片足



 また今年も、雪が降る季節がやってきた。

いつものように、兄エドワードと弟のアルフォンスに、の3人は、図書館から宿へ戻って来る。

今回も、これと云う資料や文献などは見つからず。

宿の入り口付近まで来て、急に何を思ったのか、1人で散歩に行って来ると、アルフォンスとに言い残し、そこから飛び出して行ったエドワードは、まだ帰って来ない。

散歩や資料・文献の読み忘れ・・・にしては長過ぎだ。

あれから、2時間以上は経っている。

それに、この時間では図書館は、もうとっくに閉まっているはず。

それに、いくら遠くに出掛けたとしても、そろそろ戻ってきそうなものだが。

窓の外は、薄暗くなり、暗い夜の闇に包まれそうになっている。

は、段々と不安になり、エドワードを捜しに出ることにした。

勿論、が捜しに出てから、入れ違いにエドワードが戻って来るという可能性は、充分考えられる。

そのため、アルフォンスには宿へ残って貰わなければならない。

"エドを探しに行って来る"

と言ったに、アルフォンスは驚き、初めのうちは反対し止めるように、自分が捜しに行くと答えたが、

"大丈夫!"

と言う言葉に押し切られ、仕方がなくなかなか戻って来ない、兄エドワードを捜しに行って貰うことにしたのだった。
は寒くないように、しっかりと厚手のコートを羽織って、宿を出る。

そして、宿を出て、少し歩いたところで、粉雪が上空から花びらのように、はらはらと舞い降りてきたことに気付く。

そういえば、お昼前にこの街に着いた時から寒かったなぁ。

完全に、地面に積もる前にエドを見つけなきゃ。

と思い、歩く速度を早める。

しかし、色々な場所や道を見回って通って来たが、其処にエドワード本人の姿はなく。


あと、残るは・・・ ・・・と考えていた時、前方に見慣れた人影を見つける。

ここの街は、傾斜が激しく、それゆえに公共の階段も少なくない。

は、目の前にある階段を思い切り、掛け上がって、そこの場所から静かに、階下の町並みを見下ろしているエドワードに、そっと近付き・・・声をかける。

 

「・・・エド!」

 

「!?――うわっ!?・・・なっ、なんだ。か」

 

突然、に声をかけられたことによって、エドワードは虚をつかれ、動揺してしまう。

 

「なんだ・・・じゃないでしょ!?散歩行ったっきり帰って来ないんだもん!心配になったから、捜しに来たんだよ」

 

・・・それにしても、珍しいなぁ〜。エドがあんなに驚くとは。

 

いつも、だいたいのことには冷静でいるエドワードだから、尚更だ。

勿論、1部の出来事は抜かしてだが。

 

「あっ、あぁ。悪い」

 

何か、ぎこちない様子で返事をする。

その時のには、いつもの元気なエドワードに見えなかったのだ。

そして、あることに気付いて問いかけてみる。

 

「―――・・・何でエド、こんな所に登ってるの?」

 

"危ないよ?"と付け足して、は手すりの役目を果たしている石づつみを指す。

本当は、違う何かが頭に引っかかったのだが、聞いても否定されるだけだと思い、聞くのを止めたのだった。

 

「あぁ、ちょっとな」

 

そう一言だけ答えると、ふいっとエドワードは視線をから外す。

 

「ふーん・・・」

 

言いたくないならいいや。

 

そんなエドワードを一瞥して、はエドワードの横に立つため、そこに足を掛けて登ることにした。

 

「よいしょっと・・・」

 

両腕で全身を支えて、勢いよく上がる。

 

「あっ、おいっ。危ないだろっ!?」

 

隣りに登ってきたに驚いて、エドワードは思わず声を大きくしてしまう。

こいつの行動にはいつも驚かされてばかりだなぁ。と心の中で呟く。

 

「大丈夫だよ。そんなに高くないもの」

 

はエドワードと視線を合わせると、ニコッと優しく微笑んでみせた。

 

「―――・・・あのな・・・そういう問題じゃなくて・・・」

 

エドワードは呆れ果てて、はぁ〜と深く溜め息をつく。

"まったく・・・"と独りごちると、また視線を階下に広がる町並みに戻す。

その視線は、何処に向けられているのだろうか?

エドワードの目は、一体何を捕らえているのだろうか?

