The  shimmer       −真夏の陽炎−

〇まだまだ残暑が厳しく、寝苦しい日々が続く、そんなある夜のこと。

いつも通りの決まった時間に、は読みかけの本を閉じて、手元にある緑色の目覚まし時計を起床時刻に合わせ、自室の電気を消して、それから眠りにつくのだった。

は、夢を見ていた。

夢の中で、は強い日差しに照らされながら、ただそこに立っている自分に気付く。

辺りを見回しても何もなく。木陰さえ見つからない。

―――・・・暑いなぁ・・・。

何で、私 こんなところにいるんだろう?

    そうだ、      を待ってるんだっけ。早く来ないかな     。

しかし、時間は刻々と過ぎていった。

夢の中でも、時間が流れる。

それから少し経って、はやっと     が来るのを感じた。

真夏の陽炎から―――・・・。

あと、もう少しでその姿が見える。

 

は、こちらに向かって走って来る人物の名前を叫んだ。

 

『      !こっちだよっ!!』

 

と同時に、ピリリリリリッ!!

 

電車発着時にかかる、ベルによく似ている音が、辺りに、けたたましく鳴り響き渡り。

その音で、ハッとは、夢の中から現実世界へ、呼び戻されたのだった。

まだ鳴っている目覚まし時計を停めて、ボーッとしながら起き上がり、部屋を出て洗面台へ歩いていく。

寝起きのためか、足どりがまだしっかりしていない。

顔を洗いながら、は何かが頭の中にひかかっているようで、それをなかなか思い出せずにいた。

考えてみようと一生懸命になるのだが・・・一向に思い出せない。

一体、誰だったんだろう・・・?

私が待っていたのって・・・。

そう思いながら、は着替えを済ませると、日課となっているお弁当作りから始める。

三蔵に悟浄は、仕事が忙しいため、だいたいの昼は外食が多かったりする。

だから、今日作るのは、八戒に悟空・・・それと自分を含めて3人分。

それに、勿論ではあるが、4人分の朝食も用意しなくてはならない。

ちなみに、これは毎日とは限らない。

時に、3人分や2人分、5人分となったりする。

そのため、は5時に起きて、お弁当と朝食の支度をするのだ。

それから一時間経ち、だいたいのお弁当と朝食の準備を終え、は時刻を確認する。

時刻は、6時を回っていた。

今日は、朝練があるから早めに起こしてくれ、と悟空に頼まれたのを思い出し、悟空を起こすべく、ついでに朝刊も取ってこようと、は掛けていたエプロンを外す。

そして、廊下に通じるリビングの扉を開けようして、ノブを回そうと手をかけた、その時。

 

ガチャッ。・・・ガコンッ!!

 

突然、反対側から扉が開かれ、それを回避出来ずには思い切り、額を打ちつけてしまった。

 

「いっ、いったぁ〜!!」

 

は、痛さのあまり思わず額を押さえて、その場に蹲ってしまう。

 

「えっ!?!?だっ、大丈夫かよっ!?」

 

そのの姿に、反対側から、何気なく扉を開けた張本人の悟空は、目を見開いて驚く。

まさか、がリビングから出てくるとは予測もするはずもなく。

悟空は、一気に、寝ぼけていた自分の頭が、覚めていく感じを覚える。

悟空は蹲って、痛そうにしているの傍に、しゃがみ込んで声をかけた。

 

「ごっ、ごめんっ!が出て来るなんて思わなかったからさ・・・!!本当にごめんな」

 

珍しく、自分のこと以外で慌ててる悟空。

それは、相手がだからなのか・・・?

