The  World

 

 俺は金蝉のように声が、心の声が聞こえないがために、大切な人を不幸にしてしまった。

 

このままだと、こいつも同じことに――――・・・。

 

くそっ!俺はどうしたらいいんだ!?

 

どうしたら―――――・・・?

 


「・・・―――?」

 

遠くで声が聞こえる・・・。誰だ俺を呼ぶのは。

 

「・・・ってば!」

 

「焔!?」

 

すぐ傍から、聞き慣れた声がすると同時に、俺はそれに気付いて、ゆっくり瞼を開ける。

自分の前には、是音や紫鴛のように、天界から付いて来た少女・の姿があった。

勿論、天界人であるため、姿形も少女のままなのだ。

 

「―――あぁ、か。どうした?」

 

は、腰に手を当て、何かに対して少しではあるが、怒ってるように見えた。

 

「もうっ!"どうした?"じゃないでしょ!?何回呼んだって気が付かないしっ!!」

 

「―――あぁ、悪い」

 

それが自分に対してなのだと分かり、俺はもう一度、目を伏せそう呟く。

は一息ついて、こう言った。

 

「寝てるように見えなかったから・・・声をかけたんだけど」

「そうか・・・」

 

いきなり、怒ったように見せた顔が、いつの間にやら心配そうな表情に変わっている。

いや、そこのところが、の可愛いらしさなのだ。

あやおく、その可愛い姿に笑いそうになってしまう。

 

何故・・・どうして、、お前もこんなに心配してくれるのだ・・・?

 

「汗かいていたし、何か、辛そうだったから・・・どうかしたのかなって」

 

そう言うと、は袖口を俺の顔に持ってきて、優しく額から滲み出している汗を拭き取った。

 

「・・・すまない」

「いいえ」

 

ニコッと柔らかく微笑む

本当は、言葉だけでは足りないのだが。

も同じく、全てを捨てて此処に居るわけで。

 

と出会ったのは、俺がまだ天界で、異端児として牢獄生活を、余儀なくされていた頃。

天帝に内緒で、その当時、仲が良かった監守に頼み、は牢獄を見学していた。

そして、まだ幼いこの俺と知り合ったのだった。

それから、は俺に会いに来るようになった。

どうせ、最初のうちだけだろうと、珍しいだけだろうと思っていたが、話していくうちに段々、という存在に惹かれていったのだった。

それから日中は片時も離れず、俺の傍にいてくれた。

傍と言っても、俺は牢獄の中。

なため、頑丈そうな檻を隔ててだったが。

それでも、俺は心強かった。

この時からだっただろうか、誰かが傍に居てくれることが、こんなにも嬉しいのだと。

 

そうして、俺が天帝の命で、先の闘神ナタク太子の後任として闘神に選ばれ――――・・・。

 

その後、天界に愛想をつかせ、下界へ是音や紫鴛を連れて降りようとした時、も一緒に"付いて行く"と言い出したのだった。

 

『何故、付いてくる?俺に付いて来ても後悔するだけだぞ』

 

と、俺はワザと冷たく振舞った。

そんな言い方に動じず、はこう言い放った。

 

『私もね、焔。焔が作った世界が見てみたいの。今さら後悔なんかしてたら、最初から貴方に会わないわよ?』

『――――・・・そうか』

 

そのの言葉に、俺はあえてその場で何も言わなかった。

それが、。お前の意思ならば・・・と思ったからだ。

 

「・・・俺が後悔してるなんてな・・・お前を連れてきたことを」

 

自嘲の笑みを浮かべて、そう呟けば、傍にいるが不思議そう顔をする。

 

「何か言った?」

「いや、何でもない」

 

俺は椅子から立ち、と視線を合わす。

 

「―――そっ、ならいいんだけど」

「あぁ」

 

そうだ、お前と一緒に新世界を見よう。

 

 

俺という、ただ一人の存在を認めてくれた、、お前に。

 

 

 

その世界をこの目で――――・・・。

 

 

                                   E N D

 

 

―――――――――あとがき―――

はい、初の焔短編ドリで、百のお題でございます・・・。

どうだったでしょうか?短くてすいません;

『The World』と聞いて、この題に合いそうなキャラは焔しかいない!と思ったので。

最初は三蔵一行の誰かにしようかと思ったんですけど。

前々から焔で、こういう話を書きたいなと。

それに、焔視点で、ヒロイン設定完全無視です。そして、またほのぼの(?)でございます。

最初は甘く書こうかと思ったのですが、書いてるうちに・・・;;

一応、場所は皆様知っての通り、コンランの塔でございます。

こんなのでも気に入って下さると嬉しいです。

ここまで読んで下さってありがとうございました。感想などありました、BBSまで。

 

                             2003.10.5.ゆうき