White Summer Heaven <NO.63 でんせん>
いつもの年より蒸し暑い、ある夏の晴れた日。
地区内の蓮妃女子高へ通っていると、丁度、中学3年と云う受験の年になっていたアルフォンスは、少し離れたコンビニへ足を運んだ。
が母親から
"コンビニへ行ってくれないか?"
と、使いを頼まれているところへ、タイミング良く、アルフォンスが居間に入って来た。
「一緒に行きましょうか?さん」
優しく、声をかけるアルフォンスに、と母親は"気にしなくて、いいから"と声を揃えて答えた。
それは、受験生の身であるアルフォンスに、気を遣ってのことだったのだ。
「私が頼まれただけだから・・・アルは気にしなくていいよ。勉強、大変なんでしょ?」
そう、は続けて、買う物を確認するべく母と向き直る。
「実は、ボクも兄さんから頼まれていて、コンビニへ行こうかと思っていたところなんです」
「え・・・、エドに?」
アルフォンスの発言に、きょとんとして、は聞き返す。
偶然なのだろうか?それとも―――・・・。
「はい。だから、さんさえ良ければ、一緒にと・・・」
照れているのか、恥ずかしそうに、少し俯きながら、アルフォンスは其処で言葉を区切った。
一通り、二人の様子を見ていた母は、
"じゃあ、アルくんの言葉に甘えさせて貰おうかしら"
そう言って笑うと、少々戸惑い気味のと視線を合わせる。
「えっと・・・うん。じゃあ、一緒に行こうか」
相手が照れているようだと、自分も恥ずかしくなってきてしまい、言葉が途切れがちになってしまう。
まるで、伝染・・・移ってしまったような、そんな気が、その時のにはしたのだった。
いつの間にか、上機嫌になっている母親に、促され(・・・正しくは、押し出された)とアルフォンスは家を出る。
暫らくしてから、辺りが急に薄暗くなり始め、今にも雨が降り出しそうな天候に変化した。
先ほどまでの太陽の眩しさが嘘のようだ。
「何だか、夕立ちでも、きそうな感じになってきたね」
濃い灰色の雲に覆い尽くされ、淀んできた空を見上げて、は呟くように隣りを歩いているアルフォンスに言った。
「あっ、本当だ。降る前に店に入らないと・・・傘、持ってこなかったし」
アルフォンスも、空を見上げると、そう答えた。
「じゃあ、急いだ方がいいよね」
そう言うと、は歩く速度は少し、速めて進んでいく。
アルフォンスもに続いて、足早に歩いていった。
そうして、何とか、雨が降り出す前に、目的地であるコンビニに、到着した二人だったが・・・いつまで経っても雨の止む気配はなく。
あまり、その場に長居する訳にはいかず、仕方がなく会計を済ませ、店先で雨宿りをすることにした、とアルフォンスの二人。
「ねぇ・・・アル」
「さん?」
ポツリと、小さく自分の名を呼ばれ、隣りのに目を向ける。
「今さっき、傘・・・ビニールのだけど、買っておいたんだ」
すっと軽く、持ち上げて見せる。
「じゃあ、さんが濡れる心配はないですね」
"良かった"
と笑顔になるアルフォンスだったが、隣りのは、一点を見つめているだけで、笑う気配を見せなかった。
「アル・・・差していいよ。私が濡れて帰るから」
「えっ・・・?さん?」
何処か、寂しそうに無理矢理笑うに、自分の胸が切なく苦しくなってくるを感じる。
それと同時に、の発した言葉に、アルフォンスは思わず、驚いてしまうのだった。
「だって、受験生に風邪、引かせる訳にいかないじゃない?そうなったら、怒られるは私だし。だから・・・」
「さん・・・」
"はい、どうぞ"
そう言うと、は、透明無色のビニール傘を差し出した。
「・・・さんは、ボクが受験生だから・・・風邪を引かせたくないだけなんですか?」
「あっ、アル・・・?」
そう、問われて、今度はの方が驚いてしまった。
差し出された傘を、優しく返すと、アルフォンスは真剣な表情で口を開いた。
