ロージーくん誕生日夢


 CAT&ORANGE    −オレンジ色の猫−


 もう日付けも、本格的な秋になろうとしている一歩手前のある日。
暦、カレンダーの上では、9月29日と下旬を指しているにも関わらず、連日続く蒸し暑さ。
この時期なら、とっくに涼しく、秋らしい天気になるはず・・・なのだが。
一体、今年はどうなっているのだろうか。
此処最近、気温の差がいやに激しい。
そうなると、やはり気になってしまうのが、体調管理。
しっかりしておかなければ、身体を壊して風邪等を引くことにもなりかねないのだ。
は、デパートの通路を歩きながら、ふとある人のことを思い出す。
毎日・・・と云って良いほど、自分のマンションの前の道路を駅に向かって、通って行く二つの影。
どうやら、仕事の依頼が絶えないらしいのだ。
暑い日中でも、弱音を吐かずに、一生懸命、上司である執行人の六氷透を支えている・・・。
その人の姿を見てると、自然に頑張ろうと・・・力と元気が湧いてくる。
それは、いつの間にかの心の中で『好き』と云う感情、愛情に変わっていた。
ちなみに本日、9月29日は、その・・・の想い人の誕生日なのだ。
そのため、はワザと遠出をしてまで、有名な大型デパートへ足を運んだのだった。
しかし、その人の好みは、だいたい把握出来ても、いざ何かを買おうとすると、やはり迷い悩んでしまう。
一応、全部の階を一通り、見たものの、なかなかこれと言ったものは見つからず、は足を止め、隅にある休憩用のベンチに腰を下ろした。
電車の時間の関係も有り、此処にはあまり長居も出来ないのだ。
さて、どうしたものか・・・と思い、息を吐き辺りを見渡してみる。
丁度、その階には、日用品・雑貨コーナーと本・CDコーナー、玩具・ゲームコーナー等が配置されていた。

「・・・一応、ダメもとで、もう1回よく探してみようっと」

そう小さく呟くと、ベンチから立ち上がり、日用品・雑貨売り場へ足を向ける。

「――うーん。やっぱり、無理かなぁ〜・・・」

だが、やはり目ぼしい物は見つからず・・・。
ここは潔く諦めて、日用品・雑貨コーナーから離れようと思った・・・その時。
の双眸にある物が映る。

「わーっ!可愛い!!」

思わず声を上げて、その商品である物に近づく。
それは・・・オレンジ色の猫がワンポイントで入っている、薄クリーム色のマグカップであった。
値段は、そんなに高いわけではなく。
運が良いことに、セールで少し値引きされていたのだった。
個人的に、来客用のお洒落なカップがあることは知っていたが、マグカップを実際に使っているのは見たことがない。
そのため、折角ならこの機会にプレゼントしようかと考えてみる。
そう少しの間、考えた後、はマグカップを手に取る。
あまり、重くもなく丁度良い感じだ。

「よし!これに決めた!これを買おう!」

そう言って、はそのマグカップを持ち直し、会計をしようとレジへ向かうことにした。
・・・が、その途中、は何を思ったのか、一旦、そのマグカップが並べられていた棚の場所まで引き返していく。
そうして、暫くしてマグカップを三つ、手に持ち戻ってくるの姿が。
どうやら、自分の分と、もう1人の分まで買うつもりらしい。

「・・・1つだけじゃ、何か微妙だし・・・ムヒョ・・・怒りそうだしね」

は、苦笑混じりでそんなことを呟くと、再び、会計をしようとレジへついた。
無論、そのうちの一つはプレゼント用に包装して貰う。
それから、デパートを後にし帰路に着くことにした。
その帰り道の電車の中、の胸は落ち着かず、静かにそして確実に高鳴っていた。
それもそのはず、今日はこのまま六氷魔法律事務所へ向かう予定なのだから。
は、膝に置いているマグカップを一瞥し、ふと思う。
このプレゼントを喜んで貰えるといいのだが・・・。
そう思ったら、何だか変に不安になってきてしまった。
まぁ、でも・・・その相手の性格からして大丈夫だろう。
近場でケーキでも買って行くことを決める。
・・・等と、色々思っているうちに地元の駅に電車が到着する。
こうして、は駅の近くの洋菓子店に立ち寄って、ケーキを買い、最終目的である事務所へと足を進めた。

そして、薄暗い階段を上がり・・・此処の出入り口となっているドアを三回、ノックする。

「・・・はーい」

間が空き、中からいつもの明るい声と軽快な足音と共に、出入り口でもある扉が開き、迎え入れてくれたのは、ロージーこと草野次郎。
この事務所で助手として働いている少年だ・・・と、それと同じく、の大切な存在でもあるのだった。

「あ、さん!いらっしゃいっ!」

いつも明るく、優しい笑顔で向かえてくれる。
その笑顔が、他の誰よりも愛しく思えるのだった。

「こんばんは、ロージーくん」

そう挨拶をし、静かに部屋に入る
丁度、この事務所の主、ムヒョこと六氷透は専用のベットで寝息をたてている。
それを見たには、今日もこの二人が依頼があり現場に行ったらしいことが容易に理解出来た。

「あ、すいません、ムヒョ・・・寝ちゃってるんですよね」

“用事があるなら、起こしましょうか?”
と、ロージーは静かに尋ねてくる。

「え・・・っと。い、いや・・・今日は・・・ムヒョじゃなくて、ロージーくんに用事があって・・・」

しどろもどろになり、焦りながらも、は何とか言葉を吐き出した。

「え!?僕にですか!?」

「う、うん」

予想もしていなかったの発言に、ロージーは驚きを隠せずに声を上げた。

「・・・僕に用事ってなんでしょう?」

ロージーは、少しだけ照れた様子でに聞き返してみる。

「えっと・・・」

そのロージーの柔らかな口調に、は愛しさを感じる。
思わず、その場で何を言っていいのか戸惑ってしまうのだった。

さん?」

そんなを見たロージーは不思議に思ったらしく、声をかけてくる。

「・・・く、9月29日、お誕生日おめでとう!ロージーくん!!」

暫し、押し黙っていただったが、勇気を振り絞ってロージーにお祝いの言葉を告げた。

「・・・!!」

その告げられた言葉に、ロージーは先刻よりもっと目を見開いて驚いてしまった。

「これ・・・プレゼントとケーキ」

“はいvどーぞ”
と、可愛く包装紙とリボンでラッピングされている箱を差し出し、笑顔を向ける

「あ、ありがとう・・・ございます」

言い終ると同時に、ロージーの瞳からは、滴がポロポロと流れ落ちていた。
その姿を見たは、フッと軽く笑ってからハンカチを取り出すと、優しく・・・その滴を拭ってやるのだった。
そうして、今の自分の気持ちを伝えるために口を開いた。

「・・・大好きよ。ロージーくん」

伝えられた・・・この気持ち・・・。

ロージーの腕の中には、あのオレンジ色の猫がついているマグカップが、いつまでも抱かれていた。




                                       E N D


メッセージ:初のロージーくん夢にして、誕生日夢でした;
すいません、微妙な内容になってしまって;今回は・・・やっぱり、ほのぼのになってしまいましたね;
これから、2週間・・・フリー配布に致しますので、お気に召した方はどうぞ貰ってやって下さい。
勿論、無断転載(パクリ)禁止ですよ。
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                            2005.9.29.ゆうき
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                            2005.10.18.ゆうき