名 前
この頃、何かがおかしい。は、八戒が運転しているジープの、後部座席の隅でそう思った。
今まで、そんなことなかったはず。
よりによって、悟浄と悟空の名前を―――・・・。
それは、三日前の出来事。いつものように予定していた街に到着する三蔵一行。
そして、買出しにはを含めたいつものメンバーで出掛けていた。
その途中、は少し離れた処で、八戒に肉まんをねだる悟空を呼ぼうとして、口を開く・・・
と此処まではいつもと変わらなかったが。
「おーいっ!ごっ、じょう・・・」
と言いかけ、はハッとする。
今、私・・・!?
呼ぼうとしていたのは悟空のはず・・・なのに、口から出てしまったのは、赤髪で背の高い青年、悟浄の名。
聞こえていなければいい、と思ったのだが。
悟空はクルッと此方、のいる方を向いてニヤッと意地悪く笑い、こう叫んだ。
「・・・おぉーいっ!エロ河童〜!が、呼んでるぜぇ〜」
「!?」
そんなに、大きな声を出して言ってはいないはず。
は、悟空の反応に唖然と、その場に立ち尽くしてしまうのだった。
それに、ワザと間違えたのではない。
「おっ、どうした?ちゃん?」
の前方から歩いてきて、ひょいっと自分の顔を覗き込んでくる悟浄。
それに、は慌てふためいてしまう。
「えっ!?あっ、何でもないんです・・・ごめんなさい」
「そうか?・・・ならいいんだけどよ」
と言って、悟浄は不思議に思いながらも、の傍から離れる。
これが始まりだったのだ。
近くで呼ぶ時には、決して間違えなどしないのだけれど。
少し、距離を置いて突発的に悟空か悟浄のどちらかを呼ぶ時に限って言い間違えをしてしまう。
だが、しかし、すぐに気が付いて言いかけ、やめるのだが、この二人はどうやら地獄耳らしい。
そのため、悟浄を呼び間違えそうになった時も・・・
この時は、たしか雑魚妖怪との戦闘後のことだった。
は、一息ついて、持っていた皇華尖を元の第一形態にしそれを仕舞うと、前方で三蔵と何やら楽しそうに話している悟浄に気が付き、呼ぼうとする。
「あっ、そうだ!あのっ、ごっくう・・・」
またしても、間違えてしまう。
慌てて口を紡ぐのだが、時すでに遅く。
悟浄は、前回同様、チラッとを見てニヤリとすると、ジープに乗り込もうとしている悟空に向かって、こう叫んだ。
「おーいっ。そこの脳みそ胃袋のバカ猿〜!ちゃんが呼んでるぜーっ」
「!!??」
あの時と同じような言動に、は何も言えなくなってしまう。
ワザとではないのに・・・どうして――――・・・?
「―――どうかしたか?」
と、呼ばれて(正しくは悟浄に)悟空はジープから降り、に駆け寄って来る。
「えっ!?あっ、ごっごめんっ!何でもないよ・・・」
「―――・・・そっか」
それからというもの、こんなことが続いてもう、五日目。
名前を言い間違える度に、悟空と悟浄の反応が繰り返していくばかり。
仕方がなく、は予定していた次の街で、八戒に相談してみることにした。
から話を聞いた八戒は思わず笑い出してしまう。
「八戒さんっ!私、真剣なんですけど・・・!!」
顔を赤くさせながら、必死になり涙目で訴える。
「―――あぁ、すみません。・・・あまりにも子供っぽくて」
「えっ!?それって、私のこと・・・ですか?」
八戒の発言に目を丸くし、驚くと同時に、声が段々小さく擦れていってしまう自分に気付く。
「いえ、あの二人のことですよ。・・・あっ、ほらっ。よく男の子って、好きな女の子をからかったり、意地悪するじゃないですか」
優しく、の問いに答えていく八戒。
「はっ、はぁ・・・」
「それですよ・・・きっと」
そう言って、八戒はにいつもの笑顔を見せる。
「そうなら、いいんですけど・・・」
にしては、珍しく長い時間落ち込んでいたに違いない。
実の処、誰に相談すればどうかを、迷っていたからだ。
八戒は、ふと何かを思い出したかのように、にこう言った。
「―――そういえば、今日は悟浄と悟空は相部屋でしたね。どうですか?一応、会ってきてみては?」
