REAGAN


 その日の夕方近く、賑やかな街から少し奥まった処の宿を取ることになった、三蔵一行と

何でも、今日、明日と催し物があるとかないとか。

そのために、他の街から訪れる客も少なくないようで、街の宿は何処も満室だったのだ。

空腹だからなのか、元気なく項垂れる悟空。

それを宥める。困ったような様子の八戒。三蔵はいつも通りに黙ってただ立っている。

悟浄は、悟空を一生懸命宥めるを、少し気にしながらも、煙草に火をつけようと、ジッポを取り出した時に、初老の男が声をかけてきたのだった。

どうやら、この街にある小さな宿の主人らしく、八戒が宿を探している、そう伝えると、その男はニッコリ微笑んで自分の営んでいる宿へと案内してくれた。


 そして、宿の一室で、いつものように悟浄を含め、悟空、三蔵、八戒の四人はそれぞれ寛いでいた。

いつの間にか、悟空は上機嫌になっている。

まったく、ガキだな・・・。と、悟空を一瞥すると悟浄はベットへと仰向けに転がった。

勿論、は別室。珍しいことに、丁度よく四人部屋と一人部屋が取れたからである。

初めのうちは、どちらかにしようか躊躇っていただが。

悟空を始めに、三蔵、八戒の二人は口々にこう言った。

「俺は、どっちでも良いんだけどさ。エロ河童が一緒だと、何するかわかんねーだろ?」
「そうですよ、。久しぶりに、一人部屋が取れたんですから。ゆっくり、どうぞ」
「―――・・・そうだな。・・・クソ河童だけ、一人部屋にする・・・隔離する手もあるが?」

心配そうな顔の悟空に、笑顔の八戒。

その二人に同調し、静かに頷く三蔵。

これでは、自分がいかに信用がない、されていないか分かってしまう。

そう思うと、少しだけだが悲しくもなってきたりする。

「・・・おい、おい」

言いたい放題の三人にツッコミを入れる悟浄。

"何もしねーよ" "信用ねぇな"

などと言ったところで、変わることもなく、三人から、不信な眼差しで見られるのがオチだ。

本命の・・・大事な女は、だけだから・・・。

悟浄は、いつもに、下手に手は出さないように気を付けていた。

そんな四人のやり取りに、少しの間、あっけにとられていただったが。

「あっ、じゃあ、お言葉に甘えますね」

そう言って、クスクスと笑うと、軽く御辞儀をしてから、四人と別れて一人部屋へ向かった。

そのの後ろ姿を四人は静かに見送った。

それから、部屋に入り、悟浄は窓側に面して置かれているベットに腰掛けると、煙草を吸い始めた。

それを見ていた八戒が、ふいにこんなことを口にした。

「そういえば、悟浄。最近、街へは出掛けませんよね?」
「――そうだよな。ここんとこ、ずーっと、部屋にいるもんな」

八戒の問いに、悟浄が答えるより早く、悟空が口を開いた。

"―――いいじゃねぇかよ、別に・・・。ほっといてくれ"

