真昼の月

 

 

 

〇此処は、観世音が経営している今、巷で人気が高い美容院だ。

店長は観世音だが、一年ほど前に資格・免除を勝ち取って、そして助手や見習いから上がってきた甥の金蝉に店を任せている。

次期、店長になるだろうと従業員達は皆、思った。

いつの間にか、手の器用さと実力・流行の鋭さで美容師となった金蝉。表現は不器用だが、その不器用さが反対に金蝉の良い所になっていて魅力的ともいえるだろう。

そして、いつものように営業時間を終え、従業員達はそれぞれ帰宅し、金蝉は戸締りをしようと出入り口の上にあるシャッターを掴もうと腕を上げた時

「金蝉さんっ」

と目の前に見慣れた女性の顔があった。

「・・・

と金蝉は少し驚いて、その女性の名を呼ぶ。そう、彼女の名は

二年前に、悟空が迷子になってしまった時、色々面倒を看てくれたのだ。

それからというもの悟空が、異様にに懐つくものだから、彼女に高校卒業後に同居してくれるように頼んだのだった。もちろん、彼女の両親には観世音を交え、しっかり話し合い、承諾して貰ってのことだ。

「―――どうした?何かあったか?」

金蝉が顔を顰めて聞くと、は首を左右に振り笑顔でこう答えた。

「今、やっと学校が終わったものですから、一緒に帰ろうかなと思いまして・・・来ちゃいました」
「―――・・・そうか」

と言い、続けて悟空のことを聞こうと口を開いた金蝉だが。

「あっ。悟空なら今日、友達の家に泊まらせて貰うことになったみたいで。さっき連絡がありましたから・・・心配ないですよ」

は笑みを崩さぬまま、そう報告した。ものの見事に、聞きたいことを当てられて驚いてしまう金蝉。

金蝉自身、の言動にはいつも驚かされてばかりだ。自分の心でも読んでいるようで。

「じゃあ、心配ないな」

と一息ついて、そう言った。

「はい」

が返事をした後で、金蝉は、に裏へ回って其処で待つように促した。

そして、数分後、身支度をして裏口から出てくる金蝉。此処の閉店時間は、8時だから居酒屋やスナックの方はまだまだこれからというように、仕事帰りのサラリーマンなどで賑やかだった。

金蝉は隣りを歩いているを一瞥し、よく酔っ払いに絡まれなかったなと心の内で呟いた。はたから見ると仲が良いカップルに、悟空がいれば若夫婦にみえるだろう。

「いつも、お仕事お疲れ様です」

「いや・・・」

こちらは、のおかげでこうして美容師になり、ちゃんと働いていられるのだ。

こいつの笑顔が俺を励ましてくれていた。俺、1人だったら悟空の世話と仕事の両立は出来なかっただろう。

・・・お前には迷惑ばかりかけてるな・・・と自嘲の笑みをこぼす。は静かに隣りを歩いている。

それから、賑やかだったビル街を通り抜け、2人は静かな小道へと入っていく。

昼とは違い、夜は薄暗く何かもの寂しい。何かあると大変だと思い金蝉は横にいるに目を向けた。

「おい、・・・」

と声を掛けたのだが、当の本人はうわのそらで空を見上げていたのだった。そのの姿は何処か果かなく、淋しそうに感じられた。金蝉はもう一度、声をかけてみる。

「どうかしたか?」

「あっ。何でもないです。ごめんなさい」

と、今度は気付いたらしく苦笑いをしては答えた。

「そうか・・・なら、いいが」
「はい。――――ただ・・・」

また、闇に覆い尽くされている漆黒の空を見上げて、は言葉を繋げた。

「ただ、今日は月が綺麗だなと思いまして」

「―――そうだな・・・」

と金蝉もつられて夜空を見上げて、呟く。

「あたし、1度でいいから"真昼の月"を見てみたいなぁ〜」
「いきなり、どうした?」

少し、間をおいては口を開いた。

「―――だって、きっと"真昼の月"って真っ白で綺麗で・・・」
「?」

不思議そうな顔をし、を見つめる金蝉。

「まるで、金蝉さんみたいだな、と///」

言ったは、自分の発言に恥ずかしくなり俯き黙ってしまう。

言われた金蝉は、鳩が豆鉄砲を喰らったかのよに驚いてその場で立ち尽くしてしまった。

がそんな風に言ってくれるとは思っていなかったし、自分をどう思ってくれてることさえも考えつかなかった。仕事ばかり忙しく、そんな暇なかったのだ。

「あっ、そうだ・・・金蝉さん、今日は何が食べたいですか?悟空がいないから好きな物を・・・」

と言って両手に持ってるスーパーの袋を見ながら、笑顔で聞いてくる。金蝉の中でへの愛しさが増していく。

次の瞬間・・・

      バサッ。  バサッ。

が持っていたスーパーの袋が地面へ落ちる。は、金蝉の伸ばされた腕によって、胸へと引き寄せられ抱きしめられたのだった。

「あっ。・・・金蝉さん?///」

胸の中では金蝉の名を呼ぶ。

「いつも、すまない・・・お前にばかり迷惑かけて」
「いえ、良いんです」

抱きしめた腕に力を込める。いつも、言いたかったこの言葉。しかし、なかなか、言い出せなくていつもはがゆさだけが金蝉の胸に残ってしまって・・・。

「もし、今度の大会で優勝したら俺と・・・一緒になってくれないか?」

を抱きしめながら呟くようにこう言ったのだった。もちろん、の答えはただ1つ。

「はい、もちろん。喜んで///」

と頬を染めながら、金蝉を見上げてくる。金蝉はの額に優しく口付けをし自身に誓うのだった。

 

―――――・・・絶対、お前から笑顔を失わせたりしない。

                              必ず、守ってみせる―――。

 

                                               END


後書き++++++

変な展開&文ですいませんでしたm(__)m初、金蝉さん夢で、現代版です。

・・・カリスマ美容師ってどうですかね?自分的には合ってる気がいたしますが;ここまで読んで下さって有り難うございました。

では、失礼します。
                                2003.6.29.ゆうき