鼻緒 サブタイトル:成人の君
〇ここは、とあるマンションの一室。そう、ここに、の大切な4人が暮らしているのだ。
実は、この間まで4人はと、同居というカタチで暮らしていたのだが、は『大事な用があるので一回、家に帰ります』と言って一度、実家に戻って行ったのだった。
それは、冬休みが終わり少し経った、寒さが厳しい日であった。
それから、数日経った、ある日曜日。
「用って、何だったんでしょうね・・・」
と、ベランダとリビングを結ぶ、ガラス戸越しに八戒は、ふと思い口を開いた。
「・・・さぁな」
傍らで、三蔵が適当な返事をよこす。珍しく、今日は3人共、オフの日で家に居た。
そして、この悟空を含めた4人は"成人の日"というものを、全く意識していなかったのだった。
場所は変わって、の実家・・・。
「じゃあ、ちょっと行って来るね!」
は、着物のまま家を出る。
「-------気をつけて行くのよ!」
玄関で、の母が声をかける。と言ってる傍から、は転びそうになってしまう。
「わかってるって!!」
・・・早く、早く。あの人達に見せないと・・・!!
の実家から三蔵達が暮らしているマンションまで歩いて約30分。
いつものラフな格好なら自転車でも走ってでもいいが、今日は違う。
は振袖なのだ。
あの4人の誰かに迎えに来て貰うというのも考えたが、それでは、今までワザと連絡せずに当日、ひょこっと行って驚かせようという、自分の計画が水の泡となってしまう。
仕方がなく、はタクシーをひろってマンションへ向かうことにした。
そして、マンションへと到着。
4人が暮らしている部屋は3階の端にある。
どうせ、3階だし・・・階段を使って行こうと思い、は着物の裾と袖を少し上げて、ゆっくりと階段を上ることにした。
勿論、エレベーターはあるのだが。履き慣れない足袋と真新しい草履で。鼻緒が固いせいか、少し指の間に痛みが走ったが、は痛みを堪えて、一段々、確実に上っていく。
が成人式を後回しにして、逢いに来るとも知らずに4人は、ただやることもなくボーっとしていた。
がいないと何もする気力がなくなる・・・そんな感じの4人だった。やはり、4人も
のことが大切なのだろう。その中で特に―――――・・・。
「なーっ。三蔵〜」
悟空は、テーブルの真ん中に置いてある御菓子に手を伸ばし、三蔵に声をかけた。
「・・・なんだ?」
不機嫌そうな声音で、眼鏡を掛け、先刻から読んでいるらしい新聞から目を離さずに三蔵は返答した。
「・・・いつ戻って来るんだろうな。連絡何もないし・・・」
悟空はその持った、御菓子の包みを開けながら、何処か淋しそうに呟くように言った。
「・・・俺が知るか」
一見、関心がないように装う三蔵だが、いつもよりは眉間に皺が寄っている。
それに気付いて八戒は悟浄と顔を見合わせ、思わず苦笑してしまう。悟浄の方も呆れ顔をする。
そして、また沈黙・・・。と、その時。
"ピンポーンッ!"
と玄関のチャイムが、部屋に勢いよく響いた。
「僕が見て来ますね」
と言って、八戒は立ち上がり、玄関へ続くリビングのドアを開ける。
一応、インターホンというものはあるのだが、この部屋へ来る者は、限られているため八戒はあえて使わないことにした。もし、変な勧誘にしても大人3人がいれば問題なく片付く。
僕の勘が正しければ、扉の向こうにいるのはなんですけどね・・・。
「はいはい。どなたでしょうか?」
八戒は一応ということもあるため、ドア・ノブをゆっくり回し、少しだけ開く。――――とそこには・・・。
濃い赤の着物で、髪をアップにし、髪飾りをいくつか付け薄化粧をしたが満面の笑顔で立っていた。
「・・・―――えっと、すいません。どちら様でしょうか?」
八戒は、目の前の女性がということに、すぐに気づかなかったらしく扉の向こうで戸惑ってしまう。
の着物姿があまりにも綺麗で。
「八戒さん!あたしです、ですっ!!」
は必死になって叫ぶ。
「「えっ!!??!?」」
リビングで、八戒の様子を窺っていた悟空と悟浄の2人は、の声にすぐさま反応し、バタバタと足音をたて玄関へ走って来る。
八戒が少しだけ開けたドアを勢いよく、めーいっぱい開けて・・・驚く。
「えっ!?なのか!?」
「どっ、どうしたんだよ!?その格好!?」
2人は、それぞれ異なった黄金と深紅の瞳を見開き、つい大声になってしまう。
「えっと・・・今日、成人の日だから・・・」
とは、頬を少し赤くさせながら、小さな声でこう言った。
八戒、悟浄、悟空の後ろから何事かと三蔵も顔を覗かせ・・・そして、また前の2人、同様に驚いてしまう。