「でも・・・」
と、は戸惑ってしまう。
「大丈夫ですよ。が、ワザとじゃないってことぐらい分かっているでしょうしね」
「・・・はっ、はい」
「素直じゃないですから。困りますね、あの二人にも」
と八戒は、苦笑混じりにそう言った。
「あっ、じゃあ会ってきます・・・有り難う御座いました、八戒さん」
「いえ、良いんですよ」
お礼を言って、は席を立ち、本日泊まることになった宿の八戒の一人部屋から出て行く。
コン、コン、コンッ。
と、しっかり三回ノックをし、扉の向こうにいると思われる悟空と悟浄の両方を呼んでみた。
は少し、自分の鼓動が早くなるのを感じた。
緊張しているだけなのだろうか?それとも・・・
「悟浄さん、悟空・・・います?」
それから少し間があき、扉の向こうから、悟浄の声が聞こえてきた。
「あぁ、か。いるぜ、何か用か?」
「えっ。はっ、はい・・・」
「じゃあ、入って来いよっ」
と、悟空の元気な声が聞こえてくる。どうやら、二人いるようだ。
「えっ!?でも・・・」
躊躇してしまう、。その後、タッタッタッと足音がして
ガチャリ。
悟空が扉を開いて、の様子を見に来たのだった。
「俺がいるから平気だよっ。」
「別に何にもしねぇよ・・・」
と二人に促されて(半強制的に)は部屋に入ることにした。
「あっ、あの・・・」
は恥ずかしいためか、俯きながら口を開いた。
「「どうした?」」
二人の声が丁度良いくらいに重なった。
「なっ、名前の言い間違いしてしまって、すいませんでした」
「―――・・・何だ、そんなこと気にしてたのか?」
あっけらかんとする悟浄。予想もしていなかった言葉には少し驚き、顔を上げた。
「あっ、はい・・・」
続けて、悟空がこう言う。
「俺達、全然気にしてないぜっ。ワザとじゃないってことぐらい分かってたしなっ!」
「えっ!?」
目を見開く。
「そうそう。だから、本当に謝んなきゃなんねぇのは、俺らなのよ」
「ごめんな・・・」
悟浄が言い終わってから、静かに悟空が謝った。
「あっ・・・」
とは何かを言いかけて、胸の奥が痛むような錯覚を覚えた。
「悪ぃ・・・からかっちまってよ・・・」
珍しく、悟浄にしては真剣な謝り方に、は見えたのだった。
そのすぐ後に、悟空が照れながらこう言った。
「俺達、きっと、のこと好きなんだ。じゃなかったら―――・・・」
そう悟空に言われ、は先刻、八戒が言った言葉を思い出す。
『ほらっ。よく男の子って、好きな女の子をからかったり、意地悪するじゃないですか』
特にあの二人は――――・・・。
「なぁ、!折角だからカード・ゲームしていけよっ」
突然の悟空の誘いに、また戸惑ってしまう。
「えっ!?でも・・・」
「大丈夫!俺が丁寧に教えてやるから・・・なっ」
と悟浄は、に向かってウインクをする。
次の瞬間、悟浄の悪い冗談で、いつもの喧嘩が始まりそうになってしまう。
「何言ってんだよ!?このエロ河童!!」
「うっせぇっ、このバカ猿!!」
「まぁ、まぁ。二人共・・・」
二人の間に入り無理矢理止める。
もう、この二人の喧嘩には慣れたのだった。
日常茶飯事・・・ということだろうか。
それに、八戒が止めるよりも、今となってはが止めに入った方がより効果的ということは証明済みでもある。
「「さあっ、やろうぜ!!!」」
「―――――・・・はいっ!!」
そんなこんなで、何とか一件落着。
この三人のカード・ゲームは徹夜となったことは、言うまでもなく・・・その次の朝、三蔵に怒られるはめとなったのだった・・・。
E N D
あとがき。
〇・・・こんなヘッポコ文&変な展開・面白くないネタですいませんでした;(土下座)
本当にすいません;でも、書いていて楽しかったです。初のコンビ夢ですので・・・お許し下さい。
次回はしっかりとしたネタで書きますので・・・!!
でも、『名前』で浮かんできたネタがこれしかなかったので(汗)では、楽しんで頂ければ幸いです。
2003.9.25.ゆうき