携帯電話


〇ある日の夕方、学校帰りの優気は一人で何もするでもなく、ただボーっと

自宅でもあるマンションと学校との中間地点であるこの駅の、出入り口にある大きな柱にもたれかかっていた。

ことの始まりは、丁度1時限目の休み時間。

いつものように優気は楽しく友人達と話をしていた。

とその時、優気は手元に置いてある携帯が振動し始めたのに気付く。

ディスプレイには見慣れた名前が表示される。

それに慌てふためいて、優気は席を立ち教室を出ようとする。

 

「なーに?優気、彼氏でも出来たの~?」

 

と一人の友人が、悪戯に笑いながら優気を、からかう。

優気は教室の出入り口で一旦足を止め否定する。

 

「ちっ、違うよ!そんなんじゃないってば!!」

 

と言えば、他の友人が口を揃えて優気に言葉を投げかける。

 

「「えーっ!?優気、ずっるーい!抜け駆けはナシだよ~!!」」
「――――・・・だから違うって!!」

 

そう言うと、急いで優気は廊下の隅で、まだ振るえている自分の携帯を通話可能にした。

その優気の姿をワザと意地悪い笑みを浮かべながら三人は見つめていた。

 

「・・・はいっ!もしもしっ」

『おっ、どうした?そんな息切らして』

 

優気の耳に聞き慣れた声が入ってくる。

慌てて出たためか、はたまた友人にからかわれたためか優気の心拍数は少し上がり、息を切らしていた。

 

「あっ、何でもないですっ!」

 

それに加えて、焦ってるようにも聞こえるだろう。

何故ならば、その相手というのは、優気が最も愛しいと想っている・・・そう、間違いなく沙 悟浄本人なのだから。

 

『今日、午後から暇か?』

 

と聞かれ、優気は悟浄の仕事の方が気になり聞き返す。

 

「え?悟浄さん・・・今日、お仕事の方は?」

『―――あぁ。今日は休みだからよ』

 

悟浄の仕事は、ホスト。

不定期に休みになることが多いが、途中、店の常連客から呼び出しをくらったりと結構、忙しかったりするのだ。

 

「あの、学校が終わってからになっちゃうんですけど・・・」

『それでも、いーぜ』

 

―――あぁ。いつもの声だ。この声、好きだな・・・。と優気は思う。

 

「じゃあ、次の授業が始まっちゃうんで、お昼休みにでもメールします」

『わかった。じゃあ、またな。・・・勉強、頑張れよ』

「―――・・・ありがとうございます」

 

と言って、携帯をしまい一息ついた優気に、三人はゾロゾロと寄って来て質問攻めを繰り広げる。

何とか、自分自身では適当に言ったつもりだったが、優気はポーカーフェイスではないため、顔に出てしまっているからどう理由付けて誤魔化そうとしたところで三人にはバレていることだろう。

そして、昼休みにメールで待ち合わせの場所と時間を決めた。

場所は、マンションと優気の通ってる専門学校の中間地点にある駅。

時間は五時半。

しかし、待ち合わせの時間より十分過ぎても三十分過ぎても、悟浄は姿を見せなかった。

何かあったのかな・・・?

優気は、悟浄に対する苛立ちより、先に不安が胸を過ぎってしまい、その場に立っていられなくなってしまう。

必死に今にも溢れそうな涙を堪える優気に時間は容赦なく過ぎて行った。

そろそろ日が沈み、辺りが闇に包まれようとしていた・・・

その時!

突然、自分の携帯が鳴り始めた。

この着メロは悟浄からのものだ。駅は人通りが激しくなり、周りの目もあって、優気は急いで応対した。

 

「あっ、あのっ。悟浄さん・・・!!」

 

今にも泣きそうな声で愛しい相手の名を呼ぶ。

 

『―――あっ、遅れて悪ィな。今、そっち着くから、階段の方見てろよ』

「へ!?」

『ああっ、そっちじゃない。こっちだ、こっち!』

 

と悟浄が言ってきたから、優気は改札口の中の、もう一方の階段を見た。

―――と、そこには。

 

『ようっ、待たせて悪ィ』

 

と人込みから、すまなそうに片手を上げてこちらに歩いて来る悟浄の姿があった。

悟浄は赤髪で結構、背も高く目立つ方だから、優気にはすぐわかった。

それに・・・。

しかし、悟浄は何故か携帯を耳元から離そうとはしなかった。

優気の目の前に来ても。

 

優気・・・」

 

と言った悟浄の声が携帯と重なる。優気を見て悟浄の表情が一瞬、曇った。

 

「・・・お前、泣いてたのか?」

 

悟浄の言葉に驚く優気。

 

「そっ、そんなことないです!」

 

と言って優気は俯く。

その優気の顔を、そっと優しく上げると悟浄は、空いている方の手で今にも溢れ出しそうな涙を拭ってやった。

優気は自分の鼓動が早くなるのを感じた。

 

「あっ、あのっ・・・!!」

「ん?」

「携帯・・・切った方がいいんじゃないですか?」

「―――おっと。そうだな」

と言い悟浄は携帯をズボンのポケットにしまった。優気も、鞄の中にしまう。

 

優気。これから俺が言うことを信じてくれるか?」

「えっ!?」

「――っと、その遅れた理由を・・・な」

 

少し、照れながら悟浄は自分を見上げている優気に言った。

 

「あっ、はい」

 

と返事をする優気。

 

「実はな。ちゃんと時間通りに家を出たんだぜ、だけどよ。途中でうちの店の常連に出会っちまって、御茶に誘われそうになった。」

 

と静かに淡々と話していく悟浄を静かに優気は見つめる。

 

「で、最初は丁重にお断り申し上げたんだけど、その客があまりにもしつこいもんだから、ついこう言っちまったんだ」

「―――?何て?」

 

「悪いが、俺には――――・・・」

 

とそこまで言いかけて、自分の携帯を取り出しすばやくメールを打つと送信ボタンを押して何処かへ送った。

優気は不思議そうに、その悟浄の行動を見ていた。

 

「えっ!?」

 

優気のメル着が、いきなり鳴り出す。

そして、優気がメールを開こうとディスプレイを覗き込んだと同時に悟浄が口を開いた。

 

「もう、こいつと決めた女がいる。そいつの名前は―――」

「そいつの名前は、優気・・・お前だ」

「へっ?」

 

優気は突然のことに驚いて悟浄を見上げる。

その悟浄の顔はいつもと違い、まさしく真剣そのものだった。

 

「嘘だと思うなら、今この場でお前に対する俺の気持ち・・・本当かどうか確かめてやろうか?」

「悟浄さんっ!?あまり、からかわないで下さい!!」

 

半分、悟浄が面白がって見えた優気は真っ赤な顔で言った。

 

「――――からかってなんかいないぜv」

 

悟浄はこう言うと少し、かがんで優気と目線を合わせると左頬に軽く口付けをした。

 

 

周囲の目も気にせずに。愛する者だけを見て―――――・・・。


 

                                                 E N D


 

後書き++++++
久しぶりの悟浄さん夢です!!しかも100のお題☆疲れました・・・;パソコンに打ってくのが(汗)
ちなみにサブタイトルは『近距離電話』ですvこの近距離電話、友人と何回やったことか・・・(苦笑)
こんなのでも楽しんで頂ければ嬉しいです!100のお題、次回は三蔵夢の予定です;

                                   

2003.6.17. ゆうき