悟浄さん誕生日夢

 

                      Heart Warming

 

 この日の夕方、三蔵一行は、予定通り次の街へ到着した。

そして、その街のある宿屋にて、個室の部屋を五つ確保し、各自、それぞれの部屋を割り振ってから、夕食前に買出しにでも行こうかと、八戒は、・悟空・悟浄の三人に声をかける。

勿論ではあるが、このいつものメンバーは、三人共、断るはずもなく了解し、付き合うことになった。

だが、しかし、次のの予想もしていなかった唐突な発言に、三蔵も含めた四人は、驚くこととなる。

 

「あの・・・皆さん。今日の買出しは私、一人で行かせて貰えませんか?」

 

その発言に、すかさず反応したのは、悟空だった。

男一人でも大変だというのに(悟浄が証明済みである)それを一人に任せることは出来ない。

それは、悟空だけでなく、他の三人も思ったことだろう。

何故、そう言ったのか、の真意が知りたい。

 

「ちょっ・・・ちょっと待てよ。何で、一人で行くんだよ!?危ないじゃないか!?」

 

ましてや、は女。

そして、もう夕刻だ。

暗くなり始めた、そんな街を女一人で歩かせる訳出来ない。

変な男にからまれないかとも心配になってくる。

 

「―――・・・そうですよ、。一人では危険です」

 

と、悟空に続けて、八戒もこう言って、一人で出掛けようとするを止めようとした。

二人の意見は、尤もだ。

 

「大丈夫ですよ。悟空、八戒さん。そんなに心配しないで下さい。本当に今日は一人で行きたいんで」

 

その時、は、あえて理由を言わなかった。

にこっと柔らかな笑顔を作って、心配そうな表情を浮かべている二人を安心させようとする。

 

「―――まぁ、いいんじゃねぇの?を信じようぜ」

 

いつものように、さらりと言い放った悟浄を、悟空と八戒の両者は睨むような目つきで見る。

だが、そう簡単に言ったものの、気持ちの面では、悟浄もまた二人同様に心配だった。

―――はっきり云えば、心配で堪らなくなっていたのだ。

 

「そうだな。充分、気を付けて行くんだぞ」

 

悟浄の発言から、一息、間をおいて三蔵は、を一瞥するとこう告げた。

そして、自分の袖口から三仏神名義である、ゴールド・カードを取り出し、数歩距離を置いて立っているに向かって、ピンッとボールを弾くかのように、カードを投げて寄越した。(投げるなよ・・・)

それを、は素早く、空中でキャッチする。

 

「―――・・・ありがとございますっ」

 

と礼を述べて、四人に向けて軽く御辞儀をした。

 

「本当に、気を付けて行くんですよ?」

 

"はい。これ、買出しのメモです"と、八戒からメモを預かり、踵を返して歩き出す

そのの後ろ姿を、黙って見送る男四人。

そして宿を出ようと、出入り口となっている扉を開けようとし手を掛けた、その時。

 


 

ふいに、後方から自分の名を呼ばれて、は振り返る。

其処には、もう自室へ行ったかと思われた赤髪の青年、沙 悟浄が、何時になく真剣な面持ちで立っていた。

 

「どうかしたんですか?悟浄さん。・・・あっ、ハイライトなら、ちゃんと箱ごと買って来ますから。心配しないで下さい」

 

・・・そんなこと、そんなちっぽけなこと心配してんじゃねぇんだよ。

 

そんなことより―――・・・。

 

言いたかった言葉が、伝えたかった言葉が喉まで出かかったが、悟浄はそれを無理矢理、押し込めた。

 

「本当に気をつけて行けよ。何かあってからじゃ、遅いんだぜ」

 

「大丈夫ですってばっ。じゃあ、行って来ますねっ!」

 

は、右手を握って、元気よくガッツポーズを悟浄にしてみせる。

 

「あっ。おっ、おいっ!!」

 

と、悟浄が呼び止める暇もなく、は扉を勢いよく開いて外へ出て行ってしまう。

一人、悟浄はその場に虚しく残されてしまうのだった。

 

