手を繋ぐ


 

〇ある穏やかな晴れた日曜日。

は、八戒と隣り町の商店街へ買出しに行くことになり、八戒の愛車の助手席に座っていた。

この時期は、梅雨であるためにこんなすっきりした晴天に恵まれる日は滅多にないだろうとは過ぎ去っていく外の景色を眺めながら思ったのだった。

最近、自分1人で買い出しをしていたために、こういう誰かと一緒に出掛けること自体が久しぶりで、しかも八戒と行けるとは思っていなかったは、少し緊張してしまっていた。

 

「―――どうしました?」

隣りでいつもの優しい声がする。外の景色が止まった・・・と感じたは前を見る。

丁度、大きな交差点にさしかかり、信号機で止まっている処だった。

 

「・・・なっ、なんか久しぶりだなぁと思いまして。こうして、八戒さんと買出し行くのが」

と照れながらも言葉を順々に繋いでいくをその深緑の双眸で優しく見つめ、と視線が合うと八戒は、いつもの柔らかな微笑みでその言葉に応えた。

 

「そうですね。ここ最近、忙しくてに任せっきりでしたから。―――それに・・・」

「―――?それに・・・何ですか?」

と何か、八戒が言葉を続けようとしたことを不思議に思ったは、気になり聞き返す。

が、その時に信号機が変わり、安全を確認した後、八戒はアクセルを踏んで発進させる。

視線を前から逸らせずに、こう応えただけだった。

「何でもないです。・・・気にしないで下さい」

「・・・はぁ」

そう言われると、ますます気になったが、しかしはあえてその場では、無理に詮索しないようにした。

〇それから30分後、商店街の傍にある客専用の駐車場に車を止めて八戒とは商店街の門の前に来た。

そこは、まるで人の群れと化していて、何処に何があるのか分からなくなるほど混んでいた。

それも、そのはず、ここらでは人気のある商店街だ。

品質、安さでは他の商店街では敵わない場所なのだから。

それに、梅雨の中休みとも云える天気だ。

は、あまりの人の多さに気が滅入りそうになってしまう。

八戒が歩き出したのに気付いて慌ててその後ろについて歩き始める。

の顔は段々蒼褪めていった。ふいに先を歩いている八戒が立ち止まり振り返って来た。

 

「・・・、大丈夫ですか?」

「―――えっ?」

いきなり八戒に、そう心配されては驚いて目をパチクリさせて八戒を見た。

何故か、その時の目には、心配そうな八戒の顔が映った。

「顔・・・蒼褪めているように見えますけど・・・」

「えっ!そっ、そうですか!?―――大丈夫ですよ!・・・多分

はワザと笑顔を作り、元気に振舞ってみせるが、そこは流石、八戒。が無理をしていること自体見破っていた。

「あまり、無理して倒れないようにして下さいね」

「―――・・・はい」

と八戒に言われ、しゅんと肩を落としは力なく静かに答えた。

「それにしても・・・随分と混んでますね〜。下手をしたらはぐれちゃいそうですね」

八戒は辺りをぐるりと見渡す。人の群れで地平線が見えないくらいだ。

・・・」

と八戒の呼ぶ声がして、は気付いて八戒を見上げる。

「はい?」

この次の瞬間、は驚いて心臓が飛び跳ねてしまう。

「手・・・繋ぎましょうか?」

と言って、の前に右手を差し出す八戒。

「手、繋いだ方が、はぐれずに済むじゃないですか。それに、が今より気分が悪くなって倒れそうな時は僕に、もたれかかってきても良いですから」

「えっ・・・でっ、でも、そんなことは・・・」

と言って、は前に差し出された手のひらを見て躊躇してしまう。

「僕なら、一向に構いませんよ」

と、八戒は優しくの腕をとって、人の群れの中を歩いていく。

こんなトコ、三蔵達が見たら何と言うか。

隣りのは恥ずかしさのあまり、俯いてしまっている。

〇数時間後、何とかだいたいの物は買って、車へ戻る2人。助手席に座るとは一息ついて宙を仰いだ。

「疲れましたか?・・・結構、色々回りましたからね」

と八戒が運転席に腰を落ち着かせて、疲れているのではないかと思われるに優しい言葉をかけた。

「――あっ。大丈夫ですよ。迷惑かけてすいません」

は元気よく答える。

エンジン・キーを回そうとした腕が止まり、ふと思い出したかのように八戒は、口を開いてにこう聞いた。

「あっ、そうでした。行きに言い掛けた言葉・・・聞きたくありませんか?」

「えっ。あっ、はい」

の返事を待ち、少し間をおいてから、すっとの頬に右手を添えて優しく、静かにこう言った。

「―――それはですね。こういうことでもしないと、と2人っきりになれないんじゃないかと思いましてv」

「あっ、あのっ」

いきなりのことには顔を真っ赤にして戸惑う。

―――・・・愛してますよv」

と言い、八戒は優しくその唇にキスをした。

 

 


その2人の光景を西に傾いた太陽だけが静かに見守っていた・・・

 

 

 

                                                 END

 

後書き+++++++

久しぶりの八戒さん夢、しかも初の現代版です;何か、何の捻りもなくってすいませんm(__)m

このサブタイトルは・・・今回はありません;お題、そのまんまですから。最後まで読んで下さってありがとうございました!
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                                 2003.6.20.ゆうき