NO,64 洗濯物日和
朝食後、はTVの天気予報と実際の天気を確認する。
そして、1回、洗濯機が置いてある洗面所へ足を向けると、其処から今にもカゴから溢れ出しそうになっている、自分の衣服等を落とさないように、静かに真っ直ぐ・・・と、ベランダに持って行く。
「さて・・・とっ」
そう言って、はドサッ。と、洗濯カゴをベランダに置いてから、梅雨のため部屋干しになっていた洗濯物も外へ出すべく室内に一旦、戻ることにする。
それから数分後、まだ生乾きのようで湿っている物を持って、再度、ベランダに出て来る。
気持ち良い・・・心地良いぐらいの青と云う色に染まった空。
前日までの濃い灰色の空とは大違いだ。
今日は、太陽の日差しが妙に有り難く思える。
は、その晴れ渡っている天を仰ぎ見て、両手を突き上げると大きくのびをした。
そして深呼吸をする。
清々しい朝は、本当に久しぶりなのだ。ここ1週間は、完全に晴れることなく。
そのせいか、自然に気持ちが沈んでしまうことが多かった。
それは、天気だけのせいではなくて。
「・・・そういえば、こういう日を何て言うんだっけかな」
は、そう独りごちると、顔を顰めて少し考えてみる。
無論、両手の方は、しっかり動いていて、カゴの中にある洗濯物を竿に通していく。
そうして、ある程度、片付けてから、その探していた目的の言葉を思い出し、その場で声を上げる。
「あっ!そうだ!洗濯物日和だ!!」
ポンっと、軽く手の平を叩くと“そうだ、そうだ”と1人で納得しながら、は最後のTシャツをハンガーに掛けようと腕を伸ばす。
・・・より先に、階下である広い国道の脇を見慣れた二人が歩いて行くことに気づく。
1人は小柄な少年と・・・もう1人は背が高く優しそうな風貌の少年。
「ムヒョー!ロージーくん!!」
今にも、その身が落ちそうになるぐらいベランダから乗り出すと、その二人の名前を大声で呼んでみた。
突然、名を呼ばれた本人達は一瞬、驚いた顔を見せる。
が、小柄な少年・・・六氷透(ムヒョ)は冷静沈着な性格なため、すぐにいつもの表情に戻った。
しかし、その反対に、背が高い少年・・・草野次郎(ロージー)は、ビクっと肩まで上下に揺らすほど、の声にびっくりしたらしい。
ま、唐突に、自分の名前を(しかも、大声で)呼ばれたら誰でも驚くであろう。
「・・・あ、さん。おはようございます」
少し間を置き、息を吐くと顔を上げ、朝の挨拶をするロージー。
「うん。おはよう」
2階にある自室のベランダから明るい表情でも、挨拶を返した。
「ムヒョも、おはよう」
そう、柔らかな口調で言うと、はムヒョと視線を合わせる。
「・・・あぁ」
「―――って・・・“・・・あぁ”じゃないでしょ!?ムヒョ!」
いつも通り、素っ気無く・・・呟くように答えた方をしたムヒョに、ロージーは珍しく反抗した。
“折角、さんが挨拶してるんだから・・・ちゃんと返さないと・・・!!”
そう言って、咎めるロージー。
勿論、自分なら構わないのだが、相手はなのだ。
一応、婚約者で恋人同士でもあるのだが・・・そこら辺をムヒョは、分かっているのか・・・
が、ロージーにしては心配らしい。
そのためか、自然に・・・いつも気を遣ってしまう。
「はは。いいよ、ロージーくん。・・・ありがとね」
そんな、ロージーとムヒョの二人のやり取りに、苦笑い混じりでは、そう声を掛けた。
「・・・あ、はい。すいません」
の優しい発言に、また・・・つい口を出してしまったことに気付くと同時に、自分の言葉に対しても、後悔をしてしまうロージー。
「・・・ヒッヒ。オメェは、余計な口出すんじゃねェよ」
そのムヒョの厳しい物言いに、ムッとしてロージーは、また言い返してしまう。
そうだ、自分には関係のないこと、余計なお世話かもしれない・・・ことなど充分承知の上。
だが、やはり、ほっておけないのだろう。
自分の・・・ロージーの性分からだと。
其処が、ロージーの良いトコロでもあるのだから。
「―――・・・何が、余計なのさ!?ムヒョは、いつもいつも―――・・・」
「あっ!?」
と、前触れもなく突如、は何かを思い出したらしく声を上げる。
「え!?どうしたんですか?」
ロージーは目をパチクリさせ、に視線を投げる。
「今日は・・・二人はお仕事なの?」
「・・・フン。じゃなかったら、外に出ていないと思うがナ」
の、素朴な質問に、ムヒョはいつもの口調で、そう答えた。
「え・・・あ、そうだよね」
“あ、はは。・・・まぁ、気にしないで”
と、は言葉を付け加える。
「・・・っと、ムヒョ。そろそろ行かないと・・・!バスの時間に間に合わなくなるよ」
ロージーは、自分の腕時計で時間を確認すると、少し慌てた様子で、隣りのムヒョに声をかけた。
「あぁ。そーだナ」
それに気付いて、ムヒョは静かにこう返す。
「そ、それじゃあ、さん。また後で・・・!!」
軽く、お辞儀をするとロージーは走り出そうとする。
「あ、うん!いってらっしゃい!ロージーくん・ムヒョ!!」
一時、ベランダの格子から離れていただったが、ロージーとムヒョを見送ろうと、また身を乗り出し、元気よく言葉を発した。
「あ、はい!!行ってきます」
少々、慌てながら小走りにその場から駆け出すロージー。
「・・・ ・・・」
その後に、続く・・・と思われたムヒョだが、その場に足を止めて立ち止まった状態。
その体勢でこちら・・・を見つめている。
「・・・ムヒョ?どうしたの?」
そんなムヒョを不思議に思い、はそう聞いてみた。
「・・・ ・・・ばん」
「え!?何?」
最初の言葉が、あまりにも小さい声だったものだから、は思わず聞き返してしまう。
「ちゃんと、留守番しとけヨ?」
フッ。と、そう軽く笑うムヒョ。
しかし、からは一向に視線を逸らそうとしない。
それは、まるで・・・の返事を待っているかのようだった。
間が空き、はムヒョの台詞の意味を理解すると、口を開いてこう返した。
「了解しました!六氷執行人!!」
と、は敬礼するかのように手をかざして、はっきりと、そしてしっかりと言い切って見せる。
そうなのだ、婚約者・恋人同士であると同時に、も、また魔法律家で執行人なのだ。
ムヒョが言いたかった、伝えたかった言葉は・・・自分がいない間、この街を守ってくれ・・・と云うこと。
「上出来だ。・・・じゃあ、行って来るからナ」
そう言い残すとムヒョは、数メートル先で足踏みをしているロージーに向かって歩き出した。
「はい!いってらっしゃい!!」
その小さな・・・背中をいつまでも見送る。
今日も、無事で帰って来ますように・・・。
二人の元気な姿が見れますように・・・。
そう・・・綺麗な青、一色の空を見上げて願う。
ささやかな願いを・・・洗濯物日和に――――――・・・。
E N D
メッセージ:はい!魔法律夢、第4弾でした。一応、ムヒョ夢でございます;
いつも、最後まで読んで下さって・・・どうもありがとうございますv
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2005.9.9.ゆうき