 街へ出て来たは、八戒に渡された買出しメモを見ながら、順序よく一つずつ片付けて行った。

この街は良い人ばかりで、何か居心地が良く感じられた。

それから、だいたい頼まれた物を買い終わり、残すは、悟浄が愛用している煙草"ハイライト"だけとなった。

 

そういえば、今日は悟浄さんの誕生日だっけ。

・・・ハイライトだけじゃ、何か寂しいなぁ〜。

 

は、この日、絶対にハイライトは自分のお金で買おうと考えていた。

三蔵達と旅をすると決めた時の夜、祖母と祖父から沢山とは云えないが、少しばかりのお金を手渡されたのだっだ。

今まで、あえて使わずにいたのだが、も女だ。

勿論、恋をする。

大切な、大事な男性の誕生日に、このお金でプレゼントを買うように決めていた。

 

ごめんね。おじいちゃん、おばあちゃん・・・。

私、やっぱりあの人のために―――・・・。

 

他に何かないかと思い、辺りをぐるりと見渡す。

そして、反対側に花屋を見つけ、其処へ足を運んでみることにしたのだった。

入ってみると、花のいい香りがしの鼻をくすぐった。

それから、すぐの目に止まったのが、少し奥まったところで、綺麗に咲いている白いバラの花。

白いバラの横には、花言葉が添えてあり・・・。

 

「すいませーん」

 

 

 ところ変わって、此処は宿屋。

なかなか、帰って来ないを四人は、心配していた。

丁度、これからのことで三蔵の部屋を訪ねに来ていた八戒は、段々と闇に染まっていく窓の外に視線を移しながら、こう呟いた。

 

「もう、日が暮れますけど。は大丈夫なんでしょうか・・・?」

「そんなに心配して、どうする」

 

窓の外を見つめている八戒に、三蔵は普段通りな冷静な態度で、言葉を投げかける。

 

「まぁ・・・それは、そうなんですけどね」

 

『あはは』と渇いた笑みを浮かべる八戒。

三蔵はマルボロの火を消し、一息ついてこう言った。

 

「俺達よりも、あいつを心配している奴が一人、いるからな」

「え?」

 

  その一方で、悟浄は割り当てた部屋のベットで、仰向けになり、残り数本となったハイライトを加えながら、ボーッと天井を見つめる。

ただ、何をするわけでもなく。

自分の、誕生日などはっきり云って、嬉しくもないが、(野郎に祝われるのだけは勘弁だがな)折角なのだから、二人で―――・・・。

二人きりでなくても良い。

・・・お前の傍に居たかっただけだ。

もしかして、忘れちまってるのか―――?

何だかんだと色々考えても、仕方が無いと思い、ふう。そう一息つくと、悟浄は、ひょいっとベットから身体を起こし、近くにあるテーブルの上の灰皿に短くなった煙草を押し付けて、火を消した。

扉に目を向けて、が帰ってくるのを待つことにした。

 

それから、暫らくして。

 

コン、コン、コンッ。

と三回、静かにノックの音がし、続いて声が聞こえて来る。

 

「悟浄さん、いますか?すいません、遅くなってしまって・・・」

 

そんなに高くもなく、低くもなく、中間ぐらいの声の持ち主。

自分が、一番聞きたかった声。

悟浄はベットから、すっと立ち上がり、扉に向かって行く。

 

「あぁ、いるぜ。、よく一人で平気だったな」

 

ガチャッ。

と扉を開け、を自分の部屋に入るように促した。

 

「あっ、はい。何とか、大丈夫でした」

 

は、普段通りに明るく返事を返した。

しかし、悟浄の方はいつもような感じではなく。

 

・・・」

 

悟浄は、ベットに座り、静かに声をかけた。

その様子を見て、は違和感を覚えた。

 

・・・元気がないようにも見える。どうかしたのだろうか?

