のどあめ
〇朝から、は自分の体調があまり良くないと感じ始めていたが、まさか、この蒸し暑い季節に風邪を引くことになろうとは。
は、昼食を摂ってから、後片付けをしようと台所に立った後、後悔した。
夏風邪だ。いつ、うつったのだろうか。
そういえば此処最近、帰りが今までより遅いために帰宅ラッシュに巻き込まれていたのだ。
その人込みの中でうつった可能性もある。
又は、課題が大変で疲れていたから・・・。と、色々頭を中で風邪を引いた原因を、考えてみる。
それより、何より今は三蔵達に心配かけないということだ。
喉が・・・痛い。体も少しだるい気がする。
しかし、今日が日曜日で学校が休みということが、今のにとって唯一の救いだろう。
後片付けが終わったら、部屋に行って休もう・・・と考えていた時。
ガチャリ。
と廊下とこの部屋、リビングに繋がる扉が開いて、背の高い赤髪の青年、沙 悟浄がひょこっと顔を覗かせた。
「よっ、ただいま。」
突然の悟浄の姿に、は少し驚いたような顔をした。
そして、いつものようには『おかえりなさい』を言おうと思い、口を開くが。
「あっ、お・・・」
まずい、声が出ない。
喉でもやられたのだろうか。・・・どうしよう。この人だけには、絶対に迷惑かけたくないのに。困った・・・な。
「?・・・どうした?」
段々と顔が蒼褪めていく。そのいつもとは違う、の様子に、悟浄は顔を顰める。
「あっ。なっ・・・んでもっ・・・」
無理矢理、声を押し出そうとすればするほど、喉に痛さを感じ、もっと苦しくなってしまう。
心配そうに、自分を見つめる悟浄の顔が映った。
「・・・もしかして、風邪、引いたのか?」
「!!??」
その悟浄の言葉を聞いて、は目を見開いて驚いてしまう。
悟浄は、台所で呆然と立ち尽くしているの傍へ行くと、その額にそっと優しく手を添えて、自分の額にも空いている右手を持っていき、熱を測る。
「・・・熱はないか」
悟浄のその大きい手が、自分の前髪をかき上げて額に触れる。
は恥かしくなり、反射的に瞳を閉じてしまう。鼓動が少しだが、早くなる気がしたのだった。
「じゃあ、痛いトコはあるか?」
喉が痛くて声が出ないために、は必死で喉に指をさして訴える。
「喉・・・か。他に、吐き気とか頭痛とかはしないんだな?」
悟浄の問いに、コクンッと大きく頷いて見せる。
「・・・そうか」
と言って、悟浄は自分が、羽織っている半袖の上着のポケットから、のどあめを1つ出してに、それを手渡す。
「よしっ!すぐに薬、買ってきてやっから、それでもなめて、少し間だけ我慢して待ってろよっ」
は先ほど、悟浄に手渡された、のどあめをじっと見つめる。
『ありがとう』、『ありがとう』って言いたい・・・!『迷惑かけて、ごめんなさい』って・・・!!でも、声が・・・。
悔しさのあまり、両手をぎゅっと強く握りしめる。
すぐさま、悟浄は身を翻して財布を持つと、玄関に通じる扉を開け、出て行こうとした。
「ごっ、悟浄さんっ」
擦れた声で、必死になってが呼び止める。
悟浄は、足を止めのいる方向を見る。
そして、いつもとは違った、誰にも見せたことがない柔らかな表情でを見つめる、悟浄。
「・・・どうした?心配すんなよ。すぐ行って来てやるからさ。お前の看病なら、責任持って俺が看てやるから」
「ありがとうっ、悟浄さん・・・」
「―――・・・どういたしましてv」
と言って、リビングを出て行く悟浄。
その姿を見送ってから、は自分の頬を暖かいものが伝い、零れ落ちていくのを感じたのだった。
右手に、悟浄から貰ったのどあめを大切に握ぎって・・・。
E N D
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――あとがき
さて、100のお題 『のどあめ』はどうだったでしょうか?何か、最近短いですね・・・;普通の生活のワン・シーンみたいですね〜。結構、さっぱり系・・・?でも、またほのぼのなのか!?なんて、言われちゃいそうで、怖いです・・・(苦笑)ちなみに、管理人はのどあめ苦手です;あまり、舐めたことないなぁ〜。
では、こんなのでも楽しんで頂けたら幸いですv
2003.8.1.ゆうき