、久しぶりだよね。神田くんとコンビ組んで、現地に派遣されるのって」
軽く、笑うように優しく話しかけて来るのは、エクソシスト兼救護班・副班長の・。
武器は、今、手に持っているワイヤー・・・糸状のようなもの。
これが、のイノセンスなのだ。
自由自在に、操れることが出来・・・イメージが強ければ強度も上がり、両端に木等があれば、それを使って結界も張れ、素早い動きで背後に回り込めば敵を生きたまま拘束することも可能なのだ。
「最近、教団内に閉じ篭りがちだったから・・・正直、外に出させて貰って嬉しかったりして」
と、は苦笑い混じりな顔を見せる。
「云っとくけどな・・・遊びじゃないんだぜ?」
表情を何一つ、変化させることはなく、ただ前を見据えている青年・・・神田ユウ。
だが、その話相手がなのか、いつもより口調は優しい。
「―――・・・わかってるわよ。そのくらい」
そう、手を動かしながら、は静かに返事をする。
「・・・なら、いい」
目を伏せて、フッと笑うように呟く神田。
「でも、嬉しいのは本当よ?」
「?」
その言葉が気になったのか、神田はに視線を向ける。
「今、こうやって、神田くんと一緒に任務に行けることが・・・遂行出来ることが――・・・」
1度、区切って息を軽く吐く。そして、ほんの少し間を置いた。
「・・・」
その間、神田はの次の言葉を黙って待つ。
「・・・1番、嬉しいし・・・幸せだもの」
そう云うと、は照れ笑いにも似たような表情で、見つめる。
両者・・・目を合わせていたのは、ほんの数秒。
「・・・そういうのは、この件が片付いてからにして欲しいもんだな」
直ぐに、からフイッと、顔を背ける神田。
どうやら、の笑顔と言葉に恥ずかしくなったようだ。
「―――・・・じゃ、終わってからもう一度言うね」
予想していた、神田の素直で可愛らしい反応に、は微笑む。
昔から・・・神田がエクソシストとなり、任務を任されるようになった時から・・・
何も変わらないことを改めて知り、心の内で喜んだ。
「そういう問題じゃねェだろ・・・」
少し、呆れ顔でそう返す、神田。
何だか緊張感がないようにも見えるの声音に、思わず脱力・・・しそうになってしまう。
「!?・・・神田くん!!」
何かを、察知したらしくは真剣な顔つきになる。
「―――・・・あぁ」
の声に、神田も何か気配を感じ身を整える。
次の瞬間。
突然、目の前の地面が浮き上がり・・・中から、AKUMAが何体か出現してくる。
は、ふっと軽く息を吹きかけて、輪にしていたワイヤーを解く。
そして、隣りの神田と同様に戦闘態勢に入った。
「じゃ、一段落した後に改めて言うから」
「・・・あぁ」
そう、小さく頷く神田。
「それじゃあ――――・・・」
“イノセンス、発動!!”
E N D
メッセージ:保留にしていた、例の神田夢でございます;
戦闘前のワン・シーンな感じで書いてみました。相変わらず、ほのぼのですね。
感想等ありましたら、BBSかメール・フォームまで。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
2006.2.26.ゆうき