と、は思った。

 

「あっ、ハイライトですね!ちゃんと買って来ましたよ」

 

ガサガサッと紙袋から箱を、取り出してテーブルに置いた。

 

「あっ、あぁ。サンキュ。・・・今日さ、何の日か知ってるか?」

 

からワザと視線を反らすと、こう聞いた。

お前だけには、忘れてほしくない・・・。

そう心で強く思った。

 

「もちろん!知ってますよ!!」

 

元気よく、明るく答える

そして、自分の後ろから、すっと一輪の白いバラの花と、可愛く小さなリボンに、包装紙に包まれている小箱を、悟浄に差し出してからこう言った。

 

「悟浄さん。十一月九日、お誕生日おめでとうございますっ!!」

 

「!?」

 

の、突然のお祝いの言葉に、悟浄は少し驚いてしまう。

期待はしていたものの、改めて言われると妙な感じがする。

 

「えっと、大したものじゃないですが・・・よかったら、受け取って下さい」

「あっ、あぁ」

 

と悟浄は、から差し出されているバラの花と小箱を、優しく受け取る。

 

「実はハイライトも、自分のお金で買ったんですよ」

「・・・

 

「はい?」

もう一度、名を呼ばれて返事をする。とその瞬間。

「えっ?うあっ!?」

いきなり、ぐいっ!とは悟浄に、自分の腕を掴まれ、そのまま引き寄せられてしまう。

 

「ごっ、悟浄さん!?」

 

咄嗟のことだったため、悟浄の行動に戸惑ってしまう

 

「忘れられているのかと思ったぜ」

 

悟浄はを抱きしめながら、耳元でこう一言、今まで聴いたことがない悲しそうな、弱々しい声で言った。

 

「悟浄さん・・・忘れるわけないじゃないですか」

 

は、そう言って目線の高さがいつもと違う位置にいる悟浄と視線を合わせる。

正確にいうと、は立ったまま、ベットに座っている悟浄に抱き寄せられたために、立ち膝の状態になっているだ。

視線を合わせてから少し間をおいて、は悟浄の左頬に優しくキスをするのであった。

自分からするのは初めてだったは自分の鼓動が大きく揺れ、耳元で聞こえているような感覚を覚えた。

 

からしてくるなんて、珍しいな」

 

そう言われて、は照れながら『えへへっ』と笑った。

 

「―――なぁ。何で、この白いバラ買って来たんだ?」

 

と悟浄は不思議そうな顔をして、に問う。

 

「えっ、それはですね。花言葉が良かったんで」

「へぇ、どんな花言葉?」

 

今度は、から視線を反らさずに口を開く。

また、も悟浄を見てこう答えた。

 

「白いバラの花言葉・・・それは『私は貴方にふさわしい』なんです」

 

「あっ、でも、悟浄さんにつりあう、いい女になれるか分かりませんけどね」

 

と苦笑混じりで言葉を続ける

 


 

「はい?」

 

何回も呼びたくなるお前の名前・・・。

それにしっかり答えてくれる。

悟浄はそんなを、今度は優しく壊さないように抱き締め直す。

 

「俺は、そのまま・・・今のお前が好きなんだぜ」

 

さらりと悟浄の髪が、自分の首筋に触れては心拍数を上げていく。

 

「悟浄さん・・・」

「だから、無理するなよ?っと、これさっきのお返しな」

 

優しい声と柔らかなキスをする悟浄に、は恥ずかしそうに、それでも笑顔で

 

「はい、分かりました」

と、こう言った。

それから、悟浄は自分からを離して立ち上がる。

 

「―――そんじゃ、まあ、夕飯でも食いに行くかな」

 

「そうですね!」

 

と言って、二人は部屋を出て行った。

 

白いバラの花と小箱が残されていた。

 

 

                           その中身は――――・・・。

 

 

 

 

 

                                         E N D


あとがき

はい、お粗末さまでした・・・。変に長くてすいませんでした;;
久ぶりの悟浄さん夢です。前回から間が空きました;
結構、書いてなかったような気が致します。
テーマは『白いバラとハイライト+ジッポ』です。でもジッポ、あまり関係ないような気が・・・;
甘めで頑張ってみました。でも、最後はほのぼのになっちゃうんですよねー・・・。
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では、失礼します。
                                    2003.11.9.ゆうき