それも、そのはずの化粧と着物姿を見るのは初めてであって。
4人は少しの間、見惚れてしまうのであった。
それから、間をおいて、八戒が口を開く。
「ほらほら、皆さん。折角、が振袖で来てくれたんですから、中に入ってゆっくり話しましょうね?ここだと・・・ほらっ、ご近所の方々に御迷惑がかかりますから・・・ね?」
そして、いつものメンバーが揃った5人は、八戒に促されて静かに室内へと入っていく。
だいたいのことを、八戒達、3人に話し終わったは、1人でリビングの椅子に腰掛けて愛用のマルボロを加えてベランダを見ている三蔵に気づく。
「あのっ、三蔵さん?」
「―――何だ?」
は、静かに三蔵が座ってるテーブルに近寄って来た。
三蔵は、近くに用意してあった灰皿へ煙草が途中にも関わらず、火を消すことにした。
これが、に対しての三蔵の心遣いなのだろう。
「どっ、どう思います?・・・変でしょうか?」
は、振袖の全体の柄が見えるように手を少し上げる。三蔵は、その紫暗の瞳でをしっかり捉え
「いや、いいんじゃないか?」
と、こう一言だけ告げた。
「あっ、ありがとうございます!」
少し、ほっと胸を撫で下ろす。
「―――うんっ。すっごく似合ってるよ!激、可愛い!!」
との真後ろで、悟空は笑顔でこう言った。
「ありがとう、悟空」
は悟空の方に向き直り、少し照れながら礼を言った。
八戒もまた、いつもの優しい笑顔での振り袖姿の感想を言葉にする。
「そうですね・・・色合いも、柄も、らしくて、とても似合ってますよ」
「ありがとうございます、八戒さん」
悟浄も、その八戒の言葉に続けてこう言った。
「そっだな・・・よく似合ってるぜ」
「悟浄さんも、ありがとう」
と、は近くにあった椅子に掛けようと、一歩踏み出した時。
ズキッ!!
「痛っ!!」
痛さのあまり、つい声を上げてはその場にしゃがみこんでしまう。
「「「「どうした(しました)!?」」」」
いきなりのことに4人の声が綺麗に重なる。八戒は、すぐさまの傍に駆け寄る。
「ちょっと、足の指の間が・・・」
と言って痛さのあまり俯いてしまう。俯く瞬間、の顔が蒼褪めたように見えたのは気のせいだろうか?
「足袋・・・脱いだ方が、良いかもしれませんよ」
静かに八戒は、足袋を脱ぐことと椅子に座るように、勧めた。
「はい・・・」
顔を顰めながらもは、そっと足袋を脱いで・・・白くて綺麗な両足が見える。
その両足の、親指との間が、少しであるが赤く腫れていた。
「・・・少し、腫れてますね。、ここまで何で来ましたか?」
「えっ!?タクシー使って来ましたけど・・・」
段々と真剣になっていく八戒。
「その後は?」
「・・・」
八戒のその問いに、は思わず押し黙ってしまう。
「もしかして、階段で来たりは・・・しませんよね?」
の足から視線を逸らさずに、間をあけずに聞いてくる八戒。
「・・・しっ、しました」
「仕方がありませんね・・・。、帰りは僕が送って行きますよ」
の言葉にふうっと一息ついて、八戒は立ち上がりこう言った。
その八戒の意見に他の3人は反対せずに了解した。
* * *
そうして、その夜。
「じゃあ、。明日のお昼頃に迎えに来ますから」
と言って、八戒はの家先で車を止める。
「はい・・・。今日は、ありがとうございました。迷惑かけてすいません。・・・それじゃあ、おやすみなさい」
力なく項垂れては、車を降りて八戒に御辞儀をし挨拶をする。
「・・・」
踵を返して家に入ろうとした時、は八戒に呼び止められた。
「はい。何でしょうか?」
八戒は運転席側の窓ガラスを開けて、優しく柔らかくこう言った。
「僕、怒ってなんかいませんからね。、あまり無茶なことしないで下さい。他の3人と違って、は女性であり、僕の・・・」
「え!?」
少し、間をおいてから、八戒は口を開く。
「僕のかけがえのない大事な女性なんですよ」
突然の八戒の言葉に驚き、何も言えなくなってしまう、。
「・・・」
「それじゃあ、おやすみなさい」
いつもの笑顔と、その言葉を残して、走り去って行った。
そう、僕のかけがえのない―――――・・・。
E N D
あとがき。
実はこれ、1番最初に書いた最遊記ドリームのリメイク版なんです・・・。もちろん、ボツにしたヤツですが。
前半だけ同じ感じにして後半は全体的に話の内容を替えちゃいました(苦笑)
逆ハーなんですが、微妙に八戒さんドリーム?って感じですが・・・。
まだまだ、修行が足りませんね;こんなんでも楽しんで頂ければ幸いです。
2003.9.9 ゆうき