と言いたいが、黙っていると、変な気をまわされそうそうだ。

かと言って、下手な発言で、数分前のように言いたい放題になるのも勘弁してほしい。

さて、どうしたもんか・・・。

この場に見合った良い言いまわしでも見つかれば・・・と悟浄は思考を巡らせてみる。

しかし、一向に良い言葉は浮んでこず。

「・・・悟浄?」

何も答えない悟浄を、不思議に感じたのか、八戒は声をかける。

それでも、悟浄からは返答がない。

「おーいっ、エロ河童〜?」
「・・・―――どうした?」

いつもは、あまり干渉しない三蔵までもが、読んでいた新聞から視線を外し、悟浄に声をかけてくる。

「―――何でもねぇよ。別に」

少し間をおいて、俯き、そう呟く。

顔を上げたくないワケでもないが、何故か、その時だけは下を地面を向いていたかったのだ。

―――きっと、明日は嵐か雹が降って来るかもな・・・。

と心の内でそんなことを思いながら、のことも考えていた。

夜の街へ出掛けない=のことを想っている、ためだと知られたくもないのもまた事実で。

以前では、考えていなかった"運命"という言葉が、最近になってから自然と頭に浮んでくるようになったのだ。

勿論、と出会ってからだ。

・・・どっしようかな〜などと、いつものノリで思ってみる。

黙っていれば、黙るだけ余計に変に思われる。

もしかしたら、三蔵達の方が"明日は嵐か雹・・・"とでも、思っていそうだ。

と、その時。コン、コン、コン。誰かが、自分達の部屋をノックする音が耳に入ってくる。

「はい、はい。僕が見て―――・・・」
「いいぜ、八戒。俺が見てくっから」

「そうですか?じゃあ、お願いします」
「はいよっ」

八戒が、行動に移す前に、悟浄は立ち上がりドアに向かって歩いていく。

誰でも構わないが、一時、その場を離れたかったのだ。

そして、扉の向こうにいるのは、だと思いたかった・・・。

が、静かに、軽くノックをするのを悟浄は知っていたからだ。

ドアノブに手をかけ、回し、開く。

「あっ、悟浄さん」
。―――・・・当たりだな」

は、悟浄の姿に少し、驚いた様子を見せたが、すぐに軽く微笑んだ。

きっと、八戒か悟空が出てくるかと思ったのだろう。

反対に、三蔵は、可能性が低い。悟浄も決して、可能性が高い訳ではないが。

「悟浄さん?何か、賭け事でもやっていたんですか?」

"当たり"と言う言葉が気にかかったらしく、不思議に思ったのか、は小首を傾げてそう聞いてきた。

「あっ、いや。ちょっとな・・・」

見上げてくる、の愛らしいその眼差しに、心拍数が上がりそうな感じを覚えて、苦笑い混じりでそう言葉を誤魔化してみる。

「・・・あっ、そうでした。悟浄さん、皆さんいますか?」

何かを思い出したらしく、ポンっと手の平を軽く叩き、は悟浄にこう聞いてくる。

「えっ!?あっ、悪ぃ。あいつら、外なんだよな」

の発言に言葉を詰まらせながらも、悟浄は、ワザと慌てる様子を見せずに、部屋に続いている扉をパタンと静かに閉めた。

「え!?」

きょとんと、目を丸くし、少し驚いた様子の

部屋に入って、そんなに時間が経ってるわけではなかったため、"外へ出かけた"と言われてはびっくりしたようだ。

「今さっきな、バカ猿が"腹減ったー"って言い出すもんだからさ。それで、街へ行っちまったんだよ」

出掛けているという嘘が、ばれないように、悟浄はゆっくり、静かにこう答えた。

「―――・・・そうなんですか」

心なしか、が項垂れているように、そんな感じに見える。・・・そう思うのは自分だけだろうか?

「・・・何かあったのか?」

と自分との身長差を埋めるように、悟浄は少し屈んで元気がないように見えてしまう、その顔を覗き込んだ。

「いえっ、そんな大したことじゃないんですけど・・・」

自分の行為に、照れて焦っているようで、急いで顔を上げるとは、手を軽く左右に振ってみせた。

"でも、皆さんが出掛けてるとなると・・・"と、言葉に戸惑っている

「言ってみな」

そんなに、悟浄は優しく促した。

「あっ、はい。今日、この街で少し遅れの七夕祭りがあるようで」
「あぁ、それでか・・・」

日も沈み、夜が訪れようとする空に、花火がパッと輝いているのが、宿の高い位置にある窓から見えた。

それに、悟浄は目をやる。

それと同時に、街の大通りからは、人々の賑やかな声が聞こえてくる。

「でも、皆さんが出掛けてますよね。それじゃあ・・・」

"無理ですよね"そう呟くと踵を返そうとした、その時。

「ちょっ、ちょっと待てよ。・・・、俺じゃダメか?」

咄嗟に、悟浄はの綺麗で細い手首を掴んで、の次の行動を静止させた。

「えっ!?でも・・・」

「あぁ、いーの、いーの。街で行けば、あいつら居るだろうし」

戸惑っているに対して、悟浄はそう言って、軽く笑ってみせる。

「じゃ、じゃあ、お願いします」

ペコッと頭を下げる

「O,K!それじゃあ、行きますか」
「はいっ!・・・あっ、ちょっと、待って下さい」

悟浄に続いて、歩き出そうとした。だが、ふと何かを思い出し、前を行く悟浄に声をかけた。

「どうした?」

振り返って、の次の言葉を待つ。

「夜は、少し涼しくなるみたいなので上着を・・・」

いつもの上着を持ってこなかったことに気付いて、慌てる

自分も持ってくるのを忘れたらしいが、悟浄の方も、上着を羽織ってはいないため、どうやら、は相手の方まで心配しているようだ。

「あぁ、別に平気よ?」
「でっ、でもっ・・・」

慌てふためく、のそんな姿に、愛しさを感じる。

「大丈夫。がいるなら、寒くならないだろうしな。だから・・・行こうぜ」

悟浄から手を差し伸べられ、は躊躇っていたが、その手を受け取ると笑顔でこう答えた。

「・・・はいっ!」

そうして、二人は扉を開け、賑やか街へ出掛けて行った。

 

大丈夫だ。もし、寒くなったら、あたためてやる、絡まれそうになったら俺が助けてやるから・・・な。

 

もし、この手を離して違う奴を求めるなら・・・そうだな、その時は笑って見送れるようにするから。

 

だから、今は―――・・・。

 


                                     E N D


あとがき。
 はい、久しぶりの、そして、1周年記念+七夕企画のフリー配布、悟浄さん夢となりました。
去年は、悟空夢でしたから。今年は、悟浄さん夢に致しました。
あやおく、悟浄さんもキャラが忘れそうになってしまっていて・・・危なかったです;
桃源郷ですよv久しぶりですねー;個人的には、現代版パラレルの方書きやすいので。
どうしても、そちらにいってしまうんです;;
フリー配布なので、お持ち帰りO,K!ですよ。※配布期間終了しました。
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                                          2004.7.18.ゆうき