彼の第二ボタン

 


〇今日は、悟空が3年間通っていた高校の卒業式。

優気は、前日からこの日のために、遠いスーパーやデパートへ足をのばして、食品を沢山仕入れてきたのだった。

そして、八戒に手伝って貰い、朝御飯のメニューを色々用意した。それは、悟空が式の最中に、御腹を空かせないようにするため・・・

だったのだが、めーいっぱい口に入れて、食べている悟空の姿を見て、優気は自分のやったことが、あまり効果がないように思えて力なくガックリと肩を落とした。

〇そして、いつものように玄関まで悟空を送り出そうと、優気は食事の後片付けもそこそこに、玄関で学校専用の靴を履いている悟空のトコロへと足を進めた。

 

「悟空。忘れ物はない?」

「おう」

「気をつけて行くのよ。―頑張ってね」

「・・・うん。分かってるって」

 

はたから見れば、きっと仲が良い親子の会話に見えなくもないのだが。

------あるいは、新婚の夫婦か・・・。

靴を履き、いつも通りに鞄を持って玄関から出ようと、ドアノブに手を掛けたトコで、悟空は何を思ったのか、優気を振り返ってきた。

忘れ物でもしたのだろうか、と優気はふと思った。

 

「なぁ。優気・・・」

 

悟空の顔を見れば珍しく真剣だったため、優気は少し驚いた。

 

「ん?―――何か、忘れ物でもした?」

 

と念のために聞いてみることにする優気。

悟空は首を縦に振ってから口を開いた。

「あのさ。多分、今日さ式が終わった後、女子達から『第ニボタン』の催促・・・ってのは無さそうだけどさ。一応先に渡しておくなっ!」

少し、頬を赤く染め悟空は、勢いよく自分の制服である学ランの第二ボタンを取って優気の手に握らせた。

その悟空の行動に驚きのあまり、ただただ呆然とその場に立ち尽くしてしまう優気。

 

「―――そんじゃ。行って来るな!」

 

と、元気よく玄関を出ようとした悟空を、我に返った優気が止める。

 

「ちょっ・・・!―――悟空のバカァ!!!」

 

いきなり優気の怒鳴り声が部屋中に響いた。

 

「―――どうしました!?」

 

優気の声に驚いて、八戒が自室から飛び出して来た。

八戒は、一応保護者ということで(正確的には保父さんなのだが)今日の卒業式に出席することになっていた。

ちなみに、三蔵は朝早くから仕事が入ってるため、悟浄は仕事が朝までかかるらしく出席出来ない。

そのため、八戒が自分の仕事を休んで出席することになったのだ。

 

「あっ。八戒さん・・・。ごっ、悟空がっ・・・!!」

「!?悟空が・・・どうしたんですか?」

 

「――――悟空が制服の第二ボタン、くれると言って取っちゃったんです~!!」

 

優気はすでに半泣きの状態で、八戒に訴える。

その優気の姿を見て悟空は罪悪感を覚えてバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「式前に取らなくてもいいのに・・・。誰がつけるんですか~!?」

「おっ、落ち着いて下さい。・・・優気、幸いなコトにまだ時間はあるんですから・・・ね?」

 

と八戒は、いつもの優しく落ち着いた口調で、少しパニックになりかけている優気を宥める。

 

「はい・・・」

 

優気が落ち着いたところで、八戒は自室に下がって行った。

 

「悟空・・・」

 

優気は俯いたまま悟空を呼んだ。

自分の名を呼ばれて、悟空は恐る恐る返事をした。

 

「―――・・・何?」

「早く、上着脱いで!!」

 

といきなり顔を上げて優気は悟空に、こう言う。悟空は、少し驚く。

「えっ・・・――――あっ。うん」

と悟空は慌てて上着を脱ぐと優気に渡した。

優気は、それを受け取ると、自室にある裁縫箱を持って来て予備のボタンを二つ目に付け始めた。

 

沈黙・・・。

 

黙って、黙々と予備のボタンを付けている、優気を悟空はじっ。と見つめる。

 

「―――あのさっ」

 

と悟空は、優気から自分の制服である学ランに視線を移して口を開いた。

 

「ん?」

 

優気は、よほどボタンに集中しているのか目を離さずに答えた。

 

「・・・優気、ごめんな。俺のじゃダメだよな?」

 

いきなり悟空が謝ってきたために、優気は驚いて悟空に視線を戻した。

 

「―――はっ!?」

「―――だって、怒ったから・・・」

 

と言って、元気なく項垂れる悟空の姿がそこにはあった。

優気はそれを聞いて静かにこう切り出した。

本当は怒るはずではなく、悟空にそんな顔をさせてしまったことを優気は心の内で後悔した。

ただ――――・・・。

 

「・・・そんなことないよ」

「え?」

 

優気の発言に、悟空は金の瞳をより大きく見開いて少し俯き加減でいる優気をその双眸でしっかりと捉えた。

 

「すごく、すごく、嬉しかったよ。ありがとう」

 

優気は、照れながらも笑顔で悟空に答える。

 

「あたしね、こういうのに縁が無くって・・・しかも、悟空。いきなりだったから・・・」

 

悟空には優気のその声が、少し震え擦れたように、弱く聞こえたのだった。

 

「―――そっか」

「うん。いきなり怒鳴っちゃってごめんね。・・・本当にこれ貰っていいのかな?」

 

と言うと優気は悟空を見上げた。

 

「おうっ!だって俺、優気のこと大好きだもん!!」

「えっ!?――――そっ、それは、どのくらい・・・好きなの?」

「もちろんっ。こんくらいっ!!」

と言って優気の前髪を持ち上げて額に口付けをした。

次の瞬間、優気の顔は真っ赤になり今起きた出来事を一生懸命に把握しようとしている。

悟空は、そんな優気を愛らしく思えて、出る際に満面の笑顔で、こう言ったのだった。

 

「絶対に結婚しような!約束だかんなっ!じゃあ、行って来る!!」

 

そして、玄関出て足早にエレベーターに駆けて行く悟空、その第二ボタンを右手に優しく包み込んでいる優気の姿がそこにはあった。

―――それは、桜が咲き始めるにはちょっと早いまだ肌寒い日の出来事だった。

 


しかし、何故か2人に吹く風はとても暖かかった・・・。


 

      E N D

 

後書き+++++

久しぶりの悟空夢です!・・・結構、間があきました(汗)
季節外れで申し訳ないです。あたし、自身が『第二ボタン』に縁がなかったので;
中学の時は校則が厳しく、高校は元女子高だったため男子が少なくて・・・しかも、ブレザー・・・。
こんなのでも楽しんで頂ければ嬉しいですv宜しければ、掲示板の方へ御感想下さいね。
                                   2003.6.16  ゆうき