隣りで静かに、何もすることもなく、ただ立ち尽くしているエドワードの姿を、は見ているだけで胸が切なくなってきてしまう。

また不思議な感覚にもおそわれしてまうのだった。

 

「ねぇ、見て見てっ、エド!」

 

隣りで声がかかる・・・。

エドワードは、何気なく声のかかった方を向く。

 

「ほらっ。片足立ち!!」

 

「!?」

 

は片足を上げ、バランスをとるために両腕を地面と水平に持ってくる。

 

「おまっ、・・・バカっ!!それじゃあ、もっと危ないだろ!?早く降りろよっ!!」

 

の行動に目を見開き、思わず怒鳴ってしまう。

エドワードにしては、珍しく焦っているようだ。

 

「やだよっ!エドが先に降りてよねっ!」

 

べーっと舌を出す

 

「・・・ ・・・仕方ねぇな」

 

こんな所で自分が言い返して口ケンカに発展しても、しょうがないため(止める役が不在だけなのだが)エドワードは渋々、そこから降りることにした。

ひょいっと軽く、ジャンプをし地面に着地してを振り返る。

 

「ほらっ、降りてやったから・・・お前も早く降りろよな」

 

エドワードは左手をに差し出し、早く降りるように促した。

 

「あっ、うん!ありがとう!!」

 

とお礼を言って、エドワードの左手に掴まろうと身を屈めようとした、その時!

ズルッ!!

と足が滑って、上体が傾く・・・。

 

!!」

 

「えっ!?うわぁ!!??」

 

やばいっ、落ちるっ!!

 

と思い、反射的に目を瞑ってしまう。

しかし次の瞬間、ぐいっ!と、自分の腕を力強く引っ張ぱる感覚があり・・・どさっ!

勢いあまって、二人はその場に倒れ込んでしまう。

 

「いっ、ててて・・・。大丈夫か??」

「あっ・・・うん・・・」

 

エドワードの声がする・・・。

どうやら、自分は間一髪のところで助かったようだ。顔を上げるだが。

 

「!!??」

 

エドワードの顔が間近にあって・・・この瞬間、は自分のいる状態に驚いてしまうのだった。

 

「あっ!?ごっ、ごめん!!今、どくから・・・」

 

はそう言うと、慌てて顔を赤くし、エドワードの上から身を起こして退こうとする。

が、背中にエドワードの腕が、まわったままで動けないことを知る。

 

「ちょっ・・・エド!?腕、放してよ」

 

"これじゃあ、動けないし、エドが重いでしょ!?"

必死になって、うったえている。いつの間にやら、耳まで真っ赤になっている。

 

「・・・やだっ」

 

と一言。エドワードは、あっさりと言い放った。

 

「なっ、なんで!?」

 

「・・・本当に、お前は危なかっしくて見てらんねぇよ」

 

「ごっ、ごめんなさい・・・」

 

そうエドワードに言われて、はしゅんっと力なく項垂れる。

 

「まぁ、怒ったわけじゃないけど」

 

それから、少し間があり、エドワードが口を開いた。

 

「それに・・・今、この腕、放したらさ・・・お前が何処かへ行ってしまいそうで・・・正直、怖いんだ」

 

「エド・・・」

 

エドワードは、静かに目を閉じてこう告げる。

には、エドワードがその腕に自分を抱きながら、歯をくいしばって、必死に、自分の中から溢れ出そうな、何かに堪えているようにも見えた。

 

「よっこらしょっと!」

 

反動をつけて、上半身を起こし、自分の腕の中にいると視線を合わせる。

 

「―――・・・やっぱ・・・」

 

「・・・?」

 

静かに、はエドワードの、次の言葉を待つ。

 

「やっぱり、オレが傍にいなきゃダメみてーだな」

 

「ごっ、ごめん・・・」

 

と俯いてしまうに、エドワードは、ふうっと、一息ついてこう続けた。

 

「別に怒ってるわけじゃないけどさ。ただ、お前にはオレが必要じゃないかと思って」

 

「あっ。・・・うん」

 

は、エドワードの言葉に、ゆっくりと頷いてみせる。

いつの間にか、雪が本降りになり積もり始めていた。

 

「それじゃあ、帰るか」

 

「うん!そうだねっ」

 

その後に、

 

"ありがとう、エド。大好きっ!!"

 

が満面の笑顔で付け足すと、エドワードの頬がほんのりではあるが、赤く染まっていた。

 

エドにも、あたしが必要になるように頑張るから・・・


 

 

 

                                       E N D

 

あとがき・・・

 今回は、久しぶりの百のお題からの夢となりましたね;

相変わらず、ヘボくてすいません。今回は、切なくて甘い感じを目指してみましたv

何か、最後が青春っぽくなってしまったような気が致しますが;

それでは、こんなものでも気に入って下されば嬉しいです。

御感想などありましたら、BBSまで下さると、とても嬉しいです。では、失礼致します。
 

                                         2004.1.30.ゆうき