年中無休
いつもと変わらない、暖かな空気に包まれながら、は、天蓬元帥の部屋へ向かうために廊下を歩いていく。
窓の外に目をやれば、風に揺れ、桜の花びらがサワサワと静かに音をたて、毀れていった。
季節の関係ない、此処、天界では年中、桜が咲いている。
無論、死さえ存在しないため、見慣れた・・・
いや、正確には、見慣れ過ぎた・・・と云った方が正しいであろう、その桜の景色に。
ふう、と一息吐いて止めていた足を一歩前に動かし、進んでいく。
ここ最近、軍の動きが活発になってきているためなのか、天蓬は部屋を空けていた。
それは、軍大将でもある捲簾もそうなのだが。
闘神太子の不在が続く今、討伐などで、軍全体が1番、忙しい時期なのだろう。
勿論、借りていた本を返しに行くだけなのだが、天蓬元帥に捲簾大将の2人の元気な姿も見ておきたい。
以前、この両名に会ってから結構、時間が流れた気がする。
これじゃあ、まるで桜と同じ、年中無休な感じだなぁ。
今日は、顔、見れるといいな。
とは、歩きながら苦笑混じりでそう思うのだった。
そして、天蓬の部屋の出入り口でもある、扉の前に立ち、緊張しているせいなのか、少し乱れた息を整えて、静かにノックをする。
コン コン コンッ。
と、しっかり3回。
「天蓬さん。いらっしゃいますか?です」
「―――どうぞ」
すぐに、この部屋の主である天蓬から返事が返された。
どうやら、まだ今日は居るようだ。
は、その声にほっとして、扉を開いて入室する。
「失礼します・・・っと」
一礼し、顔を上げると、其処には天蓬の他に1名、の見慣れた人物がいた。
「よおっ、」
天蓬の机を背に、煙草を加えている西方軍、軍大将の捲簾が軽く手を上げ、挨拶をした。
「捲簾さんも、ご一緒でしたか」
そう言って、に、自然と笑みがこぼれる。
良かった・・・二人共、元気で。
「あっ、そうでした。天蓬さん、これ、借りていた本です。すいません、返すのが遅くなってしまって・・・」
天蓬の傍に歩み寄って、すっと本を差し出す。
「いえ、良いんですよ。気にしないで下さい。こっちも部屋を空けてたりしますから」
笑顔でそう言うと、そっとの手から本を受け取る。
「あのっ、また本の方、貸して頂きたいんですけど・・・」
「えぇ。構いませんよ、どうぞ」
優しい表情で答える天蓬。
「あっ、ありがとうございます!」
とは礼を言って、本棚と向き合い、自分の読みたい分野の本を探し始めた。
その姿を一瞥し、天蓬は一言こう言った。
「いいですねー」
傍らで、捲簾は残り少なくなった煙草を、灰皿に押し付けて聞き返す。
「―――?何が?」
何が良いんだ、一体??
という難しい表情を浮かべる。
「いや、何か、を見てるとですね・・・―――」
「あぁ、いいや。みなまで言わなくてもわかる」
天蓬の発言を遮るように、捲簾は片手を上げて、ひらひらと振ってみせる。
「―――・・・そうですか?」
「・・・何かよ、最近オヤジくさくなったなぁって思うんだけど?」
一息ついて、ストンッとその場に座り、上目遣いで天蓬と視線を合わせる。
「そんなことないと思うんですがねぇ」
捲簾のその言葉に、顎に手をつけて、笑顔のまま答える。
「・・・ ・・・」
自覚があるのかないのか、よく分からない天蓬に半ば呆れてしまう。
「あっ、天蓬さん。今度、これ貸して下さいねっ」
本棚から、天蓬と捲簾のいる方を振り返りは、微笑みながら文庫本を指差した。
「えぇ、良いですよ」
と返事をし、天蓬は改めてと話をしようと口を開いた、その時。
「―――失礼します!!」
西方軍の軍服を身に纏った、天蓬と捲簾の部下が敬礼をし入って来た。
どうやら、また"仕事"が出来たらしい。
「じゃあ、捲簾、行きますか」
「おう」
と捲簾は、腰を上げて体勢を整える。
「あっ。天蓬さんに、捲簾さん、気を付けて行って来て下さいね」
今までのように、無事に帰ってくることを願って、は二人に笑顔で声をかけた。
「――・・・さんきゅ」
にっ。と笑って、の頭を優しく撫でる。
「ありがとございます、」
天蓬も、笑顔を向けて答える。
「いいえ。私には、これくらいしか出来ないので・・・」
は、俯きかげんにそう呟くように言った。
「そんなことないぜ」
「そうですよ」
『は、よくやってるよ』
と捲簾は、続けてそう言ったのだった。
自分の任された仕事を、一生懸命やってればいい、とも思う。
自分が思うのも何だがな・・・。
「ありがとうございますっ」
「―――それじゃあ、行って来ますね」
「はいっ」
と言って、は、これから"仕事"に向う二人に、満面の微笑みを見せる。
しかし、捲簾と天蓬の彼らは、数歩進んだ所で何を思ったのか、急に立ち止まる。
「・・・?どうかしました?」
二人の様子が、不思議に思い、は声をかけてみた。
「大事なこと忘れそうになっちまったよ」
「そうですね」
二人の会話に、頭を傾げる。
そして、二人は、くるっ。と同時に、回れ右をし、が立っている場所まで戻ると、捲簾は左頬、天蓬はの右頬に、軽く口付けをしたのだった。
「えっ!?あっ、あのっ!!」
突然の二人の行動に、顔を真っ赤にし、戸惑ってしまう。
「んじゃあ、行って来るからよ」
「行ってきますね、」
と言って、パタンッと扉が閉められ、二人は扉の向こうに消えたのであった。
また、この部屋に三人の話し声が、聞こえる日が来ますように。
元気な姿が見れますように・・・―――。
それは、ナタクが闘神太子に任命される・・・数年前のほんの小さな出来事。
E N D
あとがき・・・
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。すっ、すいません。
途中、プツリと集中力が途切れてしまって・・・最後のシメがいまいちとなりました・・・(言い訳;)
久しぶりの外伝夢(天界版)となりました。そして、外伝では、初のコンビ夢でございます・・・。
相変わらず、ヘボくって申し訳ないです・・・;そして、やはり、ほのぼのですね;;
こんなモノでも、楽しんで頂ければ嬉しいです。
御感想などありましたら、BBSか、メール・フォームまで。
では、失礼致します。
2003.12.2.ゆうき