「ボクは・・・怒られるとかじゃなく、さんのことが大切・・・大好きだから・・・こんな冷たい雨に好きな人を濡れさせる訳にはいかないんです」
受験生としてではなく、自分自身をもっと見て欲しい・・・アルフォンスは、そう思っていた。
もし、これが叶わない恋だとしても・・・。
「えっと・・・アル・・・?」
あまりにも、唐突な発言だったため、はその場に立ち尽くしてしまう。
気のせいか、頬が温かい・・・熱いような感じを覚える。
アルフォンスの方も、頬が赤くなっているように見えるのだった。
「・・・あっ、ごめんなさい。こんなこと言うつもりじゃなかったんですけど・・・」
言った本人も、自分の言葉に驚きを隠せずに焦ってしまう。
「・・・ ・・・」
「そのっ、迷惑でしたよね。困らせてしまって・・・本当にごめんなさい」
どう言ったら、良いのか戸惑ってしまっているに、慌てながら謝り、アルフォンスは言葉を繋いでいく。
「きっ、気にしないで・・・」
アルフォンスが、そう言い掛けた、瞬間。の両腕が、自分の首から背中に回って・・・
「!?」
一瞬、何が起きたのか把握出来なかった。
アルフォンスはの行動に、瞳を見開いて驚いてしまう。
たしかに、の、両の腕が背中に回されていて、お互いの身体が触れ合う位置に、そして、の髪がふわっと自分の頬を擽り・・・そこで、改めて、自分が抱きしめられていることに気付いたのだった。
「アル・・・」
「・・・・・・さん?」
ただ、その場で棒立ちに近い感じになってしまっているアルフォンス。
何とか、声を押し出すことが出来た。
此処は・・・自分も抱きしめた方が良いのだろうか・・・。
触れた方が良いのだろうか・・・。
だが、触れたら、愛しさのあまり、自分がどうにかなりそうに思えてきてしまい、アルフォンスは、なかなか行動に移せずにいるのだった。
「ありがとう・・・。すごく・・・嬉しい」
ポツリ、ポツリと耳元で囁かれる、愛しい人の声。
「さん・・・」
もう、自分の耳には、煩い雨音さえも届かない・・・。
届くのは、貴女のその声・・・。
「えっと・・・あっ!ごっ、ごめんね。いきなり抱きついちゃって」
は慌てながら、ぱっとアルフォンスから身を離す。
「そのっ・・・さん。ボクなんかで良いんですか?」
控えめな言葉使いで、照れ笑いでいるに聞いてみる。
「アルなんかじゃなくて・・・アルだから良いんだよ」
少し、間を空けては笑顔で、そう言葉を返した。
ふいに、は何かを思いついたらしく、ポンッと手の平を合わせる。
「ねぇ、アル・・・耳貸して」
「えっ?あっ、はい」
そう言われて、アルフォンスは不思議に思いながらも、言われた通りに近付き、耳を傾ける。
「アル・・・大好きっ」
「・・・!!」
予想もしていなかった言葉に、アルフォンスは目を見開いて驚いてしまう。
微かだが、身体全体に心音が鳴り響いているような感覚にもおそわれる。
「―――っと、あっ!雨、止んでるよ」
「本当だ・・・」
今まで、降っていた雨が通り過ぎたようで、辺りはまた日の光りで明るくなっていた。
の声に、アルフォンスは、晴れ渡った空を見上げる。
「アル・・・じゃあ、帰ろう!」
「・・・はいっ!」
タッと、一歩前に出て、此方を振り向いて笑う。
その姿が眩しくて、まるで、お日様が優しく微笑んでいるかのように、自分には見えたのだった。
そう・・・ボクだけの暖かいお日様――――・・・。
E N D
後書き>>
はい、此処まで読んで下さって、有り難うございました。初の、アル夢にして、現代版・パラレルでした。
いっ、いかがだったでしょうか?気に入って下されば良いのですが。
ちなみに、アルの口調は、ワザと丁寧にしてあります。下手するとヒロインとかぶりそうなので;
ヒロインの方が三歳年上の設定ですので。今回は、ほんのり甘めな感じになりました。
御感想などありましたら、BBS又はメール・フォームにて下されば嬉しいです。
それでは、失礼致します。
2004.8.19.ゆうき