肩越し
太陽の日差しに当たるだけで、全身が溶けていってしまいそうな暑い夏が終わり、辺りの木々や遠くに見える山などが、秋色に染まり始めた頃。
丁度、その日は、とエドワードのそれぞれ、所属している各部活動(は演劇部・エドワードはバスケット部)が、共に休みということもあり、二人は、いつもの歩き慣れた道を下校していた。
と、その途中。
話が一旦いい具合に切れたところで、ふと、何かを思い出したらしく、エドワードが口を開いた。
「なぁ、・・・」
「?何?」
普段と変わらず、柔らかな表情で返事をする。
その表情を見たエドワードは、思わず、ドキッとしてしまう。
幼い頃から、抱いていた恋心が、との再会をきっかけに、じょじょに膨らんできたようだ。
―――・・・さて、どうしたもんかな。
天を仰ぎながら、そう考えてみた。
誰にも渡したくないのも、また事実で。
この気持ちを、想いを、いつ、しっかりとの前で、素直に伝えることが出来るのだろうか。
「・・・エド?どうしたの?」
自分から、声をかけておいて、中々切り出さない(正しくは、切り出せない)で、その場で立ち止まってしまったエドワードの顔を、はそっと覗き込む。
「―――・・・えっ、あっ。わっ、悪ィ。ぼーっとしてた」
が呼んでから、少し間が空き、エドワードはその声にハッと我に返る。
心配そうな顔つきで此方を見つめているが、自分の目に映り、その瞬間、胸が、軽くではあるが痛むような気がした。
「・・・エドでも、ぼーっとする時もあるんだね」
"エドって、何か、何事に対しても何時も一生懸命でいるから、ぼーっとはしないかと思ったよ"
は、自分の言葉に、そう付け足すと優しく笑う。
「そっ、そうか?」
少々、焦りながら、わざと視線だけをから逸らして、そう答えた。
エドワードは、自分の頬が少し熱を帯びているような気さえもし、それは、相手、側から照れているようにも見えた。
「――うんっ」
また、笑う・・・今度は満面の笑顔で。
「―――っと、そうだ。それより、」
「ん?」
半分、その時に伝えたかった言葉が、おやおく飛んでいきそうにもなりながらも、エドワードは改めて、こう切り出した。
下手すると、自分の理性もトビそうになる可能性もない訳でもなく。
「確か・・・今日、帰りに買い物、頼まれてなかったか?」
「・・・―――!!あっ!?」
今度は、の方がハッとして、思わず声を上げてしまう。
朝、母親から今日、帰りが早いようだったら買い物へ行くようにと言伝られていたことを思い出す。
「・・・忘れて・・・ただろ?」
半ば、呆れながらも、しょうがないという面持ちで、エドワードはそう言ってみる。
「―――そっ、そうだった。ごっ、ごめん。すっかり忘れてました」
しゅんっ。と、は、元気なく項垂れるようにして俯く。
そんなも、可愛いなと、心の片隅でエドワードは思ったりもする。
「やっぱりな、そうだと思ったぜ」
ふう。と、息を吐いて、軽く笑う。
"オレが言わなかったら、そのまま家へ直行!みたいな感じだったからな"
こう言って、エドワードは、"うんうん"と一人で頷いてみせる。
「・・・ねぇ、エド。悪いんだけど・・・」
おずおずと、言い難そうに口を開く。
「買い物、一緒に付き合って・・・だろ?」
の言いたい言葉を、一発で言い当てみせるエドワード。
そして、"ビンゴだなっ!"そう言い、右手の一指し指を、ピッとに向ける。
「うっ、うん。・・・あっ、でも、嫌だったら、別に構わないからね」
エドワードの言動に、驚きながらも軽く頷き、すぐに、両の手を左右に振って、強制ではないとことを必死で表わす。
「―――別に、嫌とは言ってないぜ?」
ふっ。そう意地悪く笑ってみせる。
勿論、の反応を気にしながら。
「・・・あっ、そうなら良いんだけど。じゃあ、早速、行きましょう!」
は、そのエドワードの返事に、ほっとして胸を撫で下ろす。
そして、その場から右に90℃方向転換し、足を一歩手前に踏み出した。
「あぁ。―――ちょっと、待てよ」
相槌をうち、何かに気付いたらしく、エドワードは、に待つように声をかけた。
は、言われた通り、足を止め、振り向く。
「・・・?どうしたの?」
「買い物って、いつものスーパーだろ?」
不思議な顔つきをするに対して、エドワードは、一応、目的地のスーパーであることを、確かめるように聞き返す。
「うん、そうだよ」
"あっ、やっぱり嫌だった?"
そう控えめに、は言葉を付け加える。
「違うって。あのスーパー、この時間帯、結構、混んでるだろ?」
エドワードは、自分の持っていた携帯電話で時間を確認し、出来るだけ、を傷つけないように、言葉を選んで、優しい口調で返事をする。
「あっ、そういえば・・・」
行き慣れた場所のためか、混雑する時間を、だいたい把握出来る。
ややあって、エドワードは途切れながらもこう言い出す。
「・・・だから・・・さ、迷わないように・・・こうした方が良いんじゃないのか?」
「えっ!エド・・・?」
エドワードは、自分の右手を手前に出すと、の左手を優しく包み込むように、手を取る。
それから、目的地である方向に進んで行く。
「さあ、行くぞ」
エドワードの行動に戸惑いながらも、は握り締められている左手に目をやる。
一歩前を歩いている、エドワードの表情は、伺い見ることは出来ないが、両耳が、ほんのり赤く染まっているように、にはそう見えたのだった。
「あっ、うん。・・・でも、エドの方こそ・・・」
「ん?」
の言葉に、エドワードは一旦、立ち止まり、肩越しに振り返る。
「エドの方こそ、迷わないでね」
「なっ!?バッ、バカヤロ。オレが迷うかよ!?」
エドワードは、そのの発言に、思わず顔を真っ赤にして、声を張り上げた。
「ふふっ、わからないよ〜」
まるで小さい弟を、からかうように、そう言って笑ってみせる。
「とっ、とにかく、行くぞ!!」
「はい、はい」
に、自分の気持ちを・・・
―――どうやら、本当の想いを伝える日は当分、先のような・・・そんな気がしてしまうエドワードだった。
E N D
メッセージ:此処まで読んで下さって、ありがとうございました!
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2004.10.30.ゆうき