Power

〇いつも通りに朝が始まり、親友であると楽しく1日を過ごす・・・

はずだったが、は何故か右足を庇うようにして、そろりそろりと引き摺り、ゆっくり通学路である道を歩いて行く。

それは、ほんの少し前の出来事。

今朝も、いつもの如く元気よく自分達の住んでいるマンションの階段を駆け降りていた。

もう、あと残り数段となったところで、過って足を踏み外し、右足を思い切り挫いてしまったのだった。

だが、いちいちこんなことで、部屋まで戻っていたら遅刻をしてしまうし、それに何より仕事が忙しい、三蔵や悟浄、それに八戒までに迷惑をかけてしまい、仕事に支障が出てしまったら大変なことになるだろう。

段々、痛みが増すなか、痛みを堪えて必死の思いで、少しずつではあるが足を進めていた。

この速度では遅刻は免れない。―――そう覚悟したの後方から、聞き慣れた声がした。

 

「おーいっ!!?」

 

キキィッ!!

その声共に、勢いよく自転車で走って来ると、の目の前で一旦停車をさせたのは、『悟空』と呼ばれる茶髪で金眼の小柄な少年だった。

これでも、一応、4年生制の大学へ通っているのだが。

予想もしてなかった、悟空の登場に、驚いて呆然と立ち尽くしてしまうのだった。

悟空はの右足を、じっ。と見つめてくる。

何か様子がおかしいとでも思ったのだろう。

 

「―――・・・。もしかしてお前さ、右足、怪我でもしたのか?」

 

悟空の鋭いとも言える直感。

そう聞いてくる悟空に、は目を見開き、前より酷く驚いてしまった。

 

「―――!・・・あっ、うん。・・・その、うちのマンションの階段で思い切り挫いちゃってさ。あたしってば、本当にドジだよねっ!」

 

ワザとは、明るく振舞って『アハハ』と渇いた笑みを浮かべる。

きっと、笑われてしまうだろうと思ってのことだったのだが。

そんなの様子を一通り見ていた悟空は、笑いもせず、ただ真剣な眼差しでを見ていた。

何か、自分の振る舞いにとても恥ずかしくなりは俯き黙ってしまう。

悟空が、大好きな人だからこそ、冗談半分でながしてほしかったのかもしれない。

 

「なぁ、

 

と悟空は静かに口を開いて、俯き黙ってしまったに声をかける。

 

「・・・何?」

 

返事をし、顔を上げたの目には、足の痛さを堪えようとする気持ちからなのか、涙が目にいっぱい溜まっていた。

そのの姿を見た悟空は、自分の胸がズキンッと一瞬だが、重苦しくなったような気がした。

 

「俺の自転車でいいなら、学校まで乗っけってやるけど・・・どうする?」

 

と言って、後ろの自転車を親指でさす。

そう言った悟空の表情は、先ほどとは変わらずに真剣そのもので、には別人に見えてしまう。

・・・いつもの、子供っぽい悟空ではないような、そんな気がにはしたのだった。

少し、間を置いてからは悟空の言葉に甘えることに決めた。

 

「―――じゃあ、お願いします」

 

ぺコリと頭を下げる

 

「よしっ、わかった!じゃあ、マッハで行くから安心しろよっ!」

 

と悟空は、に荷台の上に乗るように促すと、自分も素早く飛び乗ってこぎ始めた。

そして、結構スピードも出てきたであろう、その時、は念のために、この先の急な下り坂ならぬ、登り坂があることを伝える。

 

「・・・あっ、悟空。この先に急な登り坂があるんだけど・・・」

「―――・・・あぁ。分かってるって!心配すんなよ」

 

悟空は遠くに見え始めた、急な登り坂を確認し、速度を順に上げていく。

そうして、坂が目の前に立ちはだかり・・・

そして、坂に沿って自転車が傾いたと同時に悟空はペダルを思いっきり強く踏んで登っていく。

 

「うわっ!?」

 

は声を上げ、怖くなり反射的に目を閉じてしまう。

今にも、後ろに振り落とされてしまいそうな錯覚を覚える。

 

「大丈夫だから、俺にしっかり掴まってろよ!」

「うっ、うん!」

 

は、悟空の体に回した腕の力を強める。

だが、少し経ったところで速度が落ちたような感じがして、は、ゆっくり目を開けてみることにする。

そこには、一生懸命にペダルを踏み、前へと進もうとしている悟空の姿が映った。

 

「ごっ、悟空・・・」

「・・・ん?」

 

それを見たは、言いにくそうに口を開く。

 

「だっ、大丈夫?・・・あたし、降りた方が良いかな?」

 

「・・・いいっ!大丈夫だっ!!こんな坂ぐらい・・・!!」

 

と悟空は強く言い切ったものの、息が上がって苦しくなってくる。

しかし、ここでへばったりしたら格好がつかないし、を落ち込ませてしまう。

なんとしてでも、この坂を登らなくてはならない。

力まかせにグングンとこいで行く。

こうして、無事に坂を登り切ることが出来、の通っている学校に到着した。

丁度、登校時間のピークを過ぎたのか、生徒達はまばらだった。

頬をほんのり赤くし、荷台から、そろりと地に足をつける

そのを悟空は、心配そうに見つめる。

 

「大丈夫か?・・・保健室行けよ?」

 

「・・・うん。ありがとう、悟空」

 

は悟空を振り返って、無理矢理笑顔をつくった。

歩き出そうとして、はふと足を止めて再び悟空を振り返る。

 

「あっ、そうだ。あたし、悟空にお礼したいんだけど・・・何か欲しい物とかある?」

 

「へっ!?・・・いいって、別にさ」

 

いきなり、『お礼』・『欲しい物』と聞かれて、驚く悟空。

 

「だって、あたし・・・悟空にお礼したいんだもん!」

 

と一生懸命に言うが、少し幼く見える。

容姿は・・・多分、の方が大人っぽく見えるはずなのだが。

 

「うーん・・・。じゃあ、。ちょっと耳貸して」

 

『おいでおいで』と優しく手招きする悟空に、は足の痛みも忘れて、傍へ寄って耳を傾ける。

悟空もの耳元に唇を寄せ・・・囁く。

誰にも聞こえないように、そっと・・・。

 

「俺の欲しいのはさ、物じゃなくて・・・だよv」

 

「えっ!!??」

 

そのことを聞いた瞬間、は驚きのあまり、顔を真っ赤にして言葉を失ってしまう。

悟空は、あまりの可愛さに思わず、笑ってしまいそうになりながら、の唇に軽くキスをした。

 

「じゃあ、また帰りになっ!」

 

それだけ言うと悟空は、ササッと自転車に飛び乗り、その場から走り去ってしまった。

 

春の暖かい風のように・・・

 

 

自分を包みこみ――――・・・。

                                         E N D


‖‖‖‖あとがき‖‖‖‖

 はい、前の『下り坂』の反対、『登り坂』でした。

どうだったでしょうか?実は、このテーマ友人からの提案なんですv

 ―――と云うか、リクエストに近いような・・・(汗)

あたし、大人っぽい悟空を目指して夢を書いておりますvvv

これからも頑張りますので、よろしくお願いしますね!喜んで頂けたら嬉しいですv

                                     2003.8.9.ゆうき