階 段




 あの時、ニーナとタッカー氏の件で、冷たい雨にうたれながら、軍部の入り口付近でエドワードが言い放った言葉が、今でも耳に残ってしまっている。

・・・そして、痛い。

何か、耳に纏わりついているような感覚だ。

 

"人間なんだよっ、        たった一人の女の子さえ助けてやれない"

 

・・・違う。

 

"ちっぽけな人間だ・・・ ・・・!!"

 

それは、違う・・・!そんなことはないっ・・・!!エドは――・・・!

 

あの場所で、何度も言いたかった言葉。

しかし、エドワードの横顔を見た瞬間、は身体全体が氷ついたように動かなくなってしまい・・・何も言えなかった。

その日の夜から、目を閉じるとエドワードの言葉と、あの時の表情が浮かんできてしまい・・・

眠れなくなってしまう。

今まで、短い間だが一応、エドワードという少年を、人物を理解してきたつもりだったのだが。

弱い部分を見ていなかったようで。

 

まだまだ、ダメだな・・・あたし・・・と、は急に自分が情けなくなり、嘲笑う。

きっと、目の下にクマが出来ていて格好悪くなっているんじゃないかとも思うのだった。

夜明けが近いためか、辺りは段々に薄明るくなってきている。

このまま、もう少しの間、此処で過ごそうかと思い、は宿の非常用の階段で、寒さを凌ぐために小さく蹲る。

勿論、目は瞑れない状態で、ただ目の前が変に暗い・・・ ・・・その中で。

 

結構、寒いな。此処・・・ ・・・。

 

暫らくして、カタッ。と、のすぐ後ろで物音がする。

それに、驚いたはビクッ。と肩を震わせると、恐る恐る振り返る・・・。

 

・・・こんなトコにいたのか」

 

そこには、肩を上げ下げし、息が荒いエドワードの姿があった。

は、すぐさま顔を背ける。

 

「・・・なっ、何で、此処が分かった・・・の?」

 

そのままの体勢で、は呟くように擦れた声を出す。

丁度良い時刻になったら部屋に戻って、分からないように気付かれないようにしていたのに。

 

「わからないでか?」

 

ニッ。と笑ってみせるエドワード。

そして、静かにに近付こうとしたが。

 

「来ないでっ!!」

「―――!?!!??」

 

急に声を上げるに、エドワードは驚いてしまう。

 

いやだっ!来ないで、見ないで・・・こんな姿・・・見られたくないっ!!

 

すっ。と立ち上がり、その階段を勢いよく走って下りようと、足を前に出した・・・その時!

 

「きゃあっ!?」

 

「おっ、おい!?」

 

あれから、三日二晩、一睡もしていない(正確に云えば、一睡も出来なかったのだが)状態だったために、足元がふらついてしまい、階段を思い切り踏み外してしまったのだ。

きっと怪我してる・・・下手すると―――・・・。

 

「―――・・・

「・・・?」

 

自分を呼ぶ声がする・・・。聞き慣れた声。

 

・・・」

 

もう一度、自分の名前を呼ばれて、はすっと目をゆっくり開けてみる。

 

「・・・ ・・・エド!?」

 

エドワードの声に、ハッとする

 

「あぁ。大丈夫みたいだな」

 

エドワードは、の様子に安心したのか、ふう。と息をつく。

は、どうやら階段から落ちる瞬間に、エドワードに助けられたらしいことが分かった。

しかし、冷静になって、自分の状態を確認するべく、考えてみると・・・エドワードの吐息が自分の耳元でするではないか。

それと同時に自分の前に回された左腕・・・。

 

「!!??」

 

それに気付いた、は瞬間的に頭の中が真っ白になり、自分の体温がどんどん上昇していくのがわかった。

顔が熱くなる・・・。

そうなのだ、はエドワードに、後ろから抱きしめれる形で助けられていたのだ。

 

・・・」

 

静かにエドワードが口を開く。

身体全体が熱くなり、心臓のように、ドクンッ、ドクンッと振動しているような感覚になる、その中では返事をした。

 

「・・・なっ、何?」

 

「オレなら平気だ。だから、心配すんな」

 

ズキンッ・・・!!

今でもエドの声が、胸に響いて痛いよ・・・ ・・・。

 

「でっ、でも・・・!!」

 

「無理するなと言っただろ?」

 

あの時から、この三日間、が無理をして明るく振舞っていたことなど、エドワードとアルフォンスのエルリック兄弟にはお見通しで、全部わかっていたのだ。

以前、エドワードがに言ったように、無理はして欲しくはない。

―――・・・そう無理だけは。

暫らく、間があいてが、ゆっくり口を開いた。

 

「うん・・・でも、あたし、アルのことも好きだけど・・・エドも大好きだから・・・!あんな顔してほしくないし・・・」

 

最後まで伝えたくて、伝えられなくて。

どう言ったらいいのか分からないまま、その場で、の言葉は泣き声に変わってしまうのだった。

 

「・・・

 

ぎゅっ。

 

とエドワードは、その胸に抱いているを離さないように、腕に力を込める。

 

「―――・・・わかった。オレ、もっと強くなるよ。いや、強くならなきゃならないんだ。きっと・・・。このままじゃ格好悪いしな・・・」

 

エドワードは、苦笑い混じりでそう言った。

 

「エド・・・」

 

は、オレ達、兄弟にとって大事な仲間でもあるし・・・オレ自身にとっても大切な―――・・・」

 

と、エドワードは続けてこう言う。

 

「大切な存在なんだ」

 

その言葉が嬉しくて、は自分の目の前が滲んでしまい、涙が溢れてきてしまう。

 

「ごっ、ごめんね。エド・・・いつもいつも・・・」

「いや、いいんだよ」

 

と優しく答えて、エドワードは自分の腕の中で、泣いているの耳元に唇を持ってると、そっと軽くキスをした。

 

・・・」

「・・・ん?」

 

「朝日だ」

 

と、いつも間にか、東の空に見え始めている朝日を、エドワードは空いている機械鎧の右腕を上げて指を差す。

 

「本当だ・・・綺麗」

 

「今日も、元気に頑張ろうなっ!」

 

柔らかい笑顔を向けるエドワード。もつられて笑顔になる。

 

 


あたしも、エドに負けないように強くなるから――――・・・。

 

 

 


                                                      E N D


あとがき・・・

 お粗末様でした。変な展開ですいません;;今回も、100のお題でエドワード夢になりました。
一応、話のジャンルとしてはシリアス+甘めな感じですが・・・;最後、ほのぼのになってますね;
鋼錬・・・ドリーム書きやすいですねv書いていて楽しいですし。
次回からは、違うキャラのドリームでも書いていきたいと思っております;
アルフォンスを始め、ハボック少尉、ロイ大佐、ヒューズ中佐など。
あまり期待は出来ませんが、楽しみにして待って頂けると嬉しいです。
では、ここまで読んで下さってありがとうございました。
御感想などありましたら、BBSかメールフォームまで下さい。
それでは、失礼致します。
                              2003.11.24.ゆうき