かみなり

 


 汽車の中、窓側の座席のは、暗雲たちこめる空を窓越しに見上げて、呟く。

何処まで、広がっているのだろうか?この薄気味悪い雲は・・・。

また、変な事件が起こらなければいい。そう思わずにはいられなかった。

 

「・・・雨、降りそうだなぁ」

 

いつものように、次の街へ発つこととなった、兄で国家錬金術師のエドワード(またの名を鋼の錬金術師)と錬金術師で弟の、アルフォンス・・・とそのエルリック兄弟が旅の途中で知り合った、と言う少女。

 

「あっ、本当だ・・・今にも降ってきそうな空だね」

 

と向かい側に、座っているアルフォンスも、遙か上空に広がっている漆黒の雲を見上げる。

前の街から、この汽車に乗り込む時には、まだ晴れていたのだが。

 

「次の街まで、もってくれるといいけどな」

 

の隣りで、足を組み直して座っているエドワードは、とアルフォンスのように空を見ずに、汽車の天井を見つめながらそう言った。

 

「「・・・そうだね」」

 

エドワードの意見に、自然と声がはもる、とアルフォンスの二人。

 

「「ん?」」

 

暫らくの沈黙・・・。

 

 

その沈黙を破ったのは、だった。

 

「!?―――って、エド!!いつ起きたの!?」

 

ひどく驚いたは、思わず声を張り上げてしまった。

先ほどまで、隣りで・・・の肩を借りて眠っていたはずのエドワード。

最初は、普通に寝ていたのだが、段々と頭が横にずれていって、の肩にもたれかかってきたのだ。

いきなりだったため、驚いただったが、気持ちよく寝ているようだから、そのままにしておいた。

いつもではないのだが、街の図書館で文献や資料など読んでいて、そのまま徹夜してしまうと、決まって列車の中では寝てしまうのだ。

 

「―――・・・そんなに驚くことか?」

 

そんな、の様子に、エドワードは少し呆れながら、頬杖をついてこう言った。

 

「だって、さっきまで寝てたから・・・」

 

"だから、びっくりしたんだよ"

と、聞こえるか聞こえないかの小さな声で続ける。

 

「あぁ。の寂しそうな声がしたから、起きたんだけど?」

 

ワザと少し意地悪な、ような笑みを浮かべてと視線を合わせる。

 

「・・・?私、そんな声出してなかったよ!?それに・・・」

「それに・・・?」

 

の反応に、面白がって聞き返す。

そのエドワードに、向かい側で『兄さん!』とアルフォンスが睨みつける。

まるで、"で遊ぶな"と言ってるようだ。

 

「なっ、何でもないっ!!」

 

は、赤くなりながらも強く言い切って窓の外へ視線を移す。

 

 

それに・・・エドのことが気になって仕方が無かったんだ。

心臓が、ドキドキしてて。

寂しいとか思う暇なかったような気もするし・・・。

 

「オレには、聞こえたんだ」

 

と、エドワードはそう一言答える。

そう言った、エドワードの表情は何だか悲しそうに、には見えたのだった。

 

「・・・そう」

 

何だか、エドに心読まれてるみたい・・・。

自分の真実の心を・・・。

 

 

 

 

 

 それから、数分経たないうちに、雨が降り出してきてしまった。

次の街に、無事に降り立った三人だったが、駅の外の、土砂降りの雨に愕然としてしまう。

 

「やっぱり、降ってきちゃったか・・・」

 

は、外で止みそうにもない土砂降りの雨を一瞥し、こう言って、ふうっと溜め息をついた・・・

その直後のこと。

 

ピカッ!

 

と一瞬、辺りが光り、空には閃光が走り、それから、ほどなくしてゴロゴロッと天が唸った。

これは、間違いなく"かみなり"だ。

の一番苦手なモノでもあるし音でもある。

 

「―――・・・っつ!!」

 

反射的に、ビクッと身体が震え、目を閉じてしまう。その音を我慢するように、自分両手を強く握りしめて。

こんなことで騒いなんかいられないし、怖がっていたらこの先やっていけない・・・

それに、エドワードとアルフォンスにも迷惑がかかってしまうような、そんな気がしたからだ。

そのの異変に、隣りに立って外を眺めていたエドワードは気付いて、声をかけてみる。

 

?どうした?」

「・・・ ・・・」

 

しかし、からは、何も反応がなく。

よく見ると、身体全体が小刻みに震えていることが分かった。

 

「おい!?・・・どうかしたか?」

 

もう一度、の名前を呼んでみた。

 

「・・・え?あっ、ごめん!何でもないよ」

 

『あははっ』と苦笑混じりで、誤魔化そうとする

 

「もしかして、かみなりが怖いのか?」

 

だが、エドワードの鋭い発言で、糸も簡単に見破られてしまい、は慌ててしまう。

 

「!?そっ、そんなことないっ・・・けど」

 

・・・やっぱりエドには、敵わないなぁと思ってしまうだった。

 

「―――・・・無理すんな」

 

とこう一言。

 

「え?」

 

その意外な言葉に、驚き、顔を上げて隣りにいるエドワードと目線を合わせる。

 

「無理しなくてもいいって言ってるんだ」

 

と、優しくそう言って、すっとの右手を取り、ぎゅっと握りしめる。

その握りしめられた自分の右手からは、エドワードの体温が伝わってくるような気がして、は自分の顔が熱を帯びているような感じがし、俯いてしまうのだった。

 

「ごめん・・・ね」

 

半分泣きそうになりながら、必死に涙を堪えて、感謝の意味を込めて謝る。

その時のには、エドワードが大人っぽく見えたのだった。

 

「・・・いいや」

 

"気にすんな"とエドワードは、そう付け加えた。

 

「兄さん、どうしようか?」

 

漆黒の暗い空を見上げて、アルフォンスは兄であるエドワードに聞いてくる。

 

「あぁ、そうだな。―――・・・じゃあ、まず此処を出よう」

「そうだね」

 

暫らく、降っていそうな雨を見つめながら、アルフォンスは兄の意見に返事を返す。

 

「えっ!?」

 

目を見開き驚いてしまうのは、ただ一人。

 

「さぁ、行くぞ!!」

「えっ、でっでも・・・」

 

二人の行動にその場で、躊躇してしまう

そんなにエドワードと、アルフォンスの二人は、優しい言葉と柔らかい表情を投げかける。

 

「大丈夫!オレがいるからっ!!」

「ボクもいるから、大丈夫だよ」

 

「!―――・・・そうだね。ありがとう」

 

 

二人に出会えて、良かったよ・・・本当にありがとう。

 

 

それから、三人は雨も、かみなりも気にせず、近くの宿まで走って行った。

 

 

 

勿論、エドワードは、と繋いだその手を離さぬように強く握って・・・。

 

 


                                       E N D

後書き・・・

はい、お初の『鋼の錬金術師』のエド・ドリーム(でも、エリック兄弟かな;;)でした。
いつもの如く、ほのぼのでございます;
はまってから、こんなにすぐに書けるとは思ってませんでしたので、自分でも驚いています。
楽しく書かせて頂きましたv『鋼の錬金術師』ドリームは増やしていく予定です!
ので、どうぞ宜しくお願いしますね。・・・多分、エド夢中心になりそうですが;
こんなモノでも楽しんで頂ければ嬉しいですv御感想などありましたら、BBSまで。

                                2003.11.19.ゆうき