あなたと・・・。



〇お昼過ぎのこと、自分の仕事が一段落したのを確認し、は何気なくに外へ出掛けて行った。

外は、見渡す限りの桜の森だ。その桜木の下をゆっくりと歩いていく。

は1本のある桜木の前でふと足を止めて眺めた。その木が他の木より、数段丈夫に、立派に見えて暫しは見惚れる。

自分も男で強かったら捲簾大将や天蓬元帥の手伝いや、それに・・・悟空や大将のように木登りが出来ただろうかと胸の内で思う。

は、改めて羨ましく思えた。数分が経過し、そろそろ自室に戻り午後の仕事を片付けようと踵を返した・・・時。


「よぉ。


の前に1人の男が姿を現す。軍服を着、腰には本人曰く燃料である酒瓶を下げていてる人物。


「―――・・・捲簾さん!?」


そう、の目の前にいるのは間違えなく西方軍、軍大将の捲簾だ。は捲簾の突然の登場に目を丸くして驚いた。


「こんな処で何してたんだ?―――珍しいな、お前が外へ出てるなんて」


そうなのだ。

いつもは仕事が沢山あり、忙しくて外へ出る時間がなく、捲簾も自身も外でこうやって偶然とはいえ、会う機会さえなかったのだ。

しかも、2人きりで。回りは静かそのもので、耳を澄ませば風の音が心地好いくらい、耳に伝わってくる。そんな場所で。


「そっ、そうですか?今日は、何か気分転換でもしたい気分だったので。・・・捲簾さんは、どうして此処へ?」


は少し頬を染め、照れながら答え、逆に捲簾に聞き返す。


「・・・あっ。俺か?俺は―――・・・もちろん、これよv」


の質問に、捲簾は腰の辺りにある酒瓶を指さして、酌をくいっと口に持ってくるような真似をすると、ニッと笑ってみせた。


「・・・また、ですか?」


は、少し顔を顰めて捲簾を見る。


「まぁ、そんなこと言うなよ。俺にとっては、これが一番の楽しみなんだからよv」


捲簾は苦笑して答えた。そんな捲簾を見ては、そんな貴方だから・・・皆が、そして自分が惹かれているのだと改めてそう感じたのだった。


「じゃあ、私は仕事がありますので・・・失礼します」


は、軽く会釈をして、その場を離れようとしするが。捲簾に腕を掴まれてしまい制されてしまった。


「もう少し、時間・・・良いだろ?」
「でも・・・」


と捲簾の言葉に躊躇する。しかし、断る気になれなかったは仕方がなく了解する。


「なぁ。・・・木、登れるか?」


「えっ!!??」


いきなりと云える捲簾の、その問いには、先刻より驚いてしまう。


「えっ。でも、私、木登り苦手で・・・どうやって登ったらいいのか分からないんです」


「―――大丈夫だって。俺がちゃんと教えてやるからよ」


戸惑うに優しく答える捲簾。


「・・・じゃ、じゃあ。宜しくお願いします」


と言って、ペコッと可愛らしく御辞儀をする。その姿を愛らしく捲簾は見つめていた。


「おっし!じゃっ、始めるか!!」


そして、捲簾はに最初、木に登るコツと注意点を教えて、指示を出す。

は捲簾の指示通り、進んで行く。

そうして、数十分後、捲簾の指示で何とかは、この桜木の中で一番低い(と云っても高さが3・4mぐらいの)枝に無事、座ることが出来た。

・・・のだが。

ふいに下を見た途端、その高さに足がすくんでしまい、枝に掴んでる手が段々と汗ばんできてしまい、そこから動けなくなってしまった。

一応、は高所恐怖症ではないのだが、木登り自体に慣れていないため、もし、滑って落ちたりしたら・・・!?と考えると余計に怖くなってきて目を閉じてしまった。


「おーいっ!上からの眺めはどうだー?」


と下から捲簾の声がする。

は、答えるために目を開こうとするのだが、中々思うように体が言うことを聞いてくれない。

の様子に違和感を感じた捲簾は、軽い身のこなしで素早く木を登ると、の隣りにストンッと腰を下ろして、優しく声をかけた。


・・・大丈夫か?」
「・・・」


頑なに瞳を瞑り、一向に開こうとしないを見て、捲簾は静かに肩を抱き寄せようとして手を伸ばし、の体に触れた時、微妙だがが震えていることに気付く。

それはまるで、子犬が雨の寒さに震えている・・・そんな感じが捲簾にはしたのだった。

そして、自分の方に引き寄せてこう囁く。


「・・・悪かった。もう大丈夫だから」


「捲簾・・・さん?いいえ、謝らないで下さい!木登りに慣れていない私が悪いんですから・・・」


と目を瞑りながらも必死に答える。その閉じられた瞼の隙間から今にも涙が溢れようとしていた。


「―――・・・だが、言い出しっぺは俺だからよ」


と捲簾が言った、次の瞬間。

は自分の体が宙に浮くような感覚を覚えて、静かに目を開いてみる。

背中の辺りに体温のような暖かさを感じ、耳元では静かに吐息が聞え、下を見ると自分の体をしっかり守るように2本の腕が組まれていた。


・・・これなら怖くないだろ?」


「!!??」


耳元で聞こえる声、吐息、背中で感じる体温に鼓動・・・。

が、それは、捲簾だと気付くのは少し後のこと。

そう、は捲簾に後ろから抱かれているのだ。それに気付いたは顔を真っ赤にさせて慌てふためく。


「――――大丈夫。俺がついててやるからな。お前は安心していいぞ」


「―――・・・!!・・・はい///」



*       *        *



それから、少し経った後、捲簾はの体をきつく抱きしめ、降りる態勢に入る。


「さて。じゃあ、帰るか」


と言い、捲簾はふわっと、その木から手を離し、身軽に地面に降り立った。


「あっ、あのっ!今日は本当にありがとうございました!それと・・・ごめんなさい!!」


捲簾の体から離れたは、尚も顔赤くして深々と頭を下げる。


「あぁ。いーって、いーって。、今度は一杯付き合えよ?」


と軽く笑う捲簾。も笑顔になり


「・・・はいっ!喜んで!!」


と快く答えるのだった。そして、捲簾は、しっかりとを自室まで送り届けた。


「じゃあ、またな。今度は部屋まで迎えに来るからな!」


「はいっ!・・・って、部屋まで!?///」


と慌てて赤面しているを可愛らしく思い、今度は、2人っきりで行きたいものだと別れ際に捲簾はそう思ったのだった。


 


次は、あの桜木の下で必ず――――――・・・。


 

 


                                         E N D


 

 



後書き――――
はいっ!初、外伝捲簾大将夢でした;

日記や、プロフィールに捲簾大将は難しくて書けない・・・

と言ってた癖に書き上げちゃいました・・・(苦笑)

でも、やっぱり難しいですね。やっぱり、これもほのぼの・・・なんでしょか?

ほのぼのばかり(?)ですいません;

こんなモノでも喜んで戴ければ幸いです!

大将ファンの方!是非、ご感想下さい。お待ちしております。(自分も一応、大将ファンですが;)
                   2003.6.24.ゆうき