地下鉄  <後編>



「大聖!」

 

その少年に向かって、悟空は呼びかける。

 

「・・・?」

 

どうやら、"大聖"と云う名前だったらしく、少年は悟空を振り返って来た。

 

「―――やっぱり、大聖だっ。良かった・・・元気そうだな」

 

見間違いでは、なかったようだ。悟空は、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「あっ、兄・・・貴?」

 

大聖と呼ばれた少年は、悟空を兄と呼んだ。

どういうことなのだろうか・・・!?

目の前の出来事に、は付いて行けず、ただ呆然としてしまうのだった。

 

「父さんは、元気か?病気とかしてないか?」

「あっ、あぁ」

 

親のことを心配し、大聖に聞く悟空の顔は、優しい兄、そのものだった。

大聖の方も、また少し動揺したのか途切れがちだが、しっかり返事をしていた。

 

「そっか・・・良かったぜ。あれから、一度も会わなかったから、心配してたんだよ」

 

"本当に良かった・・・"と繰り返す。

 

「兄貴こそ、今、どうしているんだ?」

 

今度は、大聖の方が聞き返した。

 

「俺?俺は、今、大学へ行ってるんだ」

 

あえて、三蔵達のことは云わずに、悟空は、軽くそう答える。

 

「―――・・・良かったな」

 

ふっと、大聖は軽く笑ってみせる。

 

「おう!!」

 

一言、言って、悟空もまた、笑顔を向ける。

 

「それより・・・兄貴。彼女出来たんだな」

 

後方で、立ち尽くしているを一瞥すると、悟空と目を合わせる。

 

「・・・彼女・・・か、微妙なトコだけど・・・一緒に暮らしてるんだ」

 

悟空は、大聖の言葉に一瞬、驚いた顔を見せ、こう続けた。

"・・・あっ、まいったな。どう言ったら、いいんだろ"

他の言葉を探そうとするのだが、一向に良い言葉が浮んで来ない。

 

「そうだ、!来いよ!!」

「!あっ、ごめん。今、行く」

 

を振り向いて、声を掛ける。は、呼ばれたことに気付くと、慌てながら、悟空と大聖の所まで走ってきた。

 

「こっち、俺の双子の弟、大聖だ」

「よろしく」

 

悟空が紹介すると、大聖は、軽く頭下げる。

 

「あっ、です。こちらこそ」

 

大聖につられて、も頭を下げる。

流石は双子・・・と云ったところだろうか。

性格は正反対な感じだが、本当にそっくりで。

悟空を、もう少し、大人っぽくした感じだろう。

 

「敬語、使わなくてもいいからな。の方が、年上なんだし」

「うっ、うん」

 

優しい表情で、悟空はそう付け加えた。

 

「そういや、大聖。何で、此処に来たんだ?何処かへ行くのか?」

 

ふと、悟空は疑問思い、大聖に問う。

 

「あぁ。今からバイトだから」

 

悟空の問いに対して、大聖は短く、そう言った。

 

「へぇー。大変だな」

「あぁ、まぁな」

 

大聖が答え終わった後に、丁度よく、此処を始発とする列車がホーム内に滑り込んでくる。

 

「じゃあ、兄貴。また」

 

扉が開いたのを確認すると、大聖は車内に乗り込む。

 

「―――ちょっ、ちょっと待てっ!、何か書くものとか持ってるか?」

「・・・えっ!?えっと・・・書く物って・・・」

 

も、焦りながら手に持っていた荷物を漁る。

たしか、今日、買ったボールペンと、メモ帳があったはず。

急いで、その2点を袋から取り出し、悟空に手渡してやった。

 

「あっ、はい!これで、良いよね!?」

「んっ!サンキュー!」

 

一体、何をするのだろうかと、は大聖と顔を見合わせる。

悟空は、メモ帳に、サラサラと走り書きをしたかと思うと・・・

ピリリリッ!発車アナウンスがながれる。

そして、扉が閉まる寸前!

悟空は、そのメモ用紙を小さく折り畳んで、大聖に持たせる。

 

「これっ、俺の携帯番号と、住所に・・・電話番号。何かあったら、必ず、連絡くれよ!」

「兄貴・・・」

 

「困ったことがあったら、何かあったら。いつでも、力になるからなっ!!」

 

そこまで、言って、悟空はもう1度、念を押すように言った。

 

「わかったなっ!!」

「あっ、あぁ」

 

閉まってしまった扉の向こうで、静かに頷いてみせる大聖。そして、列車はゆっくりと動き出す・・・。

 

「じゃあ、またなっ!!」

「あぁ、また」

 

悟空は、大聖に聞こえるように、声を、右手を大きく振り上げて別れを告げ、大聖を乗せた列車を見送る。

そうして、列車が暗闇に消えていく。

「ねぇ、悟空・・・」

「ん?」

 

は、静かに悟空の隣りに来る。

 

「今の悟空・・・すっごい格好良かった!やっぱり、お兄さんなんだね」

 

そう言って、は笑顔を向けると、悟空は少し照れたような顔をする。

 

「えっ、そっか?焦ってたから、何言ってたか覚えてないんだけど」

 

"うーん・・・"と腕を組んで暫し、その場で考える。

 

「そう?本当に、格好良かったよ!」

 

これが、の正直な意見だった。無論、悟空相手に嘘など言うはずもないのは、悟空本人もわかっているはずだ。

 

「あっ、ありがとうな。―――でも、兄としてじゃなく・・・」

 

に向き直り、視線を合わせた。

 

「?」

「1人の男として、格好良いって言われるように、頑張らなきゃな」

 

今のままでは、きっと、こいつを幸せに出来ない・・・と思ったからだ。

 

「えっ?1人の男・・・として?」

 

はて、どういう意味だろう??と思い、聞き返して来る

 

「勿論、その相手は。お前だけどな」

 

「ごっ、悟空・・・」

 

悟空の発言に、は、驚いて顔を赤くして俯いてしまう。

 

「えへへっ。じゃっ、帰るか。上、混んでるといけないから、逸れないように手・・・繋ごうぜ」

 

すっと、悟空は、の前に手を差し述べる。

「・・・あっ、うん!じゃあ、お言葉に甘えて」

 

自分の前に差し出された手、そっと取って・・・二人は仲良く階段を上っていく。

 


今度は、しっかり自信を持って『彼女』と言いたいから。

 


必ず、呼べるようにするから・・・、それまで・・・もう少し―――・・・。

 

 


                                     E N D


あとがき。
 斎天大聖ファンの皆様、すっ、すいませんでした;;自分も一応、斎天大聖ファンですけど;
あっ、でも、人間だったら、こんな感じかなと思いまして。長いようなので、2つに分けさせて頂きました;
悟空と斎天の双子モノは、以前から書いてみたかったので。書けたので良かったです。
最遊記夢自体、久しぶりだったもので、悟空のキャラを忘れそうになってしまいました(苦笑)
微妙ですが、悟空夢です、はい。こんなものでも、気に入って下されば嬉しく思います。
御感想などありましたら、BBSかメールフォームまで下さいね。
それでは、失礼致します。
                                       2004.5.12.ゆうき