二人だけの・・・。

 

 

―――・・・だめだ。

今日は、うまく頭が働かない・・・。

身体は何ともないし、風邪引いた訳でもない・・・。

今日中に、この書類を終わらせなきゃいけないのに。

 

一人、部屋の中、仕事用の机の上で、頭を抱え込んでいる少女。

彼女の名は

観音の甥であり、今は下界から連れて来られた、悟空という可愛い少年の親代わりを務めている(いや、飼い主と言ってもいいかもしれないが)金蝉童子の仕事の手伝いを任されている。

天界人のため、姿は17歳前後のままである。

 

そういえば、この間から借りている本を天蓬さんに返さなきゃいけないんだったけ。

 

はチラッと、机の隅に無造作に、置いてある1冊の本を見てそう思った。

日が沈む前に、早めに返してきたいものだが。

と、色々なことを考えていたら、余計に頭が混乱してきてしまい、仕事に集中出来なくなってしまった。

まさか、調子が悪い(身体なら話は別なのだが)というだけで、この書類の提出を一日延ばすことは出来ない。

そう考えている間にも、時は刻々と過ぎていく。

 

「―――色々、考え込んでも仕方がないっ。天蓬さんのトコ行ってこようっと」

 

一息ついて、は座っていた椅子から立ち上がり、机の隅にあった本を持ち、部屋を出ようと出入り口である扉に近付く。

しかし、扉まであと数歩という時、は、扉の向こうに人の気配を感じて足を止める。

コンッコンッ。

と静かにノックの音がし、扉を開けて部屋に入ってきた人物。

 

、ちょっと失礼しますよ」

 

それは、まぎれもなく天蓬本人だったため、は少し驚いてしまう。

天蓬が他人の部屋(ましてや、の部屋)へ訪ねてくることなど、そうそうあるものではない。

が訪ねに行くのが日課となってしまっている今日では。

 

「天蓬さん?・・・どうかされたんですか?」

 

と訊ねる。天蓬は辺りをキョロキョロ見渡して、こう聞いてきた。

 

「悟空・・・来ていませんか?」

「えっ!?悟空・・・ですか?―――いいえ、今日は来ていませんけど」

 

時々、の部屋にも遊びに来ることがある悟空。しかし、このところ顔を見ていない。

 

「そうですか・・・」

 

と答えて天蓬は、顔を少し顰める。

 

「?悟空がどうかしたんですか?」

 

その様子に、はもう一度、聞き返してみた。

 

「あっ、あぁ。ちょっと出掛けて来ると言って、何処かに行っちゃたんですよ。いつもなら、そろそろ帰って来るんですが・・・」

 

一息おいて、こう続けた。

 

「一応、捲簾にも頼んで探して貰ってはいるのですが。・・・困りましたね」

 

と苦笑混じりに、天蓬は答えた。

 

「あっ、私も探すの手伝いますっ!」

「―――そうですか?にはいつも迷惑かけますね」

「そっ、そんなことないですよっ!」

 

は天蓬の言葉に、少し、照れながら両手と顔を左右に振って答える。

 

「それはそうと、。仕事の方は片付いたんですか?」

 

天蓬は、そう言っての机の上にある書類の山を、一瞥する。

ギクッ!!

微妙だったが、確実に肩が震えた・・・そのの一瞬の反応を、天蓬は見逃さなかった。

 

「―――まだ、終わってないんですね?」

「・・・はっ、はい。何だか、今日はうまく考えれなくって・・・」

 

しゅんっ。と、力なく項垂れる

 

「そうですか。それなら、息抜きした方が良いですよ」

「そう・・・ですか?」

 

は、ゆっくりと顔を上げて天蓬を見る。

天蓬は、いつもの優しい表情でと視線を合わせ、こう答えるのだった。

 

「はい。それじゃあ、悟空を探しながら僕と一緒に散歩でもしましょうか」

「えっ、はっはいっ!」

 

そして、天蓬との二人は部屋を出て、廊下を歩いていく。

勿論、悟空を探すのだから、色々な部屋を開けて見回ってみる。

しかし、悟空は見つからず。一体、何処へ行ったのだろうか?

ふう。と息をつく

このままだと日が暮れてしまう。

 

「疲れましたか?・・・そうだ、は音楽好きですか?」

 

と、そんなを気遣って天蓬は優しく声をかける。

 

「えっ!?いえ、疲れてません。はい、音楽は好きです」

 

の方も、あまり、天蓬に心配かけたくないため、笑って答えた。

 

「―――そうですか。僕個人としては、クラシック音楽が好きなんですが」

「?クラシック・・・って何ですか?」

 

は、その『クラシック』と言う聞いたことがない言葉に、首を横に傾けて訊ねてみる。

 

「下界で親しまれている音楽の一つです。西洋の芸術音楽の総称とでも言いましょうか」

 

柔らかい口調で分かりやすく説明する天蓬。

 

「そうなんですか。すごいですね」

 

少し、間をおいて天蓬はにこう言った。いつものあの笑顔で。優しく。

 

「―――聞いてみたいですか?」

 

「あっ。はっ、はいっ!!」

 

と答える

 

「じゃあ、今度、出陣の時にでも御土産として買って来ますから。それを聞きながらなら、仕事の方も捗ると思いますよ」

「あっ、ありがとうございます!!」

 

と言ってから、はぺコッと可愛く御辞儀をする。

 

「いいえ、でもこれは皆には内緒ですよ?」

「えっ!?」

 

天蓬のその発言に、目をパチクリさせ驚く。

天蓬は、口元に自分の人差し指を持って来て静かにこう言った。

 

「僕とだけの・・・二人だけの秘密にしましょうね」

 

 


そう、貴女と僕だけの、二人だけの秘密――――・・・。


 

 

この後、悟空は捲簾が見つけ、例の如く金蝉童子に怒られてしまうのだった。


                                           E N D

 

あとがき・・・

また中途半端ですね・・・ごめんなさい;;シュリ様、こんなになってしまって、すいませんでした;
『クラシック』とのお題だったので、思いつくキャラが八戒さんか天蓬さんだったので;
いつもの如く、ほのぼのでございます。辞書引いて調べたりして・・・(苦笑)
こんなのでも気に入って頂ければ嬉しいです。それと、悟空、ごめんね;
それでは、失礼致します。
                        2003.10.31.ゆうき