10000HIT記念夢1

 

                  秋雨と貴方と喧嘩

 


 もう辺りは暗く、深い闇に包まれている。

その中をは1人、あてもなく秋の冷たい雨に打たれながら、ゆっくり一歩ずつ進んで行く。

俯き黙って。もう、身体全体が濡れていた。

髪からは、ポタポタと雨が伝い、雫となって地面へ落ちる。

俯いている、の目からは、涙がその雨と一緒に流れていた。

止まることのない涙・・・。

何故、この雨の中、傘も差さずに歩いているかというと、それは数十分前のある出来事から。

は、三蔵と公衆面前で喧嘩をしてしまったのである。

いつもは、大人しいだが一度、頭に血がのぼると自分でも抑制がきかなくなってしまう。

まぁ、喧嘩といっても、三蔵は無言のままだっため(ただ、口をはさむ余裕がなかっただけなのだが)だけが一方的に怒っていたと言った方が正しかったりする。

仕事が忙しい中、いくつかのスケジュールを潰してまで、自分を食事に誘ってくれようとした三蔵。

その気持ちだけで嬉しかったはず。

だが、やはり無理があったのか、その件はキャンセルになり、仕事に戻らなくてはならなくなってしまったのだった。

そんなことは、初めから知っていた。

三蔵のことは、自分が一番解っているはずなのだ。

なのに、思っていることとは反対に口が勝手に動いてしまい・・・。

 

『三蔵さんなんて大嫌いっ!!』

 

もう戻れない。

この雨の中、仕事の合間をぬって待ち合わせ場所である駅に足を運んで、謝りに来てくれた三蔵にあんな酷いことを言ってしまった。

三蔵が、雨が苦手なのはよく知っている。

その雨に構わず来てくれたことが何よりも嬉しかった。

の脳裏に、あの時の、三蔵の表情が過ぎった。

今更、後悔しても遅いのだが。

いつも、寂しくて、切なくて、会いたいのに会えなくて。

そんな毎日を過ごしていた。

こんなにも愛しい人に何故、あんなことを・・・。

あの後、は駅を飛び出して、繁華街を通り抜けて、気が付いた頃には、もう人気のないビルの工事現場の前まで来ていたのだった。

その金属製で作られた頑丈そうな壁に、凭れかかり、降り続く雨を見上げた。

止みそうもない暗い空を見つめながら・・・

一人、呟く。

 

「・・・ごめんなさい」

 

届くことないだろう、その小さな声で、今にも消えそうなその声で。

その瞬間、は力がぬけてしまい、その場に蹲ってしまった。

 

「―――・・・ごめんなさい、三蔵・・・さん」

 

それと同時に、自分の目からは涙が溢れて止まらなくなってしまうのだった。

こんなはずじゃなかった・・・。

笑って許すぐらいの覚悟は、出来ていた。

いっそ、このまま、何処かへ消えてしまおうか・・・と思った。

その時、すっと雨が途切れ、は驚いて顔を上げる・・・

 

「――――・・・探したぞ、

 

の見上げた先には、傘を持った三蔵の姿が、そこにあった。

一瞬、幻かと目を疑う。

これ以上、を濡らさないために傘を、に被せることにしたのだった。

その三蔵の優しさが、自分の胸を締めつける、そんな錯覚をは覚えた。

 

「・・・・・・」

「さぁ、帰るぞ」

 

三蔵のその言葉に対して、は口を開こうとせず、首も縦にも振らず、黙って横に振るだけだった。

そして、また俯く。

 

「いい加減にしろ。いいから、帰るぞ。あまり、心配かけるんじゃねぇよ」

 

少し、乱暴にの手首を掴むとグイッと引っ張り、立たせる。

の身体は冷え切っていた。

この冷たい雨の中、傘も差さずにいたのだから、雨に体温を奪われるのも無理はない。

少しではあるが、の身体が小刻みに震えていた。

 

・・・」

「やだっ!!離して下さい!!・・・どうせ、悟空達に心配かけるから・・・というだけで来ただけでしょ!?・・・それだったらっ・・・!!」

 

必死に掴まれたままの手首を振り払おうとするが。

 


「!!??」

 

もう一度、自分の名を呼ばれ、次の瞬間には、三蔵に強く抱きしめられていたのだった。

 

「やだっ!だから、離して下さいっ!!」

 

しかし、の力では、どうにもならず。

ドクンッドクンッ・・・。

三蔵の心臓の音が、雨音より大きく聞こえるような感じが、にはしたのだった。

 

「このままだと風邪、引くだろうが」

 

三蔵はそう言うと、さっきより、を抱いている腕に力を込める。

 

「はっ、離して・・・」

 

三蔵の身体の暖かさと、心音で、は今、何を言っていいのか、何を考えたらいいのか分からなくなってしまうのだった。

 

「・・・

 

もう一度、呼ばれては少し顔を上げる。

三蔵も、と視線を合わせる。

 

「・・・・・・」

「お前の声、聞こえていた。何回も呼んでただろ?」

「―――・・・!?」

 

その言葉に、は目を見開いて驚いてしまう。

 

「だから、来た。俺を呼んでたからな。・・・それに」

「・・・?」

 

「お前のあの言葉、本心でないことも、最初から分かっていた」

 

すっと、三蔵は、自分から優しく離すと、の唇を指でなぞる。

そして、その冷たくなってしまった唇を暖めるかのように、口付けをするのだった。

 

「さっ、三蔵さん・・・?」

 

三蔵の思いもよらぬ行動に、ただその場に立ち尽くしてしまう、

 

「さぁ、帰るぞ。これからは、出来るだけお前の傍にいてやる」

 

踵を返し、自分の愛車からタオルをとると、の頭に被せ、また抱きしめるとこう言ったのだった。

 

「・・・だから、泣くな。どうしても泣きたいなら、俺の前だけにしろ・・・いいな?」

 

「――――・・・はい」

 

と言って、はゆっくりと頷く。

 

 

 

いつの間にか、冷たい雨も止んで、雲の切れ間からそんな二人を、満月が優しい光で見守っていた。

 

 

 


                                               E N D

※フリー配布、終了致しました。間違っても持ち帰らないようお願い致します。

 

後書き・・・。

すっ、すいません;(土下座←またか;;)

甘く・・・ないですね;シリアスですか?これは??って感じですね。

久しぶりの三蔵さん夢なんで許してやって下さいませ。

7月から書いてなかったような気が・・・;

こんなのでも気に入って下さったならどうぞ、お持ち帰り下さいませ;

前回と同じく、パクリはよして下さいね。

お持ち帰りの際はBBSなどに書き込みしていただければ嬉しいです。

本日から2週間フリー配布とさせて頂きますので宜しくお願いしますね。

                          2003.10.28.ゆうき