*壊れた時計*



〇その日は、久しぶりに宿屋に泊まることになり、は珍しいことに、八戒と同室という部屋割りになった。

そもそも何時もは、ジャンケンで部屋割りを決めている三蔵達とだったが、何故か、その日に限ってジャンケンではなく何を思っていたか知らないが、三蔵に勝手に決められてしまったのだった。

部屋に入り、2つあるベットの窓側に面している方を譲って貰い、は自分の鞄を整理し始めることにした。

少し経った頃、後ろでカタンッと何かが床に落ちる音がし、は振り返って床を見た。

の目に、金色の壊れた時計が入ってきた。

左斜めにひびが入り、針は1時23分を刻んだまま、止まっている。

振り返れば、八戒も同じく鞄の整理をしていた。

きっと、整理している時にでも鞄から落ちたのだろうとは思ったが、胸に何かがひっかかったような、そんな違和感を覚えた。

は、その時計を拾い上げて八戒に声をかけることにした。

 

「八戒さん・・・時計、落ちましたよ」

「―――あぁ、すみません。ありがとうございます」

 

と、八戒は苦笑混じりで振り返ると、の両手に乗っている時計を静かに優しく、包みこむように受け取った。

受け取る時に、は八戒の顔が一瞬曇ったのを見逃さなかった。

は、覚悟を決めて八戒本人から直接、過去に何があったのかを聞くことにした。

八戒の過去について、だいたいのことは悟浄に聞いていたが、本人から聞かないことには真実かが分からないからだ。

何故、八戒だけが気になるのだろうと不思議に思えて、は仕方がなかった。

 

それが、恋とも知らずに――――・・・。

 

「あのっ、八戒さん!」

「はい?」

 

と八戒は、整理している手を休めて何気なく返事をする。

 

「聞きたいことがあるんですけど・・・いいですか?」

 

おずおずと聞いてくるに、八戒は違和感を感じた。

 

「どうしたんですか?急に」

「・・・何で、その時計、壊れてるんですか?あのっ、失礼なのは百も承知なんですけど・・・!花喃さんのこと詳しく教えて下さい!お願いしますっ!!」

 

頭を下げてくるに八戒は驚き、少しの間、頭を下げ続けているを見た。

 

・・・本当にいいんですか?」

 

と念を押すようにに聞く。

は、顔を上げ静かに頷いた。

そして、八戒は一息つくとベットの端に腰を掛け、に自分の隣りに座るように促した。

 

真実を伝えるために―――――。

 


       *    *    *

 

「―――――・・・ということだったんです。、分かりましたか?」

 

冷静に話すつもりだったが、声が震えて、時々掠れているのが自分でも分かって八戒は情けなくなり自嘲の笑みをこぼした。

そして、一通り、話終えて天井を仰ぎ見て、心を落ち着かせるために静か呼吸をする。

隣りに座っているは、俯き押し黙ったまま動かない。八戒には、が何かを考えてるように映った。

 

「八戒さん・・・」

 

と、ふいにの口が開いた。

 

「あたし・・・花喃さんは、八戒さんが来る前に死にたかったんじゃないかと思うんです!」

「!?」

 

は続けてこう言った。

 

「でも、悲しいことに死ぬ方法がなかった、檻の中では。――――だから、八戒さんの持っていた短剣を使って死ぬしかなかった・・・!!」

と言い切ったは、涙が溢れてくるのを必死に堪えていた。

八戒は目を見開いて、の以外な意見に驚いていた。

 

そして、暫らく沈黙の後―――。

は静かに口を開くとこう言った。

 

「――――ごめんなさい・・・。こんなこと云える権利なんてないですよね・・・生意気言ってすいませんでした。・・・こんなヤツ、ひっぱたいちゃってくれても構いませんよ」

 

ここまで生意気な口をきいたのだから、平手の一発や二発覚悟していただったが、次の瞬間、その場で固まってしまった。

それは、八戒の頬を一筋の涙が伝い、落ちていくのを見てしまったからだった。

 

「・・・いいえ。今、こうして冷静に考えると、花喃は・・・そう思ってたのかもしれませんね」

「あのっ、八戒さん・・・」

 

は慌てて八戒に声を掛ける。

 

「いえ、いいんですよ。・・・お願いがあるんですけど、いいですか?」

 

八戒は、を自分と向き合わせると、の胸に額を押し当ててきた。

今、一番愛しい人に自分の辛く、痛々しい姿は見せられない・・・そう、八戒は思ったのだろう。

 

「・・・はっ、八戒さん!!??」

 

はいきなりの出来事に、顔を真っ赤にし困惑して鼓動が早まってしまう。

 

「少しの間だけ・・・このままでいて下さい」

 

八戒の声は掠れて、その時のには弱く小さく、まるでここから八戒が消えてしまうように聞こえたのだった。

 

「・・・はい///」

 

と顔を赤くし、耳まで真っ赤にしながらも返事を何とか返す

早く、落ち着かなければ・・・と思うほど、どんどん鼓動が早まる。

 

「ありがとうございます」

 

八戒の優しい声が耳に届き、落ち着いてくる。

ややあって、八戒はから離れて、途中になっている鞄の整理をしようとして向き直った。

 

「あのっ、あたしがもし・・・もし、花喃さんだったら、あたしも同じことをします」

「えっ!?」

 

しかし、いきなりのの唐突な発言に、また驚いて振り返る八戒。

 

「・・・だって、きっと苦しいし、それに愛しい人に―――・・・!!」

八戒は、その言葉を最後までは聞かずに、の身体を引き寄せて思い切り強く抱きしめる。

と、耳元で優しくこう告げた。

 

は、もうそんなことがないように、僕が必ず守りますから・・・だから、安心して僕を信じていて下さい」

「八戒・・・さん?」

 

八戒の腕の中で、今度こそ心臓が爆発するんじゃないかと思うぐらいにの胸は高鳴っていた。
 

そんな満月が綺麗な夜のこと・・・

二人は仲良く一つのベットに寄り添って眠りへと落ちていった。


 

 

八戒の、あの言葉を胸に抱きながら・・・。
                                                             

 

 

E N D

 

 

 

 

――――――――後書き。

  あーっ!!もう滅茶苦茶ですいません!!壊れてますね・・・;すいません。

初の桃源郷・八戒さん夢なので勘弁してやって下さい;

次回は必ず、しっかりとしたもの書きますから・・・!(泣)気に入って戴ければ幸いです。
 

                                      2003.4.12.ゆうき