 

「・・・あっ、いいよ。平気だから・・・心配しないでね。おはよう、悟空」

 

と悟空に気にしないように言って、は顔を上げ、悟空と視線を揃えて笑顔をつくってみせる。

 

「でも・・・さー・・・」

 

の瞳に、心配そうな悟空の顔が映った。

その顔を見て・・・

ズキンッ。

は、その時、自分の胸が痛くなるを感じていた。

 

「本当に大丈夫だって。でも、ちょっと痛いかなー・・・て」

 

は、苦笑しながら前髪を持ち上げ今、打った額の真ん中を触ってみる。

 

「やっぱ、痛いんだろ?無理すんなよな!?」

 

の手を退かして、悟空は自分の右手をその額の真ん中に当てる。

少し・・・腫れてるような気がする。

そうなのだ。

少しではあるが、の額は確かに腫れていた。

 

「大丈夫だって。こんくらいっ!何かで冷やせば治るから・・・ね」

 

そう言って、は優しく悟空の手に自分の手を重ね合わせる。

 

「うん。・・・でも、無理すんなよ・・・」

 

の手の平の暖かさを感じ、悟空は頬を少し赤くさせながら、小さく呟いた。

 

「――――・・・ありがとう。それより・・・」

 

と言い掛けて、ビシッ。と指を悟空に突きつける。

いきなりのの行動に、悟空は目を丸くして驚く。

 

「悟空の方こそ、無理・・・無茶しないでねっ!特に部活でっっ!!」

 

最後をワザと、強調してそう言い切る

 

「えっ!?あっ、あぁ。――――あぁっ!!」

「なっ、何!?」

突然、その場で何かを思い出したらしく、大声を上げる悟空に、は何事かと思いビクッ肩を震わせ、驚いてしまう。

 

「そうだっ!俺、朝練があったんだ!!・・・―――!今、何時!?」

 

悟空は、その場からすくっと立って、まだ座っているに現在の時刻を聞く。

 

「えっ!?あぁ・・・今、6時15分だけど・・・」

 

テレビの上に、置いてある置時計に視線を移して、現在の時刻を伝える

 

「やべぇ!!遅れちまうよっ!?コーチに怒られる・・・!!」

 

と血相を変えて慌てふためく悟空。

そんな悟空に、は落ち着いて、着替えてくるようにと促した。

それから朝食をとっていくようにとも言った。

 

「悟空・・・落ち着いてね」

 

慌しく御飯を、ガツガツ口の中に掻っ込んでいく悟空。

傍らで、はそんなに、急いで食べたりしたら、喉に詰まらせないかと心配する。

しかし、のそんな心配をよそに、悟空はしっかり、御飯を3杯もおかわりした。

そして、足音をさせながら慌てて玄関へ走って行く。そのあとを追いかける

 

「じゃっ、じゃあ、行って来る!!」

「うん。―――気をつけてね」

 

ランニング・シューズを履き、スポーツ・バックを持ち、玄関に向き合うカタチをとった悟空だが。

 

「あっ!そうだっ!!なぁ、

 

ふと何かを思い、の方に向き直る。

は、そんな悟空を不思議そうに見つめる。

 

「何?・・・どうかした?」

 

悟空は一瞬、言おうかどうか躊躇ったが、口を開いてこう聞いた。

 

「今日の帰り・・・時間あるか?」

「ん?―――・・・うん。まぁ、あるにはあるけど・・・」

 

いきなりのことに、戸惑い曖昧な返事をしてしまう

しかし、悟空はそんなのお構いなしで。

 

「じゃあさ、俺の部活動、見に来てよっ!」

「えっ!?でっ、でも・・・」

 

悟空は、腕時計に視線を落として時刻の確認をする。

 

「―――おっと!こんなことしてる場合じゃなかった!!じゃっ、じゃあ、約束だからなっ!」

 

の返事を待たずに、慌てて玄関から走り出して行く。

 

「えっ!?あっ。ちょっ・・・!!」

 

は、とっさに呼び止めようとしたが、そこにもう悟空の姿はなく。

 

1人、虚しく取り残されてしまう。

 

 

 

もーっ。仕方がないなぁ・・・。

 

 

 

〇そして、悟空が通っている大学。

は、帰りがけに友人に、このことを話したらひどく冷やかされてしまうことになった。

あまり、言いたくはなかったのだが、何で一緒に帰れないのか?

