釣りをするひと
〇私の彼は、刑事さん。
なので、例え何時何処で何をしていようとも、事件発生の際には、すぐに現場に駆けつけなければいけないのです。
それに、命がかかっているお仕事だから、とても心配になります。
連日の張り込みや、事件の聞き込み、捜査などで、忙しい毎日。
だから、私と会う時間は、あまり・・・いえ、はっきり言って"ない"です。
でも、もう慣れたので淋しくなどありません。
だって、彼ってば、少し暇があると、必ず電話してきてくれるので。
出逢いは、そう、私が掏りに遭った時、丁度、ある事件を追っていた彼が、掏りの犯人を、すばやく捕まえてくれて・・・。
あっという間の出来事でした。
一度、お礼を・・・と思い、刑事課を訪れた時。
彼の、そのサバサバした性格に惹かれました。
そして、少し経ってから、私達は会うようになって。
それから、半年ほど経ったある日。彼から"交際してくれないか?"と言われて。
突然で、驚きましたが、私も彼のことが好きだったので、勿論その場で O,Kしました。
そして今日は、彼にとっては、珍しいことに時間がとれたらしく、2人で釣り道具店へ来ています。
何故、釣り道具店かって?
それは彼の趣味が釣りだから。
・・・彼と言っても何か、お兄さんのような存在で。
強くて、優しくてカッコイイ人。
―――・・・私の大切な男性。
昨晩、久しぶりに彼から、携帯に着信が入って、私は洗い物も後回しにそれに応対。
「はい、もしもし」
『おっ、。元気か?』
そう、声の持ち主は、数年前から刑事をやっている青年、捲簾。
「はい、元気です。・・・―――そっちは、大丈夫なんですか?」
と問えば。
『何が?』
あっけらかんと聞き返してくる彼。
「仕事ですよっ。し・ご・とっ!今、電話してもいい時間なんですか!?―――って聞いてるんですけど・・・」
『―――・・・あぁ。へーき、へーきっ!』
その"平気"が心配なんですけど・・・。
私は、その彼の返事に思わず溜め息が出てしまいそうになってしまう。
ちなみに、彼の上司は敖潤刑事。
沈着冷静で無口ですが、どんな怪・難事件でも、この方にかかれば、すぐ解決するということで結構、有名。
たしか、父親が元警視長だったとか。
だから、仕事中に電話なんかしてきて、後で叱られたりしないかとそちらの方で、私は心配せずにはいられなくなってしまう。
それに、ウマが合わないみたいで。
少しの空き時間に、見えないところで可愛く電話・・・などしていないだろう。
そういう男性なのだ、彼は。
『そうだった。・・・、明日だが時間あるか?』
「・・・あっ、はい。一応、空いてますけど・・・」
『ちょっと行きたいトコがあるんだけど、少し付き合ってくれないか?』
彼にしては、珍しく突然の誘い。
私はその時、別にこれと言って断る理由もなかったから、すぐに了解した。
「えっ?あっ、はい。勿論、いいですよ」
『さんきゅ。じゃあ明日、迎えに行くからよ』
「はい。じゃあ、また明日。おやすみなさい」
と私は、彼におやすみの挨拶をする。
普通の恋人達みたいに、おやすみのキスを交わさなくても、一緒に夜を共にしなくても、別に不満ではなく。
『おぉ。また、明日な。おやすみ』
携帯の通話ボタンをオフにしても、何故か、まだ余韻に浸っていたくなる愛しい声。
それで、今日、こうして2人して釣り道具店にいるわけですが。
これって、デートの内に入るんでしょうか?
まぁ、釣り道具店と言っても、大きな店ではなく、こじんまりとしていて彼の行きつけのお店です。
勿論、このお店の店主さんと仲が良く。
今だって、ほらっ。
釣りのことで盛り上がっているようです。
子供みたいに一生懸命になって。
少しの間、私はその彼の姿を微笑ましく見守ってました。
仕事では、絶対に見せない顔で話し込んでいる彼の姿を。
とその時。
いきなり彼の携帯がなって・・・。
「あっと、悪い。ちょっと、出てくるわ」
と、言って彼は店を出て行く。
そうして、少し間があいて外から聞こえてきた言葉。
「―――・・・あぁ。わかった。今そっちに向かうから」
どうやら、いつものように呼び出しがかかったようです。
私は一息ついて、店に戻って来た彼と向き合う。
「、悪ぃんだけどさ・・・」
言いにくそうに口を開く彼。そんな彼に私は、笑顔を見せてこう言った。
「わかってます。大丈夫。心配しなくても、一人で帰りますから・・・ね」
「あぁ・・・。じゃあ、行って来る」
と踵を返して、彼は店を出て行く。
私もその後に付いていく。店を出た時にふいに、彼は私を振り返って来た。
「おっ、そうだ。」
名前を呼ばれて、彼を見上げる私。
「はい?」
「今度、一緒に釣りをしに行かないか?分からなくても、俺がちゃんと教えてやるから」
その時、私は彼が少し、照れながら言ってるように見えた。
「もちろん。喜んで!」
「じゃあ、また、休みが取れそうになったら、連絡するからよ」
そう言い、近くの駐車場に止めてある車に乗り込む。
「・・・気をつけてね」
「あぁ。わかってるって」
こうして、私は車を発進させて現場に向かう彼を、満面の笑みで見送った。
彼の、釣りを楽しむ姿が見れるのは、ちょっと先のこと・・・。
そして、彼と結婚するのは―――――・・・。
E N D
いらない後書き。
はい、初の捲簾さん・現代版パラレル夢でした。
しかも、100のお題です。今回、一応、ヒロイン視点で話が進むカタチにしましたが・・・どうでしょうか?
何か、いつもと違う書き方だったので大変でした。大人の恋愛を目指してみました。でも、ヒロイン設定、ちょっと無視してたり。
わりと、さっぱり系ではないかと思いますが。
でも、最初から『釣りをするひと』はヒロイン視点で書くことに決めていたので。
ここまで、読んで下さって有り難うございました!御感想頂けたら、とても嬉しいです。苦情はお断り(苦笑)
2003.9.16.ゆうき