NO,97 アスファルト
本日も、は個人的な用事を済ませ、帰路に着く。
いつもの駅で下車し、今晩の夕食の献立を考えながら改札口を出て、大通りに足を踏み出した。
と、その時。の前を、すいっと見慣れた人物が横切って行く。
丁度、夕暮れも迫っている時間帯であり、駅前の交差点は通学の学生や通勤のサラリーマン達がほとんど占めているようで賑わっていた。
そのためか、あちらはに気づかない様子。
だが、には、見間違い・人間違いではないと云う自信があった。
もう・・・あと少しで、人波に溶け込んでしまいそうな二つの影を、は必死に追いかけ、ようやく辺りが落ち着いたところで、距離を置いて呼びかける。
「・・・ムヒョに、ロージーくん!」
のよく通る声に、気づいたのか立ち止まって振り返ってくる・・・
“ムヒョ”と呼ばれた、小柄な少年(本名:六氷 透)に、それとは反対に、背は高めで繊細かつ優しそうな雰囲気の少年“ロージー”(本名:草野 次郎)。
「あれ?さん!?」
「―――・・・か」
突然、声をかけられたためか、ロージーの方は少し驚いたようだ。
一方の、ムヒョは相変わらず、冷静な態度で名を呼ぶ。
「―――あぁ、良かった〜」
自然に“はぁー”と息が出てしまう。
そうして、二人の近くまで駆け寄ると、安堵した表情を浮かべる。
いくら、見慣れていて、自信があるからと言っても、やはり、本人達と確認出来るまでは気を抜けず。
「さん、今日は・・・?」
「あ、うん。珍しく用事・・・まぁ、仕事が入ったものだから。その件、片付けて・・・その帰りなの」
どこか不思議そうに尋ねてくるロージーに、隠すこともせず、はしっかりと答える。
余談ではあるが、もムヒョと同様、数少ない魔法律家の執行人の1人である。
の場合、特殊な能力を持ち合わせているため、本や道具なしに執行・術を発動出来る・・・
そのため、より強力な霊などを相手にすることも可能なのだ。
そんなを魔法律界の上部は勿論、ムヒョやロージーも尊敬していた。
「・・・それより、ムヒョとロージーくんの方は?」
先ほどのロージーからの質問をそのまま返すように、は二人にそう尋ね返す。
「え、あぁ。僕達も――・・・」
と、ロージーは続けようとしたが、それを遮るかのように、ムヒョが口を開いた。
「お前と同じ依頼の帰りだ」
もう、いつものこと・・・と、慣れきってしまっているロージーは、あえて口を挟まないようにした。
「あ、そうなんだ!・・・でも、何かこういう場所に会うなんて珍しいよね〜」
ポンっと、手を軽く合わせ、嬉しそうに答えるを見て、ロージーもムヒョも自然に表情が和らぐ。
「さんは、このまま帰るんですか?」
「あ、ううん。夕食の買い物でもしていこうかなって」
何でもない質問にも受け答えしながらも、は頭の中で献立をたてていた。
「あ!それじゃあ、一緒にどうですか?僕らも丁度、買出しようかなって思っていたところなんで」
「えっ!?ロージーくん達も!?」
そのロージーの言葉に、は初め驚いたが、直ぐに明るい表情を向ける。
「はい!勿論!!あ、あと・・・さんが良かったら・・・今晩、一緒にどうかなって・・・」
後半、少し、恥ずかしそうに、そう区切っての返事を待つ。
「おい、ロージー」
とロージーの二人がとても良い雰囲気に見えたらしく、ムヒョは、それが気に入らなかったのか、顔を顰める。
「え?いいの??・・・お邪魔・・・じゃないかな?」
そのムヒョの顔つきが気になったは、どこか遠慮気味に、そう聞き返す。
「そんなことありませんよ!ねぇ、ムヒョ?」
両の手を左右に軽く振って、隣りのムヒョにふってみせた。
「チッ」
と、面白くないように軽く舌打ちする。
「なんだよ?ムヒョだって、さんと一緒に食べたいクセに」
“もう、素直じゃないんだからさ〜”
と、からかうように云えば。
「フン・・・勝手にしろ」
そう言って、ムヒョは顔を背ける。
「ふふん。ムヒョの“勝手にしろ”はOKってこと、分かってるんだから」
“伊達に、キミの助手はやってないよ?”
何でもお見通しと云うように、得意げな顔つきで、言葉をそう付け足すと、ムヒョに視線を落とす。
「・・・うるせェな」
そう小さく呟くように、視線を二人と合わせずにムヒョは声を吐き出す。
「あはは。―――・・・それじゃあ、お言葉に甘えて、そうさせて貰うね」
そんなロージーとムヒョのやり取りを一通り見て、はクスクスと軽く笑う。
「はい!じゃあ、早速、行きましょうか」
「うん!ありがと」
足取り軽く、歩き出していくロージーに、お礼を言って付いて行く。
「・・・ ・・・」
そのロージーの隣りを無言のままムヒョは歩いて行く。
「ムヒョ〜。いつまで、照れてるの?」
「あぁ?」
ロージーの挑発的な(?)発言に、ムヒョは苛立ったようにそう返した。
「ははっ。・・・でも、私・・・そんなムヒョも大好きだよ」
“勿論、ロージーくんもね!”
そう言った上で、満面の笑顔を二人に向ける。
「あ、ありがと・・・ございます」
「・・・フン。オメーの方が照れてるじゃねェか」
そのの笑顔に、頬を赤く染めて答えるロージーに、ムヒョは言い返す。
「そ、そんなこと・・・―――」
「ふふっ。ほらっ、買い物するなら暗くなる前に済まさないとね」
焦りながら、否定しようと口を開いたロージーだったが、今度はに遮られてしまう。
勿論、はロージーのことを思って、話を変えたのだった。
そのまま傍観しても良いのだが、きっと、ムヒョからキツイ言葉で撃沈・・・
されるのは、だいたい目に見えて分かっていたから。
「あ、はい!そうですね」
「―――・・・仕方がねぇから付き合ってやるよ」
明るい表情に戻ったロージーに対して、ムヒョは渋い顔をしながらも付き合うことに同意した。
「ありがとv二人ともv」
小さく空気中に吐き出されたのその言葉は、心地よい風に乗って流されていく。
隣りを歩いていく二人には聞こえてないだろう・・・けど。
こうして、夕暮れ間近、アスファルトには、長い三つの影が仲良く映し出されいた。
E N D
メッセージ:初の「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」夢でした;
一応、コンビ夢です。ご意見・ご感想、お待ちしております!
2005.5.21.ゆうき