などと問われ、正直に言ってしまったのが悪かったのかもしれない。

溜め息が自然に出てしまう。ここの大学は学力・スポーツ面でも有名だ。

そして、結構広い・・・。

は迷いそうになりながら、何とか陸上部が使用している練習場へと到着する。

約束通り、来てみたのだが悟空の姿は見当たらなく。

まだ、日が長いため夕方近くになっても、日は高い。

その日差しが容赦なくを照りつける。

ジリジリと肌が焼け付くような暑さだ。

は、持っていたハンド・タオルで、額の汗を拭った。

木陰はないかと、辺りを見回してはみたが、木という木はなかった。

どうしようかと、戸惑っているの背から、声が聞こえてくる。

 

一瞬、幻聴かと思ったが・・・。

 

「おーいっ!!!」

「!?」

 

は、声がした方を振り返り・・・ハッとした。

これは・・・夢と同じ光景・・・。

日差しが強くて、自分の周りには陽炎ができ、その中から―――・・・。

あぁ。

私が待っていたのは悟空だったんだ。

今、やっと思い出した。

あの陽炎から走って来た人物。

自分が呼んだのは・・・。

 

「・・・?」

 

傍までやって来た悟空は、ボーッと何かを考えているを静かに呼んでみる。

 

「―――・・・悟空!!」

 

と勢いよく、自分に抱きついてくる

 

「へっ!?ちょっ、ちょっと・・・!?」

 

咄嗟の出来事だったため、悟空は少し後ろによろめきそうになってしまう。

 

「悟空・・・大好きだよ」

 

に耳元で囁かれて、悟空は鼓動が高鳴るのを覚えた。

 

「・・・―――!!うん、俺ものこと・・・」

 

それと同時に、静かに瞳を閉じて、という存在を肌で感じようとして自分も手を回そうとした時。

 

 

バコンッ!!

 

 

 

「―――ってえ〜!!」

 

今度は、悟空がその場に蹲ってしまった。

 

「だっ、大丈夫!?」

 

何かが悟空の頭を直撃したらしいが―――・・・。

は、近くに転がっているソフトボールを見つける。

 

そっか、きっとこれが、直撃したんだな・・・。

 

「こらぁ、孫!!そんなトコで、いちゃついている暇があったら走れ!!」

 

と遠くで大声を張り上げているのは、悟空のコーチである人物。

 

「うわぁ!?やべっ!!あっ、じゃあ、また後でな!」

「うん!!―――あっ、悟空!!」

 

駆け出して行く悟空を、呼び止める

 

「ん?」

 

「私、待ってるから・・・頑張ってねっ!!」

 

は振り返って来た悟空に、せーいっぱい大きい声を出して伝える。

 

「―――・・・おうっ!」

 

高々と拳を作り、右腕を上げて、満面の笑みで返事をする悟空。

そして、駆けて行く・・・。

その後ろ姿が輝いていて、つい涙が零れそうになってしまう。

 

自分の夢が現実のものと・・・正夢となった日―――・・・。

 

 

 

悟空、大好きだよ・・・――――。


                                              E N D



※最遊記ドリーマズ・リングの企画で書かせて頂いたモノです。

企画は終了致しましたので、サイトに載せました。


あとがき・・・

  はっ、初めまして、こんにちは。【春雪の日】の管理をしております、ゆうきと云う者です。
今回、最遊記ドリーマズ・リングの企画物であります、リレーお題の『陽炎』を担当させて頂きました。
やはり・・・悟空ドリームとなりました。すいません。本当は焔でも良かったんですが、
ここはあえて悟空でいこうかなと。当サイトが、悟空メインなもので。
もちろん、現代版パラレルで書かせて貰いました。
では、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。これからも、どうぞ宜しくお願いします。
                                       【春雪の日】